肝臓は人間の身体の中でも最も多忙な臓器の一つです。
体内の有害物質を解毒し、消化を助け、栄養素を貯蔵し、代謝を調整するなど、多岐にわたる重要な役割を担っています。
しかも、肝臓は非常に回復力のある臓器であり、損傷を受けても再生する能力を持っています。
しかしながら、それでも肝臓は決して壊れないわけではありません。
実は、多くの人が見過ごしている日常的な行動や習慣の中には、肝臓に徐々にダメージを与え、最終的には肝硬変(肝臓の永久的な瘢痕化)や肝不全などの深刻な病気に至る原因となるものがあります。
肝臓に関する疾患は、初期段階では倦怠感や吐き気といったあいまいな症状しか現れず自覚しにくいことから「沈黙の臓器」と呼ばれています。
進行すると皮膚や眼球が黄色くなる黄疸といった明確な兆候が現れ、そこまでくると肝臓に相当なダメージを受けている状態になります。
肝臓の病気の原因といえば「過度の飲酒」が第一に挙がりますが、実際はアルコールだけが問題ではありません。
今回は、そんな肝臓に悪影響を与える可能性がある5つの生活習慣について、最新の研究をもとにまとめます。
参考記事)
・5 Daily Habits Could Be Causing Your Liver Serious Harm(2025/06/20)
参考研究)
1. アルコールの過剰摂取

言うまでもなく、アルコールは最もよく知られた肝臓障害の原因です。
摂取したアルコールは肝臓で分解され、体外へと排出されますが、過剰な飲酒はこの処理能力を上回り、毒性のある副産物が蓄積されて肝細胞を傷つけてしまうのです。
アルコール性肝疾患は段階的に進行します。最初は脂肪肝と呼ばれる状態になり、多くの場合は無症状で、禁酒すれば回復可能です。
しかし、飲酒を続けるとアルコール性肝炎へと進行し、ここで肝臓は自らを修復しようとする過程で炎症や瘢痕化が起こります。
さらに悪化すると、肝臓が硬化して機能を著しく損なう肝硬変に至ります。この段階では元に戻すことは困難ですが、飲酒をやめることでさらなる悪化は防げます。
中程度の飲酒であっても、長年続ければダメージは蓄積します。特に肥満や服薬との併用がある場合、そのリスクは一層高まります。
日本では、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」として、1日当たり純アルコール約20グラムまでが目安とされています。(厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」より)
これは、日本酒で1合(180mL)、ビール中瓶1本(500mL)、ワインならグラス2杯(240mL程度)に相当します。
なお、女性や高齢者ではこれより少ない量でも影響が出やすく、より低い摂取量が推奨されます。
また、イギリスの専門家は、週に14ユニット(日本の缶ビール換算で7缶程度)を超えないようにし、週の中で休肝日を設けることを提唱しています。
日本でも、週に2日は「休肝日」をつくることが望ましいとされています。
このように、個々の体質や健康状態を考慮しながら、適切な飲酒量を守ることが肝臓を守る鍵となります。
自分の飲酒習慣を見直し、必要であれば医療機関などに相談することが大切です。
2. 不健康な食習慣とバランスの悪い食事

アルコールを飲まなくても、脂肪が肝臓に蓄積されることによって肝機能に異常が生じることがあります。
この状態は以前は「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、現在では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という名称が用いられる傾向にあります。
MASLDでは、肝臓内に蓄積された脂肪が炎症や瘢痕化を引き起こし、最終的には肝硬変に至る可能性があります。
特に腹部に脂肪が多い人はMASLDのリスクが高く、さらに高血圧、糖尿病、高コレステロールもリスク因子となります。
食生活がこの病態に与える影響は極めて大きく、飽和脂肪酸を多く含む食品(赤身肉、揚げ物、加工スナック)や糖分の多い食品・飲料が肝脂肪の蓄積に直結します。
2018年の研究では、加糖飲料をよく飲む人は脂肪肝疾患のリスクが40%も高いと報告されています。
さらに、超加工食品(ファストフードや冷凍食品、お菓子類)を頻繁に摂取している人も、肝臓病を発症するリスクが高まることが複数の研究で明らかになっています。
その一方で、野菜、果物、全粒穀物、豆類、魚などを中心としたバランスの取れた食事を摂ることで、脂肪肝を予防あるいは改善することが可能です。
また、1日約8杯分の水を目安にしっかりと水分補給することも、肝臓の自然な解毒作用を支えるうえで重要です。
3. 鎮痛薬の過剰使用

