近年、食生活の欧米化が進む中で、パッケージングされたスナックや清涼飲料といった「超加工食品(Ultra-Processed Foods)」の摂取が健康に及ぼす影響が、改めて注目されています。
そして今回、新たに発表された研究によって、こうした食品の過剰摂取が、神経変性疾患であるパーキンソン病のごく初期の症状と関連する可能性があることが明らかとなりました。
本研究は、アメリカ・テキサス・クリスチャン大学にて公衆衛生学と神経変性疾患の研究を行うDon Thushara Galbadage博士らのチームによって実施されました。
研究は26年にわたる長期追跡調査データに基づいており、日常的に超加工食品を摂取している人は、パーキンソン病の「前駆症状(prodromal symptoms)」を発症するリスクが有意に高いことが示されました。
アメリカ神経学会が発行する医学誌『Neurology』に掲載された内容を基に、以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Ultra-Processed Foods Linked to Higher Risk of Early Parkinson’s Symptoms, New Study Finds(2025/05/15)
参考研究)
・Long-Term Consumption of Ultraprocessed Foods and Prodromal Features of Parkinson Disease(2025/05/07)
・Diet Quality and Risk of Parkinson’s Disease: The Rotterdam Study(2021/11/03)
加工食品と脳の健康に関する長期追跡調査

本研究では、平均年齢48歳の健康な成人42,843人を対象とし、彼らの食生活と健康状態を26年間にわたって追跡されました。
定期的な健康診断とアンケート、さらに数年ごとに食事内容を記録する日誌が用いられ、日々の食生活が詳細に把握されました。
注目すべきは、参加者のうち、1日に11品目以上の超加工食品を摂取していた人々は、3品目以下しか摂取していなかった人に比べて、パーキンソン病の前駆症状を3つ以上発症するリスクが約2.5倍に達していたという点です。
なお、ここでいう「超加工食品」とは、以下のような食品群を指します。
• パッケージ菓子やスナック類(ポテトチップスなど)
• 加工肉製品(ホットドッグ、ソーセージなど)
• 清涼飲料水や人工甘味料入り飲料
• 加工ソースやスプレッド類
• フレーバー付きヨーグルトやスイーツ類
パーキンソン病と前駆症状とは?

パーキンソン病とは、主に中高年に発症する進行性の神経変性疾患です。
脳内の神経伝達物質であるドパミンが不足することによって運動機能に障害が 現れます。
特徴的な症状としては、手足のふるえ(振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛)、動作の遅れ(寡動・無動)、姿勢のバランス障害などがあり、進行に伴い歩行や日常生活に支障をきたすようになります。
また、運動症状だけでなく、抑うつや認知機能の低下、自律神経症状など多様な非運動症状もみられることがあります。
現在のところ根本的な治療法はありませんが、薬物療法やリハビリテーションによって症状を和らげ、生活の質を維持することが可能です。
実際には明確な症状が起こる数年前から、身体的・精神的な非運動症状が現れることが知られています。
これらは「前駆症状」と呼ばれ、早期発見と予防において重要な指標とされています。
研究で観察された代表的な前駆症状には以下が含まれます。
• 慢性的な便秘
• 抑うつ傾向
• 睡眠障害(特に日中の過度な眠気)
• 嗅覚の低下
• 色の識別の困難
• 原因不明の身体の痛み
これらの症状のうち、特に便秘は20年以上前から出現することがあるとされており、神経疾患の初期兆候として重要視されています。
研究結果によると、超加工食品を多く摂取する人々では、これらの症状が同時に複数出現する傾向が強かったのです。
なぜ超加工食品が脳に悪影響を与えるのか?
では、なぜこのように超加工食品がパーキンソン病のリスクを高めるのでしょうか。
研究チームによれば、そのメカニズムは複雑であり、以下のような複数の要因が関与している可能性があるとされています。
1. 酸化ストレスと添加物の影響
人工甘味料や保存料などの添加物は、体内で酸化ストレスを引き起こす可能性があります。
酸化ストレスは、細胞を損傷し、神経細胞の劣化を促進する要因として知られています。
2. 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)への影響
近年の研究では、腸と脳は密接に関連していることがわかってきました。
超加工食品を多く摂取することで腸内環境が乱れ、有害な腸内細菌が増えると、脳内の炎症が増加する可能性があるのです。
3. 慢性的な炎症と神経変性
これらの影響が積み重なることで、脳内の神経細胞が徐々にダメージを受け、パーキンソン病のような神経変性疾患のリスクが高まると考えられています。
このようなリスクはパーキンソン病だけでなく、認知症、うつ病、睡眠障害、さらには肥満や心血管疾患にも関連しているという指摘もなされており、食事の質が健康全体に与える影響の大きさが浮き彫りになっています。
(Randomized Controlled-Feeding Study of Dietary Emulsifier Carboxymethylcellulose Reveals Detrimental Impacts on the Gut Microbiota and Metabolome及びUltra-processed food exposure and adverse health outcomes: umbrella review of epidemiological meta-analysesより)
予防のための食習慣:どう改善すべきか?
研究チームや専門家らは、こうした知見を踏まえ、できるだけ早い段階から食生活を見直すことが、神経変性疾患の予防につながるとしています。
特に推奨されているのは、以下のようなポイントです。
• 果物や野菜、魚、全粒穀物など、加工度の低い自然な食品を選ぶこと
• 清涼飲料ではなく水や無糖のお茶を選ぶこと
• スナック菓子を果物やナッツ類に置き換えること
• 食料品店では、パッケージ食品の多い中央通路ではなく、周辺の生鮮食品売り場を中心に買い物すること
テキサス・クリスチャン大学のGalbadage博士は「たとえ小さな行動の変化だとしても、今日の食生活が将来の脳の健康を大きく左右する可能性がある」と述べており、超加工食品の摂取を減らすことが、認知機能や運動機能を長く維持するための鍵であると強調しています。
今回の研究は、超加工食品がパーキンソン病のリスク要因になり得ることを示唆する重要な知見であり、今後の食生活を見直す一つのきっかけになるかもしれません。
もちろん因果関係までは断定されていないものの、すでに多くの健康リスクと関連があることが明らかになっている以上、過度な摂取は避けるべきであるといえるでしょう。
まとめ
・1日11品目以上の超加工食品を摂取する人は、パーキンソン病の前駆症状が現れるリスクが約2.5倍に増加する
・超加工食品は、腸内環境を悪化させ、脳内の炎症や神経細胞へのダメージを引き起こす可能性がある
・早い段階から食生活を改善し、自然な食品中心の食事に切り替えることが予防につながる
コメント