新たに発見された免疫細胞と老化に伴う炎症増加の謎に迫る

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老化に伴い体内で慢性的な炎症が進行する現象は「インフラメイジング(inflammageing)」と呼ばれ、加齢関連疾患の背景にある重要な要因と考えられています。

 

近年の研究により、その仕組みには免疫系が深く関与していることが明らかになってきましたが、その全容は依然として不明です。

 

今回、ヤエル大学の研究チームが発表した新しい研究から、脂肪組織に存在する新しいタイプの免疫細胞が老化関連炎症に寄与している可能性が示唆されました。

 

さらに、他の種類のマクロファージは逆に炎症を抑える役割を担っていることも確認されており、老化と免疫の関係をめぐる研究に新たな視点を与える成果となっています。以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Newfound immune cell in mice hints at why inflammation spikes with old age(2025/09/06)
 

参考研究)

Nerve-associated macrophages control adipose homeostasis across lifespan and restrain age-related inflammation(2025/09/06)

 

 

老化と炎症 ― インフラメイジングの背景

炎症はもともと、外傷や感染に対して免疫系が防御反応として起こす一連のプロセスです。

 

白血球や炎症性タンパク質が患部に集まり、病原体を排除し組織修復を促進します。

 

しかし、年齢を重ねるにつれて炎症は一過性の防御反応ではなく、慢性的に持続する低レベル炎症として全身に広がるようになります。

  

この状態が「インフラメイジング」と呼ばれ、動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー病など多くの加齢関連疾患のリスク要因とされています。

 

マクロファージは免疫系の主要な細胞であり、病原体や細胞残骸を「掃除」する役割を果たします。

   

脂肪組織に存在するマクロファージは、代謝や炎症制御にも関わっていることが知られていましたが、老化に伴ってどのようにその種類や機能が変化するのかは十分に解明されていませんでした

 

今回の研究は、その空白を埋める重要な一歩となりました。

 

 

脂肪組織マクロファージの多様性を解析

ヤエル大学の免疫生物学者Vishwa Deep Dixit氏およびElsie Gonzalez-Hurtado氏らのチームは、若齢マウスと高齢マウスの内臓脂肪組織を対象に、マクロファージを詳細に解析しました。

  

内臓脂肪は臓器の周囲を取り巻く深部脂肪であり、代謝や炎症に強い影響を及ぼすとされます。

 

研究チームはマクロファージのRNAを解析し、それぞれの細胞がどの遺伝子を活性化しているかを調べました。

 

 その結果、13種類に分類される脂肪組織マクロファージの存在が明らかになり、加齢に伴いその割合や機能が変化することがわかりました。

 

 

性差によるマクロファージの変動

  

研究ではいくつかの既知のマクロファージについても、以下のような加齢との関係が示されました。

 

• 神経の近くに存在するタイプのマクロファージは、加齢に伴いメスのマウスで数が減少しまたが、オスでは大きな変化はなかった

• 一方、血管付近に集まるマクロファージは、オスの高齢マウスで数が減少したが、メスでは加齢による変化は確認されなかった

 

この結果から、加齢による炎症や代謝異常には性差が関与している可能性が浮かび上がりました。

 

 

新たに発見された炎症促進型マクロファージ

最も注目すべきは、研究チームがこれまで知られていなかった新しいタイプのマクロファージを発見したことです。

 

この細胞は若齢マウスには存在せず、加齢したマウスでのみ出現しました。

 

この新型マクロファージは、炎症性マーカーを高レベルで発現しており、インフラメイジングに関与する分子サインを示していたことから、老化関連炎症の促進要因である可能性が高いと考えられます。

 

ただし、この細胞がどこで生まれ、どのように脂肪組織に出現するのかについては未解明であり、今後の研究が待たれます。

 

 

神経関連マクロファージの役割と代謝調整

 

研究チームはさらに、神経に付着するマクロファージに注目しました。

 

顕微鏡観察では、これらの細胞が繊維状の突起を神経細胞へ伸ばして接触している様子が確認され、神経の調節や維持に関与している可能性が示されました。

 

若いメスのマウスからこの神経関連マクロファージを除去すると、脂肪組織内の炎症が増加し、代謝プロセスが乱れることがわかりました。

 

その結果、脂肪の分解が妨げられるなど、エネルギー代謝に悪影響を与えることが確認されました。

 

これは、神経関連マクロファージがインフラメイジングを抑制し、脂肪組織の代謝バランスを維持していることを意味しています。

 

 

今後の展望と臨床応用の可能性

本研究において特に重要とされているのは、マクロファージ集団を治療的に維持あるいは回復させることで、インフラメイジングや代謝障害を抑制できるかどうかという点です。

 

もし実現できれば、加齢関連疾患の予防や治療に直結する可能性があります。

 

一方で、今回の研究はマウスを対象とした初期段階のデータに基づいており、ヒトにおいても同様のマクロファージが存在し同じ機能を持つかどうかは不明です。

 

したがって、臨床応用に向けてはさらなる研究が不可欠です。

 

研究チームを率いたDixit氏は、「我々はまだ表面をかすっているにすぎない」と述べ、今後も新型マクロファージの役割を詳細に解明していく計画を示しています。

 

今回の研究は、老化と炎症の関係を理解するうえで新たな細胞の存在を提示しました。

 

発見されたマクロファージの働きはまだ完全には明らかではありませんが、インフラメイジングの仕組みを解明する重要な手がかりとなる可能性があります。

 

将来的には、炎症を抑える治療法の開発や加齢関連疾患の予防につながることが期待されます。

 

 

まとめ

・老化に伴い新しい炎症促進型マクロファージが出現し、インフラメイジングに寄与している可能性がある

・一部のマクロファージは逆に炎症を抑制し、脂肪組織の代謝を維持していることが確認された

・ヒトに同様の現象が存在するかは未解明であり、今後の研究が必要

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