腸内細菌が体や脳の健康に大きく関わることは、これまでの多くの研究で明らかになってきています。
この細菌の関連性は顕著で、抗生物質などの殺菌性のある物質を一定量摂取すると、腸内細菌の死滅などによってバランスが崩れ、体調の悪化に直結するほどです。
そういった際、腸内細菌叢移植(Fecal Microbiota Transplantation: FMT)を行うことで、腸の健康を整える施術が行われることがあります。
これは健康な腸の糞便を移植することで、その便に存在する健康な細菌を取り込むという施術です。
クローン病や潰瘍性大腸炎などの難治性炎症性腸疾患等に対して行われ、その効果も現れています。
今回のテーマは、そんな糞便移植がパーキンソン病(難病指定されている神経変性疾患)の症状の改善に効果的であるという研究結果についてのまとめです。
参考記事)
・Transplanting Feces From One Person to Another Could Ease Parkinson’s Symptoms(2024/04/10)
参考研究)
糞便による腸内細菌の移植とパーキンソン病の症状
ベルギーのゲント大学の研究から、「糞便移植」によって健康な細菌を移すことは、パーキンソン病の症状を改善するために使用できる可能性があるという趣旨の研究結果が報告されました。
実施されたら臨床試験では、健康なドナーから早期パーキンソン病患者への“糞便微生物叢移植(FMT)”が行われ、その後1年間にわたって震えや平衡感覚の問題などのパーキンソン病に伴う症状(特に運動スコア)の大幅な改善が示されました。
合計46人の患者が治療を受け、 便はパーキンソン病患者の鼻から小腸に到達するように投与されました。
うち22人は健康な人からの糞便移植を受け、24人はプラセボによる比較対象を受けました。
追跡調査は移植後1年まで行われ、6ヶ月以降から改善が認められました。
研究者らは、症状の改善は腸の動きの変化に関連している可能性があると考えていますが、それを確かめるためにはさらなる研究が必要としています。
また、細菌移植を受けた人々は、パーキンソン病の進行に伴うことが多い便秘の症状が軽いことも明らかになりました。
VIB-UGent炎症研究センターのバイオテクノロジー学者Roosmarijn Vandenbroucke氏は、「私たちの研究は糞便移植が、パーキンソン病の新しい治療法になり得るというヒントを提供するだろう」と研究から得られた発見について評価をしています。
パーキンソン病についてはまだ理解されていないことが多くありますが、これまでの研究では、腸内で形成されるタンパク質が神経を遡り、パーキンソン病の原因となる神経変性のリスクを高める可能性があると考えられています。
腸内で作られる物質がこのプロセスに影響を与える場合、適切な混合物を見つけることで、神経への損傷を軽減できるかもしれません。
しかし、私たちの胃の中には何兆もの細菌が生息しているため、パーキンソン病に対する細菌の特有の影響を解明するのは非常に困難です。
ゲント大学の生化学者デビー・ローケンス氏は、「研究が発展することでFMTに代わる薬の開発や剤やその他の標的療法の発見につながる可能性がある」と今後の研究に期待を寄せています。
この研究の詳細は、eClinicalMedicineにて確認することができます。
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