3日間の大量飲酒が、腸に深刻な損傷を引き起こす── BIDMCによるマウス研究より

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数日間にわたって大量にアルコールを摂取する、いわゆる「一気飲み」や「ビンジ飲酒(短時間で多くのお酒を飲むこと)」が、哺乳類の腸に対して想像以上に急速かつ有害な影響を及ぼす可能性があることが、新たなマウス研究によって明らかになりました。

  

アルコール使用障害が肝疾患の主要な原因であることは広く知られていますが、そのすぐ隣で密接につながっている「」が、短期間の大量飲酒によってどのような影響を受けるのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Just 3 Days of Binge Drinking Triggers Rapid Gut Damage in Mice(2026/01/08)

 

参考研究)

Unraveling the gastrointestinal tract’s response to alcohol binges: Neutrophil recruitment, neutrophil extracellular traps, and intestinal injury(2025/11/20)

 

 

研究の動機

アルコールと健康被害の関係というと、多くの人はまず肝臓への影響を思い浮かべるでしょう。実際、人間においてアルコール使用障害は、世界的に見ても肝硬変や脂肪肝、肝炎などの肝関連疾患の主要な原因となっています。

 

しかし、肝臓と機能的に密接な関係にある臓器、すなわち腸、とりわけ小腸が、アルコールによってどのような初期変化を受けるのかについては、意外なほど研究が限られていました。

 

今回の研究を主導したのは、アメリカのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターBeth Israel Deaconess Medical Center:BIDMC)に所属する消化器内科医の Gyongyi Szabo氏です。

  

Szabo氏らの研究チームは、「過度の飲酒が腸を障害し、有害な細菌由来物質が肝臓に到達することは知られているものの、飲酒初期の段階で上部小腸がどのように反応するのかについては、驚くほど分かっていなかった」と指摘しています。

  

  

大量飲酒モデルが示した腸への急激な影響

 

この研究では、マウスに対して3日間連続で大量のアルコールを摂取させる実験が行われました。

 

その摂取量は、人間に換算すると「ウォッカ1本分」に相当する量とされています。

 

これは、長期にわたる慢性的な飲酒モデルとは異なり、短期間の「ビンジ飲酒」を再現したものです。

 

興味深いことに、このビンジ飲酒モデルでは、従来の慢性アルコール曝露モデルでよく見られるような明確な腸全体の炎症は観察されませんでした。

 

しかしその一方で、研究チームは、近位小腸(小腸の上部)において、非常に顕著な障害と持続的な免疫反応が引き起こされていることを突き止めました。

  

具体的には、腸粘膜が損傷を受け、いわゆる「腸症(enteropathy)」の状態が生じていました。

   

この損傷部位には、好中球(neutrophils)と呼ばれる免疫細胞が集まり、NETs(Neutrophil Extracellular Traps)と呼ばれる粘着性の高い網状構造を放出していることも確認されました。

   

NETsは本来、病原体を捕捉・排除するための防御機構ですが、過剰に形成されると周囲の組織を傷つけることが知られています。

  

  

「リーキーガット」が引き起こす連鎖的な臓器障害

研究チームが特に注目したのは、腸管バリア機能の低下、いわゆる「リーキーガット(漏れやすい腸)」の兆候です。

   

通常、腸の内壁は強固なバリアとして機能し、腸内細菌やその代謝産物が血流に侵入するのを防いでいます。

  

しかし、この研究では、大量飲酒後のマウスにおいて、このバリアが弱まり、細菌由来の有害物質が血中に漏れ出していることが示唆されました。

  

Unraveling the gastrointestinal tract’s response to alcohol binges: Neutrophil recruitment, neutrophil extracellular traps, and intestinal injuryより

  

腸と肝臓は「腸肝相関」と呼ばれる双方向の通信経路によって密接につながっています。

 

肝臓は胆汁酸や免疫関連分子を分泌して腸内環境に影響を与え、一方で腸は微生物由来代謝産物や栄養成分を通じて肝機能を調節しています。

 

そのため、腸のバリアが破綻すると、有害物質が門脈を通じて直接肝臓に運ばれ、炎症や損傷を引き起こすのです。

 

実際、今回の実験でも、腸の障害に続いて肝臓に炎症性変化や損傷が生じていることが確認されました。

 

研究チームによれば、アルコール曝露からわずか3時間後にはすでに損傷の兆候が観察され、最後の飲酒から24時間後になってもその影響は持続していたといいます。

 

  

ヒトへの影響は未解明だが、重要な警告となる可能性

もっとも、この研究はマウスを用いたものであり、同様の現象がそのまま人間のビンジ飲酒にも当てはまるかどうかは、現時点では明らかではありません

 

マウスの腸は人間の腸と多くの共通点を持つ一方で、アルコール代謝や免疫反応の仕組みには違いも存在します。

 

ただし、これまでの疫学研究や臨床研究において、慢性的なアルコール摂取がリーキーガットと関連していることはすでに報告されています。

 

その意味で、今回の研究は、「短期間の大量飲酒であっても、腸と肝臓に対する有害なプロセスが非常に早期から始まる可能性がある」ことを示す重要な基礎的証拠といえるでしょう。

 

Szabo氏ら研究者は論文の中で、「これらの知見は、アルコールが消化管に及ぼす影響に対する理解を大きく前進させるものであり、将来的に肝障害へと進展する連鎖反応を抑制するための戦略を検討する基盤となる」と結論づけています。

  

 

まとめ

・わずか3日間の大量飲酒でも、マウスでは小腸の損傷と腸管バリア機能の低下が急速に生じることが示された

・腸の障害はリーキーガットを引き起こし、肝臓の炎症や損傷へと連鎖的に影響する

・ヒトに同様の影響が起こるかは明ではないが、短期的に連続した飲酒をすることは安全とは言い切れないことが示唆される

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