私たちの身の回りに広く存在する「フォーエバー・ケミカル」と呼ばれる物質が、中年男性において生物学的老化を加速させる可能性があることが、中国の上海・交通大学の新たな研究によって示されました。
研究の中で特に問題視されたのは、PFNA(perfluorononanoic acid)およびPFOSA(perfluorooctanesulfonamide)という2種類の化学物質です。
いわゆるPFAS(per- and polyfluoroalkyl substances)と総称される人工化学物質群に属しており、これらの化学物質の曝露が、エピジェネティックな指標による老化速度と関係するとされています。
今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Forever Chemicals Linked to Faster Aging in Middle-Aged Men, Study Finds(2026/02/26)
・一般財団法人環境イノベーション情報機構 環境風 第4回 PFASの基礎と現状
参考研究)
「分解されない」化学物質の問題

PFASは、1940年代から1950年代にかけて開発され、以降、撥水加工のレインコート、家具の張り地、焦げ付き防止加工のフライパン、食品包装材、消火用フォームなど、極めて幅広い用途に利用されてきました。
これらの物質は、水や油、熱、腐食に強いという特性を持つように設計されています。
その耐久性の源となっているのが、炭素とフッ素からなる非常に強固な結合です。この結合は自然界ではほとんど分解されず、完全に分解されるまでに最大で1000年かかる可能性があると推定されています。
その結果、PFASは環境中に長期間残留し、人間の体内にも蓄積されやすいことが問題視されています。
これまでの研究では、一部のPFASががんや心血管疾患と関連していることが報告されています。
現在、国際的な規制は存在しますが、それは主に「レガシーPFAS」と呼ばれる一部の古い化合物に限られています。
分子構造をわずかに変更することで、新たなPFASが開発され、規制を回避できてしまうという実情があります。
現在も市場には1万2000種類以上のPFASが存在するとされており、その多くについて健康影響は十分に解明されていません。
研究の概要――米国の公的データを用いた解析

今回の研究では、1999年から2000年に実施された米国の「National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)」に参加した326人の男女(中高年層)が対象となりました。
参加者は血液サンプルを提供しており、その血液中の11種類のPFAS濃度が測定されていました。
研究チームは、これらの既存データを用い、参加者の生物学的年齢(biological age)を推定しました。
ここで用いられたのは、従来のテロメア長ではなく、DNAメチル化パターンを指標とする「エピジェネティック・クロック」です。
12種類の最新のエピジェネティック時計を用いて解析が行われました。
DNAメチル化は、遺伝子発現を調節する化学修飾であり、その変化パターンは加齢と強く関連しています。
つまり、実年齢とは別に、身体がどれだけ老化しているかを示す指標として利用されるものです。
PFNAとPFOSAの検出率と影響

PFNAおよびPFOSAは、参加者の約95%の血液中から検出されました。これは、これらの物質が極めて広範に曝露されていることを示しています。
特に注目すべき結果は、50歳から64歳の男性において、PFNA濃度が高いほどエピジェネティック老化が速い傾向が見られたという点です。
ただし、この関連はすべての老化指標で一貫して認められたわけではありません。
また、女性では同様の関連は確認されませんでした。
なぜ性差が生じたのかは明確ではありません。
研究を主導した疫学者Xiangwei Li氏は、次のように述べています。
「男性の方がリスクが高い可能性がある。というのも、今回分析した老化マーカーは喫煙などの生活習慣の影響を強く受けるからである。」
つまり、生活習慣要因がPFASの影響を増幅している可能性が示唆されています。
また、PFOSAについても老化バイオマーカーとの関連が見られましたが、その影響はPFNAとはやや異なるパターンを示していました。
このことから、中年期が環境ストレスに対して特に影響を受けやすい「感受性の窓」である可能性を示唆されています。
因果関係は未確定
ただし、本研究は観察研究であり、PFASが老化を直接引き起こしていると断定することはできません。
例えば、同年代の男性に特有の別の要因が、PFAS曝露レベルと老化速度の両方に影響している可能性も否定できません。
しかし注目すべき点として、
• PFAS濃度は性別や年齢群間で有意差がなかった
• 他のPFASでは老化との関連が見られなかった
という事実があります。
これらの点から、PFNAおよびPFOSAに特有の影響が存在する可能性が示唆されていますが、現時点ではまだ仮説の段階です。
この点については、さらなる縦断研究や実験研究が必要であり、因果関係は確立していません。
Xiangwei Li氏は、個人レベルでの対策として、
• 加工食品の摂取を控えること
• ファストフード容器を電子レンジで加熱しないこと
などを挙げています。
また研究チームは、今後、PFASが他の環境汚染物質とどのように相互作用するのかをモデル化し、化学物質混合曝露の累積リスクを明らかにする研究を進めていると述べています。
現時点での不確実性について
本研究の結果は統計的関連を示すものですが、因果関係は確立されていないことやなぜ男性のみ影響が見られたのかは未解明なこと、老化指標によって結果が一貫していないことなどがあり、解釈には慎重さが求められます。
したがって、本研究は重要な警告を示すものではありますが、現段階では「可能性を示した」研究であることを明確にしておく必要があります。
まとめ
・PFNAおよびPFOSAへの曝露が中年男性のエピジェネティック老化と関連している可能性が示された
・因果関係は未確定であり、性差の理由もまだ解明されていない
・加工食品の制限や容器加熱の回避など、曝露低減策が推奨されている

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