脂肪肝の新メカニズム:miR-93とビタミンB3が導く治療の可能性

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「よく知られるビタミンが脂肪肝の進行を抑える可能性がある」そんな新たな可能性が、蔚山(ウルサン)国立科学技術研究所国際研究チームによって示されました。

  

本研究では、脂肪肝疾患(MASLD)の発症と進行に深く関わる分子として「miR-93」が特定され、さらにビタミンB3(ナイアシン)がこの分子を抑制し、肝機能を改善する可能性があることが明らかになりました。

  

すでに安全性が確立されているビタミンを活用できる点は、臨床応用の観点からも非常に重要です。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Fatty liver breakthrough: A common vitamin shows promise(2026/03/24)

 

参考研究)

Hepatic miR-93 promotes the pathogenesis of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease by suppressing SIRT1(2025/04/12)

 

 

脂肪肝の新たなカギ「miR-93」の発見 

 

本研究は、ウルサン国立科学技術院のJang Hyun Choi氏が主導し、プサン国立大学およびウルサン大学病院のProfessor Neung Hwa Parkらと共同で実施されたものです。

 

研究チームは、代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)の進行に関わる分子メカニズムを解明する中で、「microRNA-93」という小さなRNA分子に着目しました。

 

microRNAとは、遺伝子の働きを調整する役割を持つ分子であり、細胞内のさまざまな生理機能に影響を与えます。

 

今回の研究では、miR-93が脂肪肝の発症と進行を制御する中心的な因子であることが初めて明確に示されました。

 

特に重要な点として、以下の知見が得られています。

 

• 脂肪肝患者および動物モデルにおいて、miR-93の発現が著しく増加していた

• miR-93は脂肪蓄積、炎症、線維化(肝臓の硬化)を促進する働きを持つ

 

この発見は、脂肪肝の分子レベルでの理解を大きく前進させるものです。

 

 

miR-93が肝機能を乱す仕組み

研究チームはさらに、miR-93がどのように肝機能を悪化させるのかを詳しく解析しました。 

 

その結果、miR-93は「SIRT1」という遺伝子の働きを抑制することが分かりました。

 

SIRT1は、肝細胞内で脂質代謝を正常に保つうえで極めて重要な役割を担っています。

 

つまり、

• miR-93が増加する → SIRT1が抑制される

• SIRT1が低下する → 脂肪の代謝が乱れる

• 結果として脂肪蓄積・炎症・線維化が進行する 

という流れが明らかになりました。

 

さらに、遺伝子編集技術を用いた実験では、miR-93の働きを抑えたマウスにおいて、肝臓への脂肪蓄積が大幅に減少、インスリン感受性が改善、肝機能全体が向上といった顕著な改善が確認されました。

 

一方で、miR-93を過剰に発現させたマウスでは、代謝異常がより深刻化することも示されており、miR-93が脂肪肝の進行を加速させる因子であることが強く裏付けられました。

 

  

ビタミンB3(ナイアシン)の治療可能性

Hepatic miR-93 promotes the pathogenesis of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease by suppressing SIRT1より

  

研究チームは次に、このmiR-93を抑制できる物質を探すため、FDA(アメリカ食品医薬品局)に承認されている約150種類の薬剤をスクリーニングしました。

 

その結果、最も有効とされたのがナイアシンでした。

  

ナイアシンは古くから脂質異常症の治療に使われてきたビタミンであり、安全性が高いことでも知られています。

 

マウスを用いた実験では、ナイアシン投与によって以下の変化が確認されました。

 

• miR-93の発現が大きく低下

• SIRT1の活性が回復

• 肝臓の脂質代謝が正常化

• 全体的な脂質バランスが改善

  

この結果は、既存のビタミンを用いた新しい治療戦略の可能性を示しています。

 

研究チームは次のように述べています。

本研究はMASLDの分子レベルでの起源を正確に解明し、すでに承認されているビタミン化合物を活用してこの経路を調節できる可能性を示した。これは臨床応用において非常に重要な意味を持つ。

 

さらに、ナイアシンは安全性が確立された薬剤であることから、miRNA経路を標的とした併用療法の有力な候補となり得る点にも触れ、その将来性についても強調しています。

 

 

研究の意義と今後の課題

本研究は、脂肪肝の進行に関与する新たな分子メカニズムを明らかにした点で重要です。

 

特に、miR-93という新規ターゲットの同定、既存のビタミンによる介入可能性の提示という2点は、今後の治療開発に大きな影響を与えると考えられます。

  

ただし、いくつかの注意点もあります。

 

まず、この研究の多くは動物モデル(マウス)に基づいており、人間において同様の効果が得られるかは現時点では完全には確定していません。

 

また、ナイアシンの用量や長期的な影響についても、さらなる臨床試験が必要です。

 

そのため、今回の結果は非常に有望ではあるものの、実際の治療として確立されるには追加研究が不可欠である点には留意が必要です。

 

 

まとめ

・脂肪肝の進行に関与する分子「miR-93」が新たに特定された

・miR-93はSIRT1を抑制し、脂肪蓄積・炎症・線維化を促進する

・ビタミンB3(ナイアシン)がmiR-93を抑制し、肝機能を改善する可能性が示された

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