過去の研究記事でまとめたように、近年、大腸がんをはじめとする消化管がん(Gastrointestinal cancers)が若年層で増加しているという研究結果が報告されています。
【過去の大腸がんに関連する記事(一部)】
どれにも共通する要因の一つとしては食生活が挙げられており、高糖質、高脂肪の食べ物や超加工食品への注意が必要であることが指摘されています。
今回紹介するのは、そんな若者における消化器系のがん増加の傾向を分析した最新の研究についてです。
これまで注目されてきた大腸がんだけでなく、膵臓がん、胃がん、食道がん、胆道がん、虫垂がん、さらには神経内分泌腫瘍といった複数の種類のがんが、50歳未満の人々の間で増加傾向にあることが示されています。
参考記事)
・More GI Cancers Are Rising in Younger Adults—Not Just Colorectal, Study Finds(2025/08/19)
参考研究)
・Early-onset gastrointestinal cancers: comprehensive review and future directions(2025/08/08)
若年層で増える消化管がんの実態

これまで若年層のがんの代表とされてきたのは大腸がんでした。
大腸がんは50歳未満で発症する割合が年々上昇しており、米国の統計では2000年には人口10万人あたり5.9件だった発症率が、2017年には8.4件に増加しています。
日本では2000年時点において全国がん登録制度(2016年1月1日開始)が始動していないため、アメリカと同様の統計は取れませんが、年次推移と比較すると以下のようになります。
・2000年度:10万人あたり8.2件(年齢調整罹患率)
・2021年度:10万人あたり10.9件(年齢調整罹患率)
2000年の50歳未満の大腸がん罹患率(e-Stat「がん統計データ – 罹患数・罹患率:年次推移」より)
2021年の50歳未満の大腸がん罹患率(厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告」より)
いずれにしろ、若年発症大腸がんの発生件数は増加傾向にあり、研究機関や医療関係者からの注目度も高いのが現状です。
しかし、今回の米国を対象としたレビュー研究によれば、大腸がん以外の消化管がんも同様に増加していることが明らかになりました。
具体的には以下のような傾向が報告されています。
・虫垂がん:2010年から2019年の間に診断数が15%増加(稀ながん)
・膵臓がん:特に致死率が高いがんのひとつですが、25〜29歳の若年層で4%以上の上昇が確認された
・胃がん:若年層大腸がんの中で大腸がんに次いで多い
・食道がん、神経内分泌腫瘍、胆道がん:いずれも50歳未満での診断が増加傾向にある
このように、従来「高齢者の病気」と考えられてきたがんが、より若い世代においても無視できない問題となってきているのです。
罹患しやすい人の特徴
研究を主導したダナファーバーがん研究所の腫瘍内科医師であるSara Char医師は、「人種や性別によって影響に差がある」と指摘しています。
特に影響を受けやすいのは女性、黒人、ヒスパニック、先住民の人々であり、統計的に有意な人種格差が確認されています。
特に、黒人の患者は早期発症の大腸がんや食道・胃接合部がんでの生存率が低く、ガイドラインに基づいた標準治療を受ける割合も低いことが報告されています。
この点についてChar医師は、「若年層における人種間格差の要因を解明することが極めて重要」と述べ、今後の研究の必要性を強調しました。
なぜ若年層で増えているのか

早期発症の大腸がんの15〜30%は遺伝的要因によるとされていますが、残りの多くは生活習慣の変化に起因すると考えられています。
クリーブランド・クリニックの消化管腫瘍専門医であるSuneel D. Kamath医師は、この増加の背景に肥満率の増加があると指摘しています。
実際に、米国の15〜24歳の女性における肥満率は1990年から2021年にかけてほぼ倍増しました。
また、西洋型の食事(赤肉や加工食品が多い食生活)は炎症を促進し、DNA修復機能を阻害することで発がんリスクを高めるとされています。
加えて、以下のような要因もリスクに寄与している可能性があります。
• 過剰な飲酒
• 糖分を多く含む飲料の頻繁な摂取
• 座りがちな生活習慣(運動不足)
• 腸内細菌叢の変化(特定の細菌種が大腸がん発症と関連している可能性が指摘されている)
これらの要因が複雑に絡み合い、若年層での発症率を押し上げていると考えられています。
若年層に必要な注意点と課題
Sara Char医師は「若年層の患者は診断時に進行した段階で見つかることが多い」と述べています。
これは、 医師・患者ともに若年者でのがんを疑う意識が低いという点に加え、血便や腹痛、お腹の張りなど症状が一般的な消化器疾患と類似しているという点があることを指摘しています。
特に、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)、クローン病といった比較的一般的な病気の症状が大腸がんに関係する症状と似ているため、見過ごされやすいのです。
そのため、若い世代であっても排便習慣や消化器の変化を感じた際には医師に相談することが重要です。
また、Char医師は「消化や排便に関する話題はタブー視されがちですが、意識を変える必要がある」と強調しています。
またKamath医師は「このような傾向を継続的に分析することが診断の早期化と予後改善につながる」と述べ、若年層のがんに対する認識の向上が不可欠であると指摘しています。
若年層における消化管がんの増加は、単に大腸がんに限られた現象ではなく、複数のがん種に広がっている深刻な公衆衛生上の課題です。
生活習慣や食事、肥満、腸内細菌叢の影響が指摘されているものの、詳細な要因はまだ完全には解明されていません。
今後の研究と社会的認識の向上が、早期発見と格差是正につながることが期待されます。
まとめ
・50歳未満で大腸がん以外の消化管がんも増加している(膵臓がん、胃がん、虫垂がんなど)
・女性、黒人、ヒスパニック、先住民の人々が特に影響を受けやすい
・生活習慣や食事、肥満、腸内環境の変化が増加の要因と考えられている


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