科学

偶然の発見:デオキシリボースジェルが毛髪再生を促進

科学

2024年6月、英国のシェフィールド大学とパキスタンのCOMSATS大学の研究者チームが、脱毛症治療に関する新たな発見を発表しました。

 

彼らが注目したのは、DNAを構成する要素の一つである「デオキシリボース」(2-デオキシ-D-リボース、2dDR)という糖の特性です。

 

この糖を活用したジェルが、脱毛症の治療において重要な役割を果たす可能性が示唆されています。

 
 以下の研究を参考に、本記事のテーマとしてまとめていきます。

 

参考研究)

Stimulation of hair regrowth in an animal model of androgenic alopecia using 2-deoxy-D-ribose(2024/06/03)

 

 

発見の背景:予期せぬ毛髪再生効果 

研究チームは当初、創傷治癒のメカニズムを解明するためにデオキシリボースを使用した実験を行っていました。

 

幾度も実験を重ねるうちに、マウスの皮膚にできた傷にデオキシリボースを塗布すると、傷の治癒が早まるだけでなく、その周囲の毛の再生速度が明らかに上昇していることを発見しました。

 

この予期せぬ現象に興味を抱いた研究者たちは、さらに詳細な実験を行うことにしました。

  

 

マウスを用いた実験:脱毛症への応用

実験では、テストステロンが原因で脱毛を引き起こしたオスのマウスを使用しました。

 

研究者たちは、毛を除去したマウスの背中に毎日デオキシリボースを含むジェルを塗布

 

比較対象として、市販されている発毛剤「ミノキシジル」も使用されました。

 

結果、デオキシリボースジェルを使用したマウスでは、20日以内に80~90%もの毛髪が再生

 

毛包が新たに形成され、再生した毛は長く、太く、密度も高いことが確認されました。

 

Stimulation of hair regrowth in an animal model of androgenic alopecia using 2-deoxy-D-ribose より

 

この効果は、ミノキシジルを使用した場合と同等の結果でした。

 

また、デオキシリボースとミノキシジルを併用した場合でも、単独使用と比較して追加の効果は見られませんでした。

 

  

メカニズムの解明:血流と毛包への影響

研究チームは、デオキシリボースが発毛を促進する正確なメカニズムについてまだ完全には解明していないと述べています。

 

しかし、治療部位では血管新生が顕著に増加していたことが観察されています。

 

毛包の血流が改善されることで、栄養や酸素の供給が強化され、毛髪の成長が促進された可能性があります。

 

この観察結果は、「毛包への血液供給が毛髪の太さや成長速度に直結する」という仮説を裏付けるものです。

 

 

現在の治療法との比較:課題と可能性 

男性型脱毛症(AGA)や女性型脱毛症(FAGA)は、遺伝やホルモン、加齢が主な原因とされる症状です。

  

この疾患は全人口の40%以上に影響を及ぼすと言われていますが、現在FDA(米食品医薬品局)が承認している治療薬はわずか2種類です。

 

• ミノキシジル

頭皮に塗布する外用薬で、毛髪の成長を促進する作用がある

ただし、すべての患者に効果があるわけではない

 

• フィナステリド

内服薬で、男性ホルモンの作用を抑えることで脱毛を防ぐ

しかし、この薬は女性には承認されておらず、副作用(性欲減退や抑うつなど)のリスクもある

 

これらと比較して、デオキシリボースジェルは自然由来の成分であり、副作用のリスクが低い点が大きな利点です。

 

また、既存の治療法では効果が得られなかった患者にとって、新たな選択肢となる可能性があります。

   

 

将来的な応用と課題 

デオキシリボースジェルの研究はまだ初期段階であり、現在のところマウスを用いた実験のみが行われています。

 

ヒトへの応用可能性を確認するためには、さらなる研究と臨床試験が必要です。

 

また、今回の実験は男性型脱毛症をモデルにしていますが、女性型脱毛症や抗がん剤治療後の毛髪再生にも効果がある可能性が期待されています。

 

シェフィールド大学のSheila MacNeil氏は、「私たちの研究はまだ初期段階にあるが、結果は有望である」と述べています。

  

 

まとめ

・デオキシリボースジェルは、ミノキシジルと同等の発毛効果を示し、副作用のリスクが低い新たな治療法として期待されている

・血管新生の促進による毛包への栄養供給改善が、発毛効果の鍵である可能性がある

・研究は初期段階であり、ヒトへの応用やさらなる適用分野の探求が求められている

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