アメリカでは、朝食用シリアルやキャンディー、スナックなどの鮮やかな色に慣れ親しんでいる人が多いですが、こうした彩りの多くは石油由来の合成着色料によって生み出されています。
しかし、トランプ政権が再樹立して以降、アメリカの健康今後それが大きく変わろうとしています。
2025年4月22日、アメリカの厚生省(HHS)および食品医薬品局(FDA)は、これらの合成色素を食品から段階的に排除し、植物由来の自然な着色料へと移行する方針を発表しました。(HHS, FDA to Phase Out Petroleum-Based Synthetic Dyes in Nation’s Food Supplyより)
この取り組みを後押ししているのが、厚生長官であるRobert F. Kennedy, Jr.(RFK Jr.)です。
これは食品業界だけでなく、消費者にとっても非常に大きな転換点となります。
バージニア工科大学の食品生産技術支援ネットワークのディレクターであるMelissa Wright, MS氏は、「人はまず目で食べ、目で選ぶ」と述べ、見た目の印象が購買行動に与える影響の大きさを強調しました。
では、植物由来の着色料は本当に健康に良いのでしょうか。
そんな疑問とともに、新たに登場する自然着色料の正体と、今後私たちの食卓にどのような変化をもたらすのかについて、HHSの声明を参考に内容をまとめます。
参考記事)
・HHS, FDA to Phase Out Petroleum-Based Synthetic Dyes in Nation’s Food Supply(2025/04/22)
・RFK Jr. Wants to Get Rid of Artificial Food Dyes—How Healthy Are the Alternatives?(2025/05/01)
排除の対象となる着色料とその理由

今回の規制で最初に排除される予定の合成色素は、「Citrus Red No.2」および「Orange B」です。
FDAはこれらの食品着色料の使用認可を「今後数ヶ月以内に」取り消す方針を示しました。
さらに、食品業界に対しては以下の6つの色素について、2026年末までに自主的な使用中止を要請しています。
①Green No.3(緑色3号)
→発がん性に危険はないと判定
②Red No.40(赤色40号)
→動物実験にて発癌性を確認
③Yellow No.5(黄色5号)
→発がんの危険性はないと判定
ADHDとの関連性が指摘されている
④Yellow No.6(黄色6号)
→一部のロットにベンジジンなどの発がん性物質の存在を確認
(現在は使用されていない)
⑤Blue No.1(青色1号)
→発がんの危険性は確認できない(主にデータ不十分のため)
⑥Blue No.2(青色2号)
→動物の皮下注射で発がん性との関連が示唆(ヒトへの影響はないと判定)
また、以前話題になった「Red No.3(赤色3号=エリスロシン)」についても、従来予定されていた2027〜2028年よりも早期の廃止を求めています。
RFK Jr.氏は記者会見にて、「主要な食品メーカーとの間に、2026年までにこれらの着色料を除去するという合意がある」と述べました(ただし、具体的な企業名は明かされていません)。
FDAの広報担当者は、Health誌に対し次のようにコメントしています。
「これらの合成色素は長年にわたり食品に使用されてきたが、アレルギー反応や発達障害(ADHD)との関連性など、深刻な健康リスクが指摘されている。より安全な植物由来の代替品へと移行することで、アメリカ国民の健康保護を図る。」
実際、いくつかの研究では、合成着色料の摂取と子どもの行動問題との関連が示唆されています。(Potential impacts of synthetic food dyes on activity and attention in children: a review of the human and animal evidenceより)
ヨーロッパ連合では、このような色素を含む食品には長年にわたり警告ラベルの表示が義務付けられています。
導入が見込まれる自然由来の着色料とは?
FDAは、少なくとも4つの植物由来着色料について、迅速な承認手続きを進めていると発表しています。
具体的には以下のとおりです。
• カルシウムリン酸塩(Calcium phosphate):骨や歯に含まれる天然のミネラルで、食品では白色化剤として使われます。
FDAはすでにこれを「GRAS(一般に安全と認められる)」として分類しており、栄養ドリンクや豆乳などで利用されています。
(On the Application of Calcium Phosphate Micro- and Nanoparticles as Food Additiveより)
• ガルディエリア抽出青(Galdieria extract blue):藻類から抽出された青色顔料で、フランスのFermentalg社が開発しています。
同社はFDAの最終承認段階にあると報じられています。
(Fermentalg provides an update on the status of its natural blue dye approval by the U.S. FDA.より)
• クチナシブルー(Gardenia blue):植物「クチナシ(Gardenia jasminoides)」から得られる青色の天然色素で、アジアではすでに広く使用されていますが、アメリカではまだ未承認です。
• バタフライピー花抽出物(Butterfly pea flower extract):バタフライピーという花から得られる抽出物で、食品のpHによって色が変化する性質があります。
すでにソフトドリンク、アイスクリーム、キャンディー、ヨーグルトなどでの使用が認められています。
(eCFR 73.69 Butterfly pea flower extract.より)
自然着色料は本当に健康的か?
植物由来の色素が使われるからといって、それだけで食品が健康的になると考えるのは早計です。
Wright氏によれば、着色料は「極めて微量で使用される」ため、健康に与える影響は極めて限定的です。
たとえば、食品100グラムに対して着色料は約0.1グラムしか含まれていないため、栄養価の向上は期待できません。
そのため、食生活を改善したいと考える人は、着色料の有無よりも、加工食品から果物や野菜などの未加工食品へと切り替える方が効果的だと述べています。
また、「自然なもの=安全」とは限りません。天然色素の中には、適切に処理されないと病原菌などを含む可能性があるとWright氏は指摘しています。
加えて、自然由来の色素でもアレルギー反応を引き起こす可能性があると、ペンシルバニア州立大学(ペン・ステート)のMartin Bucknavage, MS氏は述べています。
これらの点については、今後のさらなる研究が必要としています。
自然着色料によって食品はどう変わるか?
自然着色料が主流となった場合、変わるのは成分表示だけではありません。
味には大きな変化はないと予想されますが、色合いがこれまでよりも地味になる可能性があります。
合成着色料は非常に発色が鮮やかで長期間安定していますが、自然由来の着色料は熱や光、時間の経過、他の成分との反応によって色が褪せやすい傾向があります。
さらに、天然素材の収集と抽出に手間がかかるため、自然着色料はコストが高くつく傾向にあります。
その分、消費者の購入価格が若干上がる可能性もありますが、大幅な値上がりは想定されていません。
ただし、こうした変化を消費者が受け入れるかどうかは未知数とされています。
過去にも一部の食品メーカーが人工色素を排除しようとしたものの、売上の減少により元に戻す例があったと指摘されています。
しかし、ノースカロライナ州立大学のGabriel Keith Harris, PhD氏は、今回の自然着色料への移行によって、カラフルな加工食品を避けるようになる人が増える可能性があり、結果としてアメリカ国民の健康状態が改善されるかもしれないと前向きに捉えています。
まとめ
・FDAとHHSは、合成着色料の段階的な廃止と自然由来の代替品への移行を進めている
・植物由来の着色料は必ずしも「健康に良い」とは言えず、安全性については今後の研究が必要
・自然着色料はコストが高い傾向があり、食品の見た目だけでなく価格に影響を与えることが懸念されている
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