オランダ・ワーゲニンゲン大学の研究から、甘みの摂取を控えても好みが変わらなかったという研究結果が示されました。
研究では、健康成人を対象とした比較試験(RCT)が行われ、6か月間にわたって「低・通常・高」の甘味曝露を意図的に制限しました。
その結果、甘味の好み(sweet taste liking)や甘味に関連する摂取行動、エネルギー摂取、体重、糖代謝・心血管系バイオマーカーに有意な変化が認められなかったという結論が示されました。
この結果は、公衆衛生上の「甘味曝露を減らせば嗜好や摂取が下がる」という単純な仮説をそのまま支持しないことを示唆するものです。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Dietary sugar consumption and health: umbrella review(2023/04/05)
研究の背景と目的

公衆衛生機関はしばしば、甘味への曝露を減らすことで甘味嗜好が低下し、結果として砂糖やエネルギー摂取が減り、肥満予防につながるという前提に基づいて勧告を出しています。
しかし、この前提を直接検証する長期のランダム化試験は限られており、実証的な裏付けが不十分でした。
本研究の目的は、6か月間にわたる低・通常・高の食事中甘味曝露が、甘味嗜好(liking)にどのような影響を与えるかを主要アウトカムとして評価することでした。
研究デザインの概要
The Sweet Tooth Trialと呼ばれたこの試験は、健康な成人180名(女性123名、男性57名、平均年齢 35歳、平均BMI 23)を対象としたもので、以下の基準で実施されました。
The Sweet Tooth Trial: A Parallel Randomized Controlled Trial Investigating the Effects of A 6-Month Low, Regular, or High Dietary Sweet Taste Exposure on Sweet Taste Liking, and Various Outcomes Related to Food Intake and Weight Statusより
・ランダム化:参加者は層別化(性別・年齢層・BMIカテゴリ・sweet liker phenotype)した上で
→低甘味曝露(LSE)群
→通常曝露(RSE)群
→高甘味曝露(HSE)群
それぞれに1:1:1で割り付け
・介入期間:6か月間の介入と、その後4か月の追跡観察
介入内容
→研究側は参加者に日々のメニューを提示し、提供食品で1日の必要エネルギーの約50%を賄う
→提供食品中の「甘味を持つ食品」の割合は群ごとに異なり、LSE群は提供食品の約7%が甘味、RSE群は約35%、HSE群は約80%が甘味を有する食品
→提供される甘味は砂糖、低カロリー甘味料、果物、乳製品など多様な供給源から構成されていました。残りの食事は参加者の自由摂取に任せる
測定項目と評価方法
主な発見は、甘味嗜好(sweet taste liking)の変化についてでした。
嗜好の評価は、液体・半固形・固形の6種類の試験食品を用い、それぞれ5段階の甘味濃度で提示し、100点の視覚的アナログ尺度(VAS)で評価する方法を採用しています。
これにより、濃度依存的な嗜好曲線を詳細に測定されました。
副次的な結果として、甘味強度の知覚、食事選択(実験的朝食での甘味食品の選択比率)、自己申告によるエネルギー摂取、体重・体組成、空腹時血液バイオマーカー(グルコース、HbA1c、総コレステロール、HDL、LDL、トリグリセリド、インスリン等)、および尿中のスクロースや低カロリー甘味料の排泄量も測定しています。
主な結果の詳細
研究から以下の結果が得られました。
The Sweet Tooth Trial: A Parallel Randomized Controlled Trial Investigating the Effects of A 6-Month Low, Regular, or High Dietary Sweet Taste Exposure on Sweet Taste Liking, and Various Outcomes Related to Food Intake and Weight Statusより
① 甘味嗜好(Primary outcome)
群間で差なし(統計による有意差なし)
② 甘味強度知覚(sweet taste intensity)
差なし
③ 食行動(sweet food choice)
差なし
④ エネルギー摂取量
差なし
⑤ 体重
差なし
⑥ 糖尿病・心血管系バイオマーカー
差なし
⑦ 介入終了後の行動
参加者は自然に元の甘味摂取レベルに戻った
⑧その他
・自己申告と尿中マーカーでは、介入期間中に群間で甘味食品の消費量に差が生じたことは確認
(自己申告の%エネルギーや%重量、尿中のスクロースや人工甘味料の指標で統計的差あり)
なぜバイオマーカーや体重に大きな変化が出なかったのか
以下は論文の記述と一般的な栄養介入研究の知見に基づく合理的な推測です。
介入の「実効差」が限定的であった可能性です。
提供食品は総摂取の約50%に留まり、残りは自由摂取であったため、参加者が自由に甘い食品を追加購入するなどして群間の実際の甘味曝露差が想定より縮小した可能性があります。
対象が健康な成人でベースラインのバイオマーカーが正常域にあるため変化余地が小さい(床効果)です。
既に正常範囲にある指標は短中期の味覚曝露変化だけでは大きく動きにくいです。
測定対象が「liking(好み)」であり、「wanting(欲求)」や「craving(渇望)」とは異なる点も統計的余地が残されています。
神経科学的にはlikingとwantingは別の報酬系で処理されるため、欲求が変化しても味そのものの好みが変わらないことは十分に起こり得ます。
また、個人差の大きさと検出力の問題も考えられます。
嗜好や代謝応答には個人差が大きく、平均差のみを検定すると小さな効果は検出されにくいことがあります。
過去の研究結果を基にすると、甘味嗜好が強い人、肥満傾向の人などでは効果が出る可能性が残ります。(Dietary sugar consumption and health: umbrella reviewより)
研究の強みと限界
本研究の強みとしては、ランダム化試験という因果推論に強いデザインを使った点が挙げられます。
また、6か月という比較的長期の介入、提供食品を用いた半管理下での現実的な介入、甘味嗜好を多様な食品形態と濃度で詳細に評価した点、そして尿中マーカーなど客観的指標を併用した点も評価されています。
一方、研究の限界としては、提供食品が総摂取の半分に留まる設計であるため実際の総摂取差が限定的であった可能性、対象が健康成人に限定され高リスク群への一般化が難しい点、測定対象が「嗜好(liking)」に限定され「欲求(wanting)」を直接評価していない点、サブグループ解析や検出力に関する不確実性が残る点などが挙げられます。
これらのことから、健康な人においては甘みによる害や嗜好の変化は少ないという印象を受けます。
一方、現在において慢性疾患や心臓病の既往歴がある場合など、何らかの病気の兆候がある場合は話が全く変わってきます。
二型糖尿病の発症リスク・病状悪化、心血管疾患での死亡リスク増加、 非アルコール性脂肪肝の危険性、痛風・高尿酸血症など様々なリスクと関連するという大規模コホートの報告があります。
そのため、甘いものは問題無いという意見を一般化するまでには至らないと考えられます。
一見、「自由に甘いものを食べてOK」という印象を研究から受けたため、一応の補足として記述します。
あくまで健康な人ならです。
まとめ
・本研究はワーヘニンゲン大学で実施されたランダム化試験であり、6か月の甘味曝露操作は甘味嗜好や主要な代謝指標に有意な変化をもたらさなかった
・ただし、提供食品が総摂取の約50%に留まる設計や対象の健康状態、測定対象の違い(liking vs wanting)などにより、結果の解釈には不確実性が残る
・論文全文の補足解析や高リスク群を対象とした追加研究、欲求(wanting)を直接評価する介入研究が必要



コメント