顔の皮膚老化は、年齢とともに誰にでも起こる避けがたい変化ですが、その進行速度や見た目の印象には個人差があります。
これまでの研究では、日光曝露、喫煙、栄養状態、飲料摂取習慣などが皮膚老化に影響すると考えられてきました。
特に、コーヒー、アルコール、紅茶、砂糖入り飲料といった日常的に摂取される飲料と、顔の老化との関連については、多くの観察研究が報告されています。
しかし、従来の研究の多くは「観察研究」に基づくものであり、生活習慣や社会経済的背景といった交絡因子(結果に影響を与える別の要因)の影響を完全には排除できないという問題がありました。
そこで