科学

「水だけの断食」が人間の身体に及ぼす意外な影響とは?豪シドニー大学らが実験で解明

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近年、SNSを中心に「水だけで過ごす断食(水断食)」の健康効果が注目を集めており、ダイエットやデトックスの手法として広まりつつあります。

 

しかし、これらの情報を鵜呑みにして無計画に断食を行うことには、深刻な健康リスクが潜んでいる可能性があります。

 

このたび、シドニー大学を中心とした国際的な研究チームが、「水のみの断食」が人間の身体に与える影響を詳細に分析した研究結果を発表しました。

 

本研究では、10日間にわたり水以外を一切摂取しない断食を行った20人の被験者の身体反応を追跡し、断食中の体内変化を明らかにしました。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Experiment Reveals What Prolonged Fasting Actually Does to The Human Body(2025/06/08)

 

参考研究)

Prolonged fasting promotes systemic inflammation and platelet activation in humans: A medically supervised, water-only fasting and refeeding study(2025/04/21)

 

  

断食中の体重は大きく減少、だが副作用も……

 

研究に参加した被験者は、全員が医学的に「過体重」と判断された成人であり、10日間にわたり水のみを摂取して生活する断食プロトコルに従いました。

 

その結果、被験者の平均体重は7.7%減少し、外見的にも顕著な変化が現れました。

  

しかし、その一方で、頭痛・不眠・低血圧などの副作用が報告されました。

 

特に低血圧による立ちくらみや体調不良は多くの被験者に共通しており、「単に食事を抜くだけ」というイメージとは異なり、身体が相当なストレスを受けていることが示唆されました。

 

 

炎症マーカーの上昇──期待とは逆の結果に

本研究の主目的は、「水断食が炎症を抑えるかどうか」を明らかにすることでした。

 

研究代表であるLuigi Fontana医師は、「長期間の水断食は炎症を抑えると仮定していた」と語っています。

  

ところが、実験の結果はその仮説に反するものでした。

   

被験者の血漿中に含まれる炎症関連タンパク質を調査したところ、C反応性タンパク(CRP)インターロイキン8(IL-8)など、炎症を引き起こすタンパク質の濃度が有意に上昇していたのです。

 

Fontana氏は次のように述べています。

  

私たちの仮説とは逆に、長期の断食は身体にストレスを与え、炎症を引き起こすタンパク質を増加させた。これは、心血管系に既往症を抱える人々にとって深刻なリスクとなりうる可能性がある

 

つまり、長期間の断食が身体にとって逆効果となり得ることが示されたのです。

 

 

アルツハイマーや筋肉分解には一部ポジティブな効果も

注目すべきは、すべての生体指標が悪化したわけではないという点です。

 

実験では、筋肉や骨を分解する関連タンパク質のレベルが減少していたほか、アルツハイマー病と関連の深いアミロイドβタンパク質も減少する傾向が見られました。

 

これは、断食が神経変性疾患のリスクをある程度軽減する可能性を示す初期的な兆候とも受け取れますが、サンプル数の少なさと対象者の偏り(全員が過体重)を踏まえると、現時点で断定的な結論を下すことはできません

 

研究チームも、「これらの変化がどのような健康影響をもたらすかについては、さらなる検証が必要である」と強調しています。

 

 

断食による「急性炎症」は生体の適応反応か、それとも危険信号か?

 

研究者たちは、断食中に起こる炎症反応が、一時的な適応機構である可能性も視野に入れつつ、再摂食後にもこの炎症状態が継続するリスクに懸念を示しています。

 

実際、論文では以下のように記されています。

 

長期間の断食中に見られる急性炎症反応は、一時的な生理的適応である可能性があるが、再摂食後においても持続する心代謝的影響を残す可能性があることに注意が必要

 

したがって、一時的な反応か、慢性的な問題に発展するかを見極めるためにも、長期的な追跡研究が不可欠です。

 

 

インターミッテント・ファスティング(間欠的断食)との違い

近年は「インターミッテント・ファスティング(断続的断食)」の研究が進み、細胞老化の遅延や炎症の抑制、疾患リスクの低下などのポジティブな報告が多く見られています。

 

Fontana氏もこれに言及しつつ、「水だけの断食(長期断食)」と「間欠的断食」は明確に区別されるべきであるとしています。

 

今回の研究では、前者においては予想に反し炎症の増加という結果が出ており、どのような断食方法が安全で効果的なのかについて、今後さらなる比較研究が必要であると述べています。

 

 

誰にでも当てはまる「断食法」は存在しない

本研究を通じて明らかになったのは、「断食は個々の体質や健康状態に大きく依存する」という現実です。

 

身体のエネルギー供給を断つ行為は一見単純に思えるものの、実際には身体に大きな負荷を与え、炎症や代謝への影響を及ぼす可能性があります。

  

Fontana氏は最後に次のように警鐘を鳴らしています。

  

多くの人々が体重管理の効果的な方法を求めているが、水のみの断食がもたらす影響は劇的である一方で、長期的な身体への影響については、さらなる研究が求められる

 

健康的な生活を目指す上では、断食を安易に取り入れるのではなく、医学的な指導のもとで計画的に実施する必要があるということが改めて示されました。
  

 

まとめ

・長期間の水断食は一時的な体重減少をもたらすが、炎症やストレスを増加させるリスクも存在する

・炎症性タンパク質の上昇により、心血管系疾患を抱える人には危険が伴う可能性がある

・断食法には個人差が大きく、必ず医師の指導のもとで行うべき

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