科学

プロバイオティクスで腸の健康を整えると気分も改善される?

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腸内環境と精神状態との関連性は、近年注目を集めているテーマのひとつです。

 

腸脳相関という言葉が囁かれている昨今、過去の研究では、腸内に生息する何兆個もの微生物、いわゆる「マイクロバイオーム」が脳の働きに影響を与える可能性があるとされてきました。(Gut Microbiome–Brain Alliance: A Landscape View into Mental and Gastrointestinal Health and Disordersより

 

そしてこのたび、新たな研究によって、プロバイオティクスの摂取が日々の気分に良い影響を及ぼす可能性が示唆されました。

 

ただし、現時点では確固たる証拠とは言いがたく、さらなる研究が必要であるというのが専門家の見解です。

  

本記事では、オランダのライデン大学の研究者によって行われたこの最新研究の内容を中心に、プロバイオティクスと気分の関係について紹介します。

 

参考研究)

Probiotics reduce negative mood over time: the value of daily self-reports in detecting effects(2025/04/09)

 

 

プロバイオティクスとは?

  

プロバイオティクスとは、腸内環境を整えるために摂取される有用な生きた微生物(いわゆる善玉菌)のことを指します。

 

カプセルや錠剤の形で市販されているほか、ヨーグルトや発酵食品などの食品にも含まれています。

 

食生活は腸内にどのような菌が定着するかを大きく左右し、そのために、サプリメントの形で善玉菌を補うというアプローチが近年注目されてきました。

 

プロバイオティクスを適切な量で摂取することで、腸内環境を改善し、最終的には全身の健康に寄与する可能性があると考えられています。

 

 

気分との関連性:研究の概要

 

ライデン大学のLaura Steenbergen博士らは、88名の健康な成人を対象に腸内細菌と気分の関係を調べる実験を実施しました。(Probiotics reduce negative mood over time: the value of daily self-reports in detecting effectsより

 

参加者はランダムに2つのグループに分けられ、一方はプロバイオティクスのサプリメントを、もう一方はプラセボ(偽薬)を4週間にわたって摂取しました。

 

使われたプロバイオティクスは、オランダの企業Winclove Probioticsが製造した「Ecologic Barrier」という製品で、9種類の異なる細菌株を含んでいます

 

この粉末状の製品をぬるま湯に溶かして飲むという方法で摂取が行われました。

 

被験者は実験の開始時と終了時に、感情や感情処理を評価するための10種類の心理的質問票に回答し、また日々の気分を0〜100のスケールで記録しました。

 

加えて、排便状態の記録も求められました。

 

 

研究結果:気分への影響はあったのか?

心理テストや日々のポジティブな気分に関しては、プラセボ群とプロバイオティクス群の間に大きな差は見られませんでした

 

しかし、プロバイオティクスを摂取したグループは、摂取開始から2週間後には「ネガティブな気分」が有意に減少していたという結果が得られました。

 

このように、日々の主観的な気分評価では変化が現れていた一方で、標準化された心理質問票では差が出なかったことから、現在用いられている心理評価尺度がこの種の微細な変化を測るには不十分である可能性も指摘されています。

 

カナダ・カルガリー大学の精神医学教授Valerie Taylor博士はこの研究に対し、「この結果は、標準化された症状評価だけではなく、日々の体感的な気分を把握することの重要性を示している。」と述べています。

 

 

限界と今後の課題

今回の研究にはいくつかの制約があります。

 

まず、参加者数が少ないこと、そして介入期間が4週間と短期間であったことです。

 

Taylor博士は、より微細な効果を明らかにするためには長期的な研究が必要であるとしています。

 

また、今回の研究では被験者の便サンプルを採取しておらず、プロバイオティクスが実際に腸内マイクロバイオームにどのような影響を及ぼしたのかは分かっていません

 

多くの人の場合、摂取したプロバイオティクスは腸に定着しないことが知られていますが、それでも腸に定着しなくても効果があるのかどうかは依然として不明です

 

さらに、今回使用された9種の菌株に特異的な効果があるのか、それともどのプロバイオティクスでも同様の効果があるのかについても、今後の研究が必要です。

 

Steenbergen博士は、「これは将来的な研究の仮説形成の出発点に過ぎません」と語っています。

 

 

腸と脳の相関

 

プロバイオティクスが精神に及ぼす影響に関する研究結果は、今のところまだ一貫性に欠けています。

 

ある研究ではわずかな効果が確認された一方で、まったく影響がなかったという報告も存在します。

 

ニュージーランドのオークランド大学(ユニバーシティ・オブ・オークランド)で心理医学を研究するRebecca Slykerman博士は、「脳内の神経伝達物質の構成要素は、主に腸で合成される」と説明しています。

 

腸と脳は迷走神経や免疫系、ストレス応答系を通じて密接に連携しているとされており、こうした生理的経路が気分に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

プロバイオティクスは気分改善に有効?

Slykerman博士やTaylor博士は、現時点では気分改善のためにプロバイオティクスの摂取を一般的に推奨する段階にはないと述べています。

 

プロバイオティクスは人によって効果が異なり、場合によっては副作用を引き起こすこともあります。以下のような副反応が報告されています。

• 胃腸の不調(膨満感、吐き気、下痢など)

• 脳のもやもや感(ブレインフォグ)

• 小腸内細菌異常増殖(SIBO)

 

それでもプロバイオティクスに興味がある人は、複数菌種を含み、かつ微生物数が数十億規模の製品を選ぶとよいとSlykerman博士はアドバイスしています。

 

ただし、国や地域によってサプリメントの品質管理や表示規制にばらつきがあり、信頼できる製品を見極めるのは難しいのが現状です。

 

さらに「科学的に検証済」とされている製品でも、実際の試験がヒトで行われたかどうかは明示されていない場合もあります。

 

  

より確実な腸内環境改善法とは

腸の健康を整える方法としては、プロバイオティクス以外にもより基本的で効果的な手段があります。Slykerman博士は次のように語っています。

 

野菜、果物、食物繊維、全粒穀物を多く含み、加工食品の少ない健康的な食事が、腸内細菌のバランスに最も大きな影響を与える要因となる。加えて、睡眠や身体活動の水準、ストレスの管理も腸の状態に深く関わっている。

  

  

まとめ

・プロバイオティクスが「ネガティブな気分」の軽減に効果を示す可能性があるが、標準的な心理評価には明確な差が見られなかった

・効果の再現性や長期的影響については今後の研究が必要であり、現時点での摂取推奨は慎重に判断すべき

・食事や生活習慣の見直しが、腸内環境と気分を整えるもっとも確実な方法

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