PFASなどの化学物質の危険性が騒がれる昨今、プラスチック製品など品日常生活や工業製品に広く使用される化学物質への曝露が、心臓病、脳卒中、さらには死亡に関与している可能性があるとして注目を集めています。
メリーランド大学をはじめとする国際的な研究チームは、これらの化学物質が健康や経済に与える影響を調査するため、38か国から1,700以上の既存研究を統合しました。
研究チームは、この結果が世界的な対策を求めるに値すると主張していますが、批評家はこれらの化学物質が直接的な原因であるという決定的な証拠が必要だと指摘しています。
日本ではまだ大きく取り上げられていませんが、世界ではどのような認識なのかを研究を通してまとめていきます。
参考記事)
・Common Plastic Additives May Have Affected The Health of Millions(2024/12/31)
参考研究)
・The benefits of removing toxic chemicals from plastics(2024/12/16)
問題の化学物質
議論の対象となっているのは、BPA(ビスフェノールA)、DEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))、およびPBDEs(ポリ臭化ジフェニルエーテル)です。
これらの化学物質は以前から深刻な健康問題と関連付けられてきました。
・BPA(ビスフェノールA)
BPAは、食品包装材、特に食品や飲料の缶やボトルの内側をコーティングするエポキシ樹脂に広く使用されています。
この化学物質への曝露は、虚血性心疾患や脳卒中の発症率の上昇と関連しています。
最新の研究では、2015年に5.4百万件の虚血性心疾患と346,000件の脳卒中がBPA曝露に関連している可能性があるとされ、431,000人の死亡が関連付けられました。
この健康被害による経済的損失は、購買力平価で1兆ドルに相当すると推定されています。
さらに、BPAは環境中に放出されやすく、水や土壌を汚染する可能性があります。
これにより、食品や飲料を通じて間接的に人体に吸収されるリスクが増大しています。
また、胎児や幼児の発育に与える影響も懸念されています。妊娠中の女性のBPA曝露が胎児の神経発達に悪影響を及ぼす可能性が示唆されており、特に注意が必要です。
・DEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))
DEHPは、庭のホース、シャワーカーテン、医療用チューブ、合成皮革などの柔軟なプラスチックに使用されています。
動物実験では、内分泌系を撹乱し、マウスの妊娠やラットの思春期に影響を与える可能性が示されています。
2022年に発表された研究では、米国の成人5,303人の尿サンプル中のDEHP代謝物濃度の増加が死亡率の上昇と有意に関連していることが報告されました。
この研究では、164,000人の死亡がDEHP曝露と関連している可能性があり、経済的損失は3980億ドルと推定されています。
さらに、DEHPは環境中で分解されにくく、長期間にわたり人間や動物への曝露が続く可能性があります。
特に発展途上国では廃棄物管理が不十分であるため、DEHPの影響がより深刻になると考えられています。
また、医療現場で使用されるプラスチック製品に含まれるため、患者が直接曝露するリスクも指摘されています。
・PBDEs(ポリ臭化ジフェニルエーテル)
PBDEsは、耐熱性の高い材料に広く使用されている難燃剤で、電子機器、車の部品、航空機、特定の繊維製品にも含まれています。
また、リサイクル黒色プラスチック製の調理器具や食品容器、子供のおもちゃなどに含まれることがあります。
PBDE曝露と知能指数(IQ)の低下との関連が報告されており、1,200万のIQポイントが母体のPBDE曝露によって失われた可能性があるとされています。
また、PBDEは脂肪組織に蓄積しやすく、長期間体内に留まる可能性があります。
このため、曝露量が少なくても長期的な健康への影響が懸念されています。
食品安全性に関する研究では、PBDEが調理器具や食品包装から食品に移行することが確認されており、特に高温での使用が問題視されています。
化学物質の影響と持続性
BPAやDEHPは、数日間で体外に排出されるとされていますが、日常生活での継続的なプラスチック曝露によって体内濃度が維持されてしまう可能性が指摘されています。
一方で、PBDEの体内残留性は化学的構造によって異なります。
PBDEの蓄積が進むことで、慢性的な健康問題が発生するリスクが高まると考えられています。
これらの化学物質への曝露を減らすためには、個人レベルでの注意と共に、政府や企業による規制強化が求められています。
専門家の意見
この研究結果に対して、因果関係を完全に証明するのは難しいという意見もあります。
統計学者のKevin McConway氏は、「これらのプラスチックが重要な健康リスクをもたらす可能性を否定するものではないが、この研究だけでは具体的な影響の規模を明確にすることはできない。」と指摘しています。
一方で、研究を主導したMaureen Cropper氏らは、これらのデータが世界的な行動を促すに十分であると考えています。
「人間の健康を守るためには、化学物質の安全性に関する国家的な法律を抜本的に見直す必要がある。」とチームは述べ、プラスチック製造者が安全性の証明責任を負うべきだと提案しています。
必要な行動と対策
研究者たちは、プラスチック添加剤の安全性に関する法律の見直しが、特に米国、カナダ、EUで必要だと強調しています。
また、これまでの薬品規制で導入されてきた予防的アプローチを採用し、人間の健康を最優先に考えるべきだと主張しています。
さらに、消費者自身も化学物質の影響を減らすための行動を取ることが推奨されています。
具体的には、食品包装や調理器具の材質に注意を払うこと、リサイクルプラスチック製品の使用を控えることなどが挙げられます。
まとめ
・BPA、DEHP、PBDEsの曝露が数百万件の心疾患や脳卒中、死亡に関連している可能性がある
・これらの化学物質の影響を軽減するため、法規制の見直しが必要
・日常生活におけるプラスチック製品の使用についての注意が求められる
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