高齢期の慢性疾患を遅らせる鍵は「食事」にあり──15年間の追跡研究が明かす老化の速度との関係

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アルツハイマー型認知症や糖尿病、がんやうつ病など、高齢者に病気はつきものというのが現在の常識です。

 

しかし、全ての高齢者がそういった病気に悩まされるのはなく、ある人は健康なままで過ごしています。

 

病気になる高齢者とそうでない高齢者。

 

一体その差を生んだ要因は何だったのでしょうか。

 

この疑問に対する有力な答えとして、食生活が浮かび上がっています。

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所・高齢化研究センターによる新たな研究では、15年間にわたり2400人以上の高齢者を追跡調査し、食生活と慢性疾患の進行との関係を詳しく分析しました。

 

その結果、一貫して健康的な食生活を送っていた人は、そうでない人に比べて慢性疾患の発症が遅いことが明らかになりました。

 

特に、加工肉や精製穀物、糖分を多く含む飲料など、いわゆる「炎症を引き起こす可能性の高い食事」を多く摂取している人は、慢性疾患がより早く、かつ多く積み重なる傾向が見られました。

 

今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Study Reveals Key Way to Slow Chronic Illness in Old Age(2025/07/29)

 

参考研究)

Dietary patterns and accelerated multimorbidity in older adults(2025/07/28)

 

 

慢性疾患と老化に関わる食生活の4つのパターン

この研究では、以下の4種類の食事パターンを対象に、病気の蓄積速度との関係が検討されました。

1. マインドダイエット

→脳の健康維持を目的とした食事

 

2. オルタナティブ・ヘルシー・イーティング・インデックス(AHEI)

→病気のリスクを下げるとされる食品群に基づく評価法

 

3. 地中海式食事法

  

4. 炎症性の高い食事パターン(加工肉、砂糖、精製穀物などが中心)

 

その結果、MINDダイエット、AHEI、地中海式食事法のいずれも、慢性疾患の進行を抑える効果があることが分かりました。

 

Dietary patterns and accelerated multimorbidity in older adults より

 

反対に、炎症性食品を多く含む食事パターンは、病気の発症が早く、複数の疾患が同時に現れる可能性が高いことが示されました。

 

 

特に抑制効果が大きかった疾患群 

研究チームによると、最も顕著に抑制効果が見られたのは心血管疾患と精神疾患でした。

 

つまり、健康的な食生活を続けていた人は、心不全、脳卒中、うつ病、認知症などの発症リスクが明らかに低くなっていたのです。

  

一方で、関節炎や骨粗しょう症といった筋骨格系の疾患との明確な関連性は確認されませんでした

 

この点に関しては、今後さらに詳しい研究が必要だと研究チームは述べています。

 

 

高齢でも効果がある:78歳以上の参加者にも変化が 

特筆すべきは、健康的な食生活の恩恵は高齢者全体に及ぶということです。

 

特に、78歳以上の高齢者においてもその効果は顕著であり、「高齢になってからでも食生活を変えることは遅くない」と研究者たちは強調しています。

 

また、女性の方が健康的な食生活の恩恵を受けやすい傾向も示されました。

 

  

なぜ食生活がこれほどの影響を及ぼすのか? 

 

その理由の一つは、「慢性炎症(inflammaging)」と呼ばれる加齢に伴う軽度の炎症です。

 

加齢とともに、身体のあちこちで慢性的な炎症が起きやすくなり、これが様々な慢性疾患の引き金になります。

 

野菜、果物、全粒穀物、健康的な脂質(ナッツや魚など)を中心とした食事は、この炎症を抑える効果がある一方で、加工食品や砂糖の多い食事は炎症を助長します。

 

さらに、健康的な食事は免疫機能の維持、筋肉量の保持、認知機能の支援にも貢献し、これらが老化の速度に大きな影響を与えると考えられています。

 

  

60以上の疾患を追跡した包括的な長期研究 

この研究は、食事と健康寿命との関係を調べた中でも最も長期かつ包括的な研究の一つとされています。

 

参加者には複数回にわたる食事評価が行われ、さらに60種類以上の慢性疾患について詳細に追跡されました。

  

また、結果の信頼性を高めるために異なる統計手法による検証も行われ、一貫した傾向が確認されています。

 

 

健康寿命を延ばす「具体的な食事内容」とは? 

 

研究では、高齢者が摂取すべき具体的な食品群についても示されています。

 

【積極的に摂取したい食品】

• 野菜、果物

• 豆類、ナッツ

• 全粒穀物

• 魚を由来とする健康的な脂質

  

【控えたい食品】

• 赤身肉や加工肉

• 加糖飲料(100%果汁のジュースも含めて)

• 固形脂(バター、ラードなど)

 

これらはすべて、今回の研究で評価された健康的な食事パターンに共通する特徴でもあります。

  

この研究が示すように、健康的な食生活は単なる病気予防にとどまらず、「老化のスピード」にも影響を与える重要な要素です。

 

食事だけで全ての健康問題が解決するわけではありません。

 

運動や社会的つながり、医療へのアクセスも大きな役割を果たします。

  

しかし、「より良い食事を選ぶ」ことは、誰にでも比較的簡単に始められ、かつ健康の根幹を改善することができる実践的なアプローチです。

  

  

まとめ

・一貫した健康的な食生活は、慢性疾患の発症を遅らせ、老化の進行を緩やかにする

・高齢者でも食生活の改善は効果的であり、特に心血管疾患や精神疾患の予防に有効

・野菜、果物、全粒穀物、魚などを中心とした食事が、老化に伴う慢性炎症を抑え、健康寿命を延ばす可能性がある

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