スザンナの水浴(あらすじ)
旧約聖書のシーンの一つである“スザンナの水浴”は、裕福で真面目な夫ヨアキムの妻“スザンナ”が主人公の物語です。
美しく気品溢れるスザンナは、毎日家の庭で水浴をすることが日課でした。
ある日いつものように水浴をする彼女に、二つの影が忍び寄ります。
いわゆる覗きというやつですが、彼らはスザンナの魅力に取り憑かれた町の長老(兼裁判官)たちでした。
スザンナが水浴を終えたタイミングを見計らい、二人の老人は自分たちと関係を持つよう迫ります。
当然断るスザンナに老人たちはこう言います。
「もし断るなら、お前が夫に隠れて不貞を働いたと告発するぞ。」
などとやってもいないことをでっち上げ、脅しをかけます。
当時不貞を働くことは、神の教えに背いた罪(姦通罪)として死刑となります。
脅されても長老を無視したスザンナは、後に裁判に掛けられてしまいます。
口裏をあわせた長老たちは自分たちの思い通りに裁判を運ばせ、スザンナ死刑を言い渡します。
しかしそこにある一人の青年ダニエルが現れます。
ダニエルがスザンナの話を聞くと、徐々に冤罪ではないかと疑いはじめ、逆に長老たちを問い詰めることにします。
ダニエルが二人の長老に何を問い詰めても、お互いが口裏をあわせているので証言に食い違いはありません。
スザンナがいくら違うと主張しても、裁判官の言葉の前には無力でした。
そこでダニエルは、長老をお互いの声が聞こえない別々の部屋に分けて聞き取りを始めました。
ダニエルは問います。
「スザンナが不貞を働いたのは何の木の下でしたか?」
片方の部屋の長老は、
「カシの木の下だ。」
と言いました。
もう片方の部屋の長老にも同じ問いをすると。
「確か乳香の木の下だ。」
…と証言の食い違いが発覚。
こうして長老たちがスザンナを貶めようとしたことが判明しました。
長老たちは捉えられ、今度は彼らに死刑が宣告され、石打ちの刑に処されたのです。
この物語によって、スザンナは脅迫や悪徳に対する正義の象徴として見られるようになりました。
美術としてのスザンナの水浴
アルブレヒト・アルトドルファーは、当時のドイツの風景をモチーフにスザンナの水浴を描きました。
彼はスザンナを描くと同時に、宮殿の細かい描写に力を入れていました。
むしろ、宮殿を描くためにスザンナを題にしたといっていいでしょう。
スザンナの水浴の中でも知名度トップの絵が、ティントレットの作品ではないでしょうか。
それは最早バレているのではないかとツッコミを入れたくなる手前の老人と、書いて字のごとく覗き見る奥の老人が印象に残ります。
絵左端上部の鹿は渇望を…
奥の老人の更に奥にいるアヒルは忠実を…
スザンナの上のカササギは(悪意のある)噂話を…
所々に描かれている動物が絵を意味深くしています。
アルテミジア・ジェンティレスキは、老人たちがスザンナに耳打ちしている姿を描きました。
ひとりの老人が「こんなのはどうだ?」と案し、もうひとりの老人がスザンナに耳打ち。
そしてスザンナは嫌悪するように顔を背けている姿は、まさにスザンナの誠実さ老人の悪徳さが滲み出ています。
ヴァランタン・D・ブーローニュは、ダニエルによる大岡裁きの様を描いています。
スザンナのホっとしたような呆れたような表情とダニエルの身を乗り出し長老に指をさす姿は、彼女の無実が証明されたことをあらわしています。
フランソワ=ギヨーム・メナジョは、裁判の後に老人たちが連れて行かれる姿を描きました。
ダニエルの天を指差す仕草と、スザンナの空を仰ぎ安堵する姿は、信じる者の誠実さの勝利を表しています。
また古代ローマ風の兵士に連れて行かれる老人たちの表情からは、これから罰せられることへの不安や後悔が感じられます。
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