魚の口のフィルターが洗濯由来のマイクロプラスチック除去の救世主に

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ドイツのボン大学と、フラウンホーファー環境・安全・エネルギー技術研究所の研究から、魚の口の進化に着想を得た新しいフィルター技術が、洗濯排水に含まれるマイクロプラスチックの99%を除去できる可能性が示されました。

 

この技術は、現代社会が直面する深刻なプラスチック汚染問題に対して、自然界の仕組みを応用することで新たな解決策を提示するものです。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

‘Fish Mouth’ Filter Removes 99% of Microplastics From Laundry Waste(2026/01/04)
 

参考研究)

A self-cleaning, bio-inspired high retention filter for a major entry path of microplastics(2025/12/05)

 

 

洗濯が生み出すマイクロプラスチック汚染

 

私たちが日常的に行っている洗濯は、膨大な量のマイクロプラスチックを環境中に放出しています。

  

ポリエステルやナイロンなどの合成繊維で作られた衣類は、洗濯のたびに微細なプラスチック繊維を脱落させます。

  

これらは目に見えないほど小さいため、ほとんど意識されることなく下水へと流れ込んでいきます。

 

研究者らの推定によれば、下水処理過程で発生する「汚泥(スラッジ)」に含まれるプラスチックの最大90%が洗濯機由来である可能性があるとされています。

 

ただし、この割合は地域や下水処理方式によって変動するため、正確な数値については今後さらなる検証が必要である点も指摘されています。

 

問題をさらに複雑にしているのは、この下水汚泥が農業用途、すなわち土壌改良材や肥料として再利用されるケースが少なくないことです。

 

その結果、マイクロプラスチックが農地を経由して作物に移行し、人間が摂取する可能性も否定できません。

 

 

人体への影響は不明確

マイクロプラスチックが人間の健康に与える影響については、現時点では明確な結論が出ていません。

 

しかし、動物実験を中心とした初期研究では、マイクロプラスチックが骨や臓器に侵入する可能性が示唆されており、一部の毒性学者は長期的影響を懸念しています。

 

現段階では、炎症反応や化学物質の運搬体としての役割など、複数の仮説が提示されているにとどまります。

 

本研究も、健康影響そのものを直接検証したものではなく、あくまで汚染源対策に焦点を当てた研究である点は明確に区別する必要があります。

  

 

従来のフィルター技術が抱える課題

洗濯機から排出されるマイクロプラスチックを捕集することは、技術的に容易ではありません。

 

市販されている多くのフィルターは、細かい粒子を捕らえるほど目詰まりを起こしやすく、定期的な清掃や交換が必要になります。

 

この目詰まり問題こそが、普及を妨げる大きな要因となってきました。

 

研究チームは、この課題を解決するために、工学的な発想だけでなく、生物の進化が生み出した効率的な仕組みに目を向けることにしました。

 

 

サバやイワシの「口」に学ぶ自然のろ過システム

研究者たちが着目したのは、サバ、イワシ、アンチョビといったろ過摂食を行う魚類の口の構造です。

 

これらの魚は、口を開けたまま泳ぐことで大量の海水を取り込み、その中に含まれる微小なプランクトンだけを効率よく捕食します。

 

ボン大学の機能形態学者であるAlexander Blanke氏は、この仕組みについて次のように説明しています。

  

水は口の内部にある漏斗状の構造を通って流れ、細かい粒子は自然の「ふるい」によって捕捉されます。

 

一方で、ろ過された水はエラを通じて体外へ排出されます。捕らえられたプランクトンは、漏斗形状のおかげで自然に喉の奥へと集まり、飲み込まれることでシステム全体が自動的に洗浄されるのです。

 

 

魚の口を模倣した円錐型フィルターの開発

A self-cleaning, bio-inspired high retention filter for a major entry path of microplasticsより

  

この生物学的構造をもとに、研究チームは円錐形の新しいろ過装置を設計しました。

 

内部には、アンチョビのエラ弓やエラ耙(さいは)に見られる櫛状構造を模倣したメッシュ状表面が配置されています。

 

従来型フィルターでは、水中の粒子がメッシュに正面衝突するため、付着・詰まりが起こりやすいという欠点がありました。

 

これに対し、新しい装置では、マイクロプラスチック粒子がメッシュ表面を「転がる」ように移動する設計が採用されています。

 

この仕組みにより、ろ過に使われる表面積が実質的に拡大し、同時に目詰まりが大幅に抑制されるのです。

  

 

99%除去と目詰まり85%減という成果

実験の結果、この装置は洗濯排水中のプラスチック粒子の最大99%を除去できることが示されました。

 

また、市販のフィルターと比較して、目詰まりの発生が約85%低減されたと報告されています。

  

捕集されたプラスチックはフィルター外部の専用コンパートメントに集められ、数十回の洗濯ごとに、乾燥機の糸くずフィルターのように簡単に取り出して廃棄できます。

 

研究チームはすでにドイツ国内で特許を申請しており、将来的な実用化を見据えています。

 

 

合成繊維時代に不可欠な対策技術

1950年代以降、合成繊維が大量生産されるようになってから、少なくとも560万トン以上の合成マイクロファイバーが衣類から環境中に放出されたと推定されています。

 

キッチン用品や包装材のプラスチック問題が注目される一方で、衣類由来の汚染は長らく見過ごされてきました。

 

衣料素材そのものを根本的に置き換えない限り、高効率なろ過システムは今後ますます重要な役割を果たすと考えられます。

  

本研究は、自然界の進化が生み出した構造が、現代の環境問題解決に直接貢献しうることを示す好例とされています。

   

 

まとめ

・魚の口の構造を模倣した新型フィルターは、洗濯排水中のマイクロプラスチックを最大99%除去できる可能性がある

・このフィルターは、従来の課題であった目詰まりを約85%低減し、実用化に近づいた点が大きな特徴

・健康影響の全容は未解明ですが、汚染源を断つ技術として今後の普及が期待される

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