ホットドッグやポテトチップス、チキンナゲットや炭酸飲料など、現代社会では「超加工食品(UPFs)」と呼ばれる食品が容易に手にすることができます。
20023年に発表された東京大学による調査では、日本人の摂取エネルギーのうち少なく見積もって27.9%、多く見積もって42.4%が超加工食品とされています。
一方、アメリカにおいてはそういった食品の摂取量割合が多く、食生活全体の最大70%が超加工食品で構成されていると推定されており、その割合は年々増加傾向にあります。
超加工食品は、製造過程で多数の添加物が加えられ、見た目や味を良くし、保存性を高めるよう工夫されていますが、その一方で健康への影響が懸念されています。
近年では特に、心疾患との関連性が強く疑われている点が大きな注目を集めています。
今回はそんな超加工食品と、心疾患についての研究がテーマです。
参考記事)
・Spotlight on UPFs: NIH explores link between ultra-processed foods and heart disease(2025/05/05)
参考研究)
研究背景:超加工食品と心疾患の関連

国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute, NHLBI)の心血管科学部門でプログラムディレクターを務めるAlison Brown博士は、「超加工食品(以下UPFs)の多くは、飽和脂肪酸、添加糖、ナトリウムを多く含んでいる。これらはすでに心疾患の危険因子として知られており、UPFsの摂取が心疾患を悪化させる大きな理由の一つである」と述べています。
Brown博士によれば、この分野の研究は進展しているものの、依然として複雑であり、未解明の部分が多いといいます。
そのため、アメリカ国立衛生研究所(NIH)およびNHLBIが中心となり、UPFsと心疾患の関連メカニズムを解明する大規模な研究が開始されました。
大規模研究が示したリスク ― 200,000人超の追跡調査
NHLBIの支援を受けた研究チームは、これまでで最も包括的かつ大規模な調査の一つを実施しました。
この研究には、20万人以上のアメリカ人を対象とした前向きコホート研究と、120万人分の健康データを用いたメタ解析が含まれていました。
結果として、UPFsの摂取量が多い人ほど、心血管疾患リスクが顕著に上昇していることが判明しました。
具体的には、UPFs摂取が最も多い層は、最も少ない層と比べて以下のようなリスク上昇が認められました。
Ultra-processed foods and cardiovascular disease: analysis of three large US prospective cohorts and a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studiesより 【リスク上昇】
・心血管疾患リスクが17%増加
・冠動脈性心疾患リスクが23%増加
・脳卒中リスクが9%増加
【表から読み取れる内容】
・高UPF摂取は心血管疾患リスクの上昇と有意に関連
総心血管疾患、冠動脈性心疾患、脳卒中のすべてにおいて、最上位分位の摂取者は最下位の摂取者に比べてリスクが高まっていることが示唆されている
・複数コホートの統合解析による強固な信頼
NHS、NHS II、HPFS は性別や時期が異なるため、解析には性・世代にわたる一般化可能性が期待される
・共変量調整
生活習慣や既往歴などを幅広く調整しており、UPF自体の影響が比較的純粋に抽出されている
研究の共著者であり、ハーバード大学医学部の教授であるJoAnn Manson博士は、「我々の研究は、UPFsが心疾患と関連しているという強力な証拠を提供した。しかし、すべてのUPFsが同じ危険度を持つわけではない」と強調しています。
全てのUPFsが同じではない ― 食品ごとのリスク差
研究チームは、食品ごとに心疾患との関連を分析しました。
その結果、最もリスクが高いとされたのは、砂糖入り飲料や加工肉(ホットドッグ、ハム、ソーセージなど)でした。
一方で、比較的リスクが低かったのは、シリアル、ヨーグルト、全粒穀物を用いた一部の食品でした。
この差は、使用される添加物や加工方法の違いに起因している可能性があると考えられます。
過食のメカニズム
代表的なUPFsの添加物としては、高果糖コーンシロップ、部分水素添加油、亜硝酸ナトリウム、人工着色料などが挙げられます。
観察研究によってUPFsと心疾患の関連が次第に明らかになりつつありますが、科学研究における「金字塔」とされる無作為化比較試験(RCT)は、まだ不足しているとさrています。
例外的に、2019年に実施されたNIH支援の小規模臨床試験があります。
この研究では、同じカロリー量を含む食事を比較した際に、UPFs主体の食事を摂取した被験者は、最小限加工の食事を摂取した場合よりも明らかに多く食べ、体重が増加することが示されました。(NIH study finds heavily processed foods cause overeating and weight gainより)
この結果は、UPFsが肥満を引き起こし、それが心疾患リスクを高める可能性を裏付けるものです。
この2019年の研究を主導したのは、国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, NIDDK)のKevin D. Hall博士です。
彼は、「我々の研究室は、なぜUPFsを食べると人々が過剰にカロリーを摂取してしまうのか、そのメカニズムの解明に注力している。もしその仕組みが理解できれば、過食を引き起こす特定のUPFsを減らし、心疾患リスクを軽減できるかもしれない」と述べています。
さらにHall博士は、カロリー摂取とは独立したメカニズムも存在すると指摘しています。
たとえば、慢性炎症、免疫系の不調、腸内細菌叢の変化などが心疾患リスクに影響する可能性があるとされています。
これらの要素については、今後の臨床試験でさらに検証が進められる予定です。
広がる健康被害 ― 心疾患以外への影響

UPFsの問題は心疾患にとどまりません。
研究の蓄積により、肥満、高血圧、二型糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんなど、数多くの疾患との関連が報告されています。
さらに、UPFsの摂取は社会的格差とも関連していることが示されています。
所得が低い層ほどUPFsを多く摂取する傾向があり、その背景には新鮮な果物や野菜へのアクセスの難しさ、価格の高さといった要因があります。
Brown博士は、「完全にUPFsを排除することは難しいが、摂取量を減らす努力は必要。残念ながら現状では逆に消費が増えており、心疾患の多いアメリカにとって望ましくない方向である」と警鐘を鳴らしています。
その上で、UPFsを減らす具体的な方法として以下を提案しています。
・食品ラベルをよく確認すること
・全粒穀物、果物、野菜を中心とした食事を選ぶこと
・飽和脂肪酸、添加糖、塩分の多い食品を制限すること
今回の研究を通じて明らかになったのは、超加工食品が心疾患リスクを高めるだけでなく、食品ごとにその影響度が異なるという重要な事実です。
しかしながら、研究の多くは観察研究にとどまっており、因果関係を直接証明する臨床試験はまだ不足しています。
そのため、現段階の知見には一定の不確実性が残っている点にも注意が必要です。
まとめ
・超加工食品(UPFs)の多量摂取は、心疾患リスクを有意に高める可能性がある
・すべてのUPFsが同じリスクを持つわけではなく、加工肉や砂糖入り飲料が特に危険度が高い
・過食、炎症、腸内環境の変化など複数のメカニズムが関与している可能性があるが、今後さらなる臨床試験が必要



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