日常的な頭痛や筋肉痛、発熱に対して、市販の鎮痛薬(特にパラセタモール、日本ではアセトアミノフェンと呼ばれる成分)を使う方は多いでしょう。
これらの薬は適切に使えば安全とされていますが、わずかな過剰摂取や長期的な摂取が肝臓に深刻なダメージを与える可能性があることが示されています。(Long-term adverse effects of paracetamol – a reviewより)
肝臓はパラセタモールを分解する際に、NAPQIという毒性の高い副産物を生成しますが、通常であれば、グルタチオンという物質によって中和されます。
しかし、過剰摂取によりグルタチオンが枯渇すると、NAPQIが肝細胞を攻撃し、急性肝不全のリスクが高まる可能性があるとされています。
アルコールとの併用も肝臓の病気を高めるリスクがあるため、用法・用量を必ず守り、頻繁に鎮痛薬が必要になる場合は必ず医師に相談することが推奨されます。
4. 運動不足

運動不足も肝臓病の大きなリスク因子の一つです。
身体を動かさない生活は、体重増加、インスリン抵抗性、代謝機能の障害を引き起こし、それが肝脂肪の蓄積を促進します。
良いニュースは、体重の減少を期待しなくても、運動をすること自体が肝臓にプラスの効果があるという点です。
ある研究では、たった8週間のレジスタンストレーニング(筋トレ)で肝脂肪が13%減少し、血糖コントロールも改善したと報告されています。(Resistance exercise reduces liver fat and its mediators in non-alcoholic fatty liver disease independent of weight lossより)
また、有酸素運動(たとえば、週5回、30分間の早歩き)も肝脂肪の減少やインスリン感受性の向上に効果的とされています。(Exercise for fatty liver disease has benefits beyond weight lossより)
5. 喫煙

喫煙が肺がんや心疾患のリスクを高めることはよく知られていますが、実は肝臓に対しても重大な害を及ぼすことはあまり知られていません。
たばこの煙には数千種類の有害化学物質が含まれており、肝臓はそれらを解毒しようとする過程で大きな負荷を受けます。
その結果、活性酸素による酸化ストレスが肝細胞を傷つけ、血流を制限し、肝硬変を引き起こす恐れがあります。
さらに、喫煙は肝臓がんのリスクも大幅に高めます。たばこに含まれるニトロサミン、ビニルクロリド、タール、4-アミノビフェニルなどの化学物質は、いずれも発がん性が確認されています。
Cancer Research UKによると、英国における肝臓がんの約20%は喫煙が原因とされています。
肝臓をいたわる生活を……

肝臓は非常に強靭な臓器ですが、それでも限界があります。
アルコールの節度ある摂取、禁煙、薬の適切な使用、バランスの取れた食生活、定期的な運動、水分補給などの習慣が肝臓を守る鍵となります。
もし、慢性的な倦怠感や吐き気、黄疸などの症状が現れた場合には、早めに医師の診察を受けることが大切です。
何よりなのは無事が一番ですが、もし肝臓になったときでも早期に発見できれば治療の可能性も大きく広がるでしょう。
沈黙の臓器に耳を傾けるというのも難しいですが、お酒を飲む際や悪食をする際に一度立ち止まるという習慣は、将来の健康につながることは間違いないでしょう。
まとめ
・アルコールだけでなく、食生活や運動不足、薬の使用方法、喫煙なども肝臓への負担を増やす要因となる
・脂肪肝は非飲酒者にも多く見られ、バランスの良い食事と適度な運動で予防・改善が可能
・肝臓病は初期には症状が出にくいため、日頃から肝臓に気を遣った生活習慣を意識することが重要



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