血中カフェイン濃度が高い人はBMIと体脂肪量が低く、二型糖尿病リスクも低下する可能性がある

科学
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私たちの日常生活に欠かせない飲み物であるコーヒーや紅茶には、最早お馴染みのカフェインが含まれています。

 

多くの人にとって、眠気を覚ましたり集中力を高めたりする目的で摂取する馴染み深い成分ですが、近年の研究ではそれ以上の健康効果やリスクが注目されています。

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所、イギリスのブリストル大学、そしてインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームによって行われた最新の研究では、血中のカフェイン濃度が体脂肪量や二型糖尿病のリスクに大きく関わる可能性が示されました。

 

世界中で日常的に消費されているカフェインの健康への影響について、これまでよりも一歩踏み込んだ理解を提供しています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Caffeine in Your Blood May Affect Body Fat And Diabetes Risk, Study Shows(2025/09/05)

 

参考研究)

Appraisal of the causal effect of plasma caffeine on adiposity, type 2 diabetes, and cardiovascular disease: two sample mendelian randomisation study(2023/06/31)

 

 

研究の背景と目的 

  

これまでの疫学研究では、中程度のカフェイン摂取が心血管の健康や体脂肪の減少と関連することが報告されてきました。

 

しかし、それらの研究の多くは観察研究にとどまり、「カフェイン摂取が本当に原因なのか、それとも別の要因が影響しているのか」という因果関係の確証を持つことが難しいという課題がありました。

  

そこで本研究では、遺伝的要因を活用したメンデル無作為化(Mendelian randomization)という手法を用い、血中カフェイン濃度と体脂肪率、さらに糖尿病リスクとの因果関係をより明確に検証することを目指しました。 

 

 

研究の方法 

研究チームは、既存の大規模遺伝データベースから約1万人分のデータを抽出しました。

 

焦点となったのは、カフェイン代謝に関わる遺伝子であるCYP1A2と、それを制御するAHRのバリエーションです。

 

これらの遺伝子に変異がある人は、カフェインを体内で分解するスピードが遅くなるため、血中に長くカフェインが残る傾向があります。

 

しかし興味深いことに、分解が遅い人々は一般的にカフェイン飲料の摂取量自体は少ないこともわかっています。

 

研究では、こうした遺伝的特徴を利用することで、カフェインの体内濃度と健康リスクの関連性を因果関係として推定することが可能となりました。

 

 

主な研究結果 

Appraisal of the causal effect of plasma caffeine on adiposity, type 2 diabetes, and cardiovascular disease: two sample mendelian randomisation studyより

  

研究の結果、遺伝的に高い血中カフェイン濃度を持つ人は、BMI(体格指数)が低く、体全体の脂肪量も少ない傾向があることが明らかになりました。

 

 さらに重要なのは、二型糖尿病のリスクが有意に低下していた点です。

 

 研究者たちは、この糖尿病リスク低下の効果のおよそ半分が、体脂肪減少を介したものであると推定しています。

 

一方で、心血管疾患(心房細動、心不全、脳卒中など)との関連は見られなかったと報告されています。

 

これまで一部の研究でカフェイン摂取と心血管疾患リスクの低下が関連するとされてきましたが、本研究の遺伝的アプローチではその因果関係は確認されませんでした。

 

 この点については、研究デザインや対象集団の違いなども影響している可能性があり、まだ明確な結論には至っていません。

 

 

カフェインの作用メカニズムの考察

  

研究チームは、カフェインが体内の熱産生の効率を高め、脂肪酸の酸化(β酸化)を促進することで、エネルギー消費を増やし体脂肪を減少させるのではないかと推測しています。

 

これは、カフェインの代謝作用が体重管理に寄与する可能性を示唆しています。

 

しかし一方で、研究者自身も論文内で強調しているように、短期的な試験では体重や脂肪量の減少効果が確認されているものの、長期的なカフェイン摂取の影響は不明であるという点に注意が必要です。

  

 

研究の意義と今後の課題

この研究は、日常的に消費されるカフェインが肥満や糖尿病リスクにどのように関与しているのかを解明するうえで、大きな一歩となりました。

 

特に、カロリーを含まないカフェイン飲料(無糖コーヒーや無糖紅茶など)が、肥満や糖尿病予防の一助となる可能性が示唆されたことは、公共の健康戦略にとって重要な知見といえます。

 

ただし、研究者たちも指摘しているように、メンデル無作為化の手法には限界があり、すべての交絡因子を完全に排除できるわけではない点に注意が必要です。

 

したがって、今後はランダム化比較試験(RCT)による検証が不可欠であると考えられます。

 

ブリストル大学の遺伝疫学者であるBenjamin Woolf氏も、「ノンカロリーのカフェイン飲料が肥満や二型糖尿病のリスク低減に寄与するのかを明らかにするためには、RCTの実施が必要だ」と強調しています。

  

 

カフェイン摂取の注意点

最後に忘れてはならないのは、カフェインにはプラスの効果だけでなくマイナスの影響も存在するということです。

 

過剰摂取は不眠、心拍数増加、不安感などを引き起こす可能性があります。

 

今回の研究は「血中濃度」を基準にしているため、単純に大量のカフェインを摂取すれば良いということではありません。

 

あくまで「遺伝的に血中カフェイン濃度が高い人」に観察された結果であることを理解する必要があります。

 

本研究は、カフェインの健康への影響について、従来の知見を強化しつつも新たな課題を提示しました。 

 

結果をそのまま生活習慣に適用するにはまだ早いものの、今後の研究が進めば、適切なカフェイン摂取量のガイドライン策定や糖尿病予防の新たな戦略につながる可能性があります。

 

 

まとめ

・血中カフェイン濃度が高い人はBMIと体脂肪量が低く、二型糖尿病リスクも低下する可能性がある

・心血管疾患との関連は確認されなかったため、この点についてはさらなる研究が必要

・カロリーゼロのカフェイン飲料が糖尿病予防に役立つかどうか、今後RCTでの検証が求められる

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