文学

ソクラテスVSメレトス~ソクラテスの弁明②~

文学

前回記事では著書の内容に入る前に、ソクラテスが裁判にかけられる前までを書いてていきました。

 

簡単にまとめると、彼が神の信託を自分なりに解釈し賢いと呼ばれる者に問答をし続けた結果、恨みをい買ってしまったという経緯があります。

 

今回の記事ではいよいよ著書“ソクラテスの弁明”の内容について書いていきます。

 

多少読みやすくなるように言葉の言い回しなどは工夫させてもらいますが、本来の内容に相違が無いようまとめていきます。

 

著書のはじまりはソクラテスが傍聴人に向けて言葉を発しているところから始まります。

 

 

 

傍聴している者達に向けて

●ソクラテス

アテナイ人諸君、今の原告らの主張は本当の様に聞こえますが、実はほとんど真実を含んでいません。

 

これから私によって真実の全てを聞くことになるでしょう。

 

彼らのように着飾った言葉ではなく、いつも君たちと話すような私自身の言葉によって…。

 

宣誓口述書を見ると…

“ソクラテスは犯罪者である。世の中を研究し、根拠の無い理論をさも正しいと言い放つ。さらに同じことを他人にも教えている。”

と書かれています。

 

これはアリストパネスの喜劇の中の話であって、ただの作り話でしかありません、まずはこれから証明します。(アリストパネスの喜劇“雲”では、ソクラテスがお金を取って詭弁を教える人物として描かれている。)

 

さて、この場にいるものたちは私の弁論を聞いたことがあるものばかりです。

 

さぁ今すぐお互いに打ち明けてみてください、私が過去に大なり小なり喜劇に出てくるような話をしたことがあるのかを。

 

分かるでしょうどれも事実ではない。

 

これから裁判でされる話も、それと同じようなものです…。

 

 

訴人メレトスに向けて

●ソクラテス

ここからは訴人(メレトス)に対して弁明を述べていきます。

 

それでは宣誓後述書をもう一度見てみます。

 

そこには大体このように書いてあります、

“ソクラテスは犯罪人である。国家の認める神々を認めず、別の新しい神を崇め、青年に対して有害な影響を与えている。”

と。

 

青年に対して有害な影響を与えている…?

 

アテナイ人諸君、私は訴人メレトスこそ犯罪人であると主張します。

 

メレトス君、ここへ来て答えてくれたまえ。

 

君は若者達がより善くなるようとの思いで私を訴えたのかね?

 

▲メレトス

そうだ。

 

●ソクラテス

では、彼らをより善い方向へ導く者とは一体誰なのかね?

 

君が本当にこのことに関心を持っているならば、何かしらの答えを持っているはずだ。

 

▲メレトス

(考え込む…。)

 

●ソクラテス

ほら見たまえメレトス君、答えられずに黙っているではないか。

 

恥ずかしいとは思わんかね、君はこれに何の関心も持っていなかっ…ーーー

 

▲メレトス

法律だ。

 

●ソクラテス

いや、私は誰なのかを聞いているのだ。

 

その若者を導く法律を教えてくれる者は一体誰なのだ。

 

▲メレトス

…それは、ここにいる裁判官たちだ。

 

●ソクラテス

なるほど、それは結構なことだ。

 

ではここにいる政務審議官や傍聴人たちはどうだ?

 

若者を善い方に導くかね?それとも導かないかね?

 

▲メレトス

無論この者達もこの場にいない議員達も含めて、若者を善い方へ導く。

 

●ソクラテス

すると君は、私以外のアテナイ人全てが善い人間を育てることができ、私一人だけがそれを悪くしていると言いたいのかね?

 

▲メレトス

その通りだソクラテス。

 

それこそ私がこの裁判で言いたいことなのだ。

 

●ソクラテス

なるほど、それは大変不幸せなことを私はしていることになるね。

 

では馬で例えるとどうだろう。

 

馬に触れる者が大勢いたとして、その馬は本当に他の国より善い馬に育つだろうか。

 

それよりも馬の扱い方を知っている誰か一人、あるいはごく少数の人間が関わった方が善く育つのではないか?

