近年、微細なプラスチック粒子、いわゆるマイクロプラスチックやナノプラスチックが、私たちの身の回りだけでなく、人体の内部にも広範囲に存在していることが明らかになってきました。
これらの極小粒子は、血液中を流れ、肺や肝臓といった臓器に蓄積していると考えられています。
そして今、米ニューメキシコ大学による新たな研究が、これらプラスチック粒子と心筋梗塞や脳卒中との関連性について、より具体的な証拠を提示しました。
研究の内容を以下にまとめます。
参考研究)
・Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events(2024/03/06)
動脈内のプラスチック量と疾患リスクの関連性

同大学の医学研究者であるDr. Ross Clark氏は、脳に血液を送る重要な血管である頸動脈に蓄積した脂肪性プラーク(動脈内のこぶのような堆積物)に含まれるマイクロプラスチックとナノプラスチックの量を測定しました。
その結果、以下のような衝撃的な事実が明らかになりました。
• 健康な人の動脈壁にも少量のプラスチックが確認されましたが、疾患がある人の動脈内には著しく多くのプラスチックが蓄積していた
• 症状のない人でも、プラーク内には健康な動脈の16倍のプラスチックが含まれていた
• 脳卒中や一過性脳虚血発作(ミニストローク)、視力喪失といった症状を経験した人では、その数値が51倍にも跳ね上がっていた
この結果に対し、類似の研究を行っていたロード・アイランド大学の神経科学者Jaime Ross氏は、「これは非常に衝撃的な数値である」とコメントしています。
彼女の研究では、通常の3倍のシグナルでも「非常に顕著」とされるため、51倍という数値は異例の高さです。
プラスチックは遺伝子発現にも影響か
この研究のもう一つの重要な発見は、プラーク内の細胞の遺伝子発現の違いです。
プラスチックが多く蓄積された環境下では、以下のような遺伝子変化が確認されました。
• 一部の免疫細胞において、炎症を抑制する役割を持つとされる遺伝子が不活性化されていた
• 炎症の抑制やプラークの安定化に関与する幹細胞群にも、遺伝子活動の変化が見られた
Clark氏は、「マイクロプラスチックが細胞の遺伝子発現に影響を与えている可能性がある」と述べています。
ただし、これが確実な因果関係であるかどうかについては、今後さらなる研究が必要とされています。
分析手法と今後の課題
この研究はまだ査読前の段階にあり、Clark氏は現在、データの再検証とさらなる分析を進めたうえで、学術誌への投稿を予定しています。
分析には、プラーク試料を摂氏約540度(華氏1000度以上)に加熱し、プラスチックを蒸発・分解させて成分を特定する高度な手法が用いられました。
ただし、動脈内の脂質成分が分解されることで、ポリエチレンと類似した物質に変化してしまう可能性があるという問題点も指摘されています。
このため、研究チームは脂質の除去を徹底し、測定精度の向上に努めたとしていますが、現時点では完璧とは言えない手法であり、改善の余地があるとのことです。
未解明の領域
Clark氏は、今後の研究資金を募り、マイクロプラスチックが血管壁の免疫細胞とどのように相互作用しているのかを明らかにするためのさらなる実験を計画しています。
具体的には、頸動脈以外の血管でも同様の調査を行い、動物実験によって因果関係の証明を目指すとしています。
現段階で分かっていることはただ一つ、「マイクロプラスチックは人体内に存在しており、その影響についてはまだほとんど分かっていない」ということです。
Ross氏も同様の見解を表明しており、「これらのプラスチックは、確実に何らかの作用をしているように思える」と述べています。
まとめ
・脳卒中や心筋梗塞を経験した患者の動脈プラークには、健康な人の最大51倍のプラスチックが蓄積していた
・プラスチックの多い環境下では、炎症を抑える遺伝子の活動が低下する傾向が見られた
・現段階では因果関係は不明だが、さらなる研究が急務である
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