 

まぁこの例えに賛成しようと反対しようとそれは自由だが、はっきりしたことがある。

 

それはメレトス君、きみが若者のことについてなど一切関心がなかったということだ。

 

 

さらなる弁明

●ソクラテス

アテナイ人諸君、これで訴人メレトスが言う若者に有害な影響を与えたことについては間違いだったと明らかになったでしょう。

 

しかしメレトス君、まだ終わっていない、神に誓って君に言ってもらいたいことがある。

 

それは私がどの様に若者に対して害を与えていたかについてだ。

 

君は私が国家の認める神々を認めず、別の新しい神を崇ることで若者に害悪を及ぼしていると言っていたね。

 

▲メレトス

そうだとも、それこそ私が言いたいことなのだ。

 

●ソクラテス

いや驚いたね、つまり私は日輪や月輪が神と認めていないということかね?

 

▲メレトス

そうなのです裁判官の諸君。

 

ソクラテスは日輪は石月輪は土と主張しているのです。

 

●ソクラテス

それはアナクサゴラスの内容だよ愛するメレトス君。

(アナクサゴラス=日輪を石、月輪は土という独自の天文学説を主張しアテナイを追われた自然哲学者。)

 

君は私がそのことを知らないと思って試しているね。

 

もし私がそのような内容に少しでも同意しようものならば揚げ足を取ろうとしたのだろう。

 

まあとにかく、君は私が神を認めていないというのだね?

 

▲メレトス

そうだ、あんたは神を認めていない。

 

●ソクラテス

しかし私にはダイモンの類いが聞こえることも君は承知しているね。

(ソクラテスが時折聞く神の声のようなもの。ソクラテスには何か決断するときに声のようなものが聞こえることがあったという。)

 

そうすると私は、神の声は聞こえるが、神は信じていないということになる。

 

そもそも私はアポロン神殿の信託を受けてこの問答をはじめ、そのおかげでこの裁判に場に立っている。

 

もし神を信じていなかったら、この場に私はいないはずだがどうかね?

 

▲メレトス

…。

 

●ソクラテス

皆さん、もうたくさんでしょう。

 

少なくとも私がメレトスの訴えることがらで罪を犯していないことは明らかです。

 

私が罪を負わせられるとしたら、長年積み重ねてきた問答からくる恨みや嫉妬によるものでしょう。

 

これに似た感情によって、今まで多くの優れた人たちが貶められてきました。

 

もちろん私で終わりになることはなく、これからも続く悪習となるでしょう。

 

ではなぜ私が死の危険に晒されてまでこのようなことを続けるのか…。

 

それは死を恐れていないからです。

 

かつてアキレウスが「戦友の仇討ちをするためにヘクトルを討つとお前は死ぬ」と神託を受けながらも戦場に赴いたことと同じです。

 

神から与えられた使命を捨てて生き延びるか、神に従い死んでいくか…。

 

神の使命に背いた私がいたならば、その時こそ私を捕らえ罰するべきなのです。

 

私が有罪になろうと放免になろうと、何度殺されようとも生き方を変えるつもりはありません。

さあ諸君。

 

これで良いということにしましょう。

 

私に弁明できることはこれくらいです。

 

これ以上やっても言うことはほとんど変わらないでしょうし。

 

ーーーーこの後有罪か否かの投票に入るーーーー

 

【投票の結果】

有罪:280票

無罪:220票

 

◆裁判官

ソクラテスに有罪の決定を申し付ける。

 

 


 

ここまででソクラテスに有罪の決定がなされました。

 

しかし今回の裁判では有罪の決定の後、刑量を決める申し出が行われます。

 

罪を認めることで刑が軽くなることもあります。

 

ソクラテスも例に漏れず、申し出のチャンスを与えられます。

 

さて、彼は犯していない罪に対してどのような言葉を口にするのか・・・。

 

それは次回の記事にて!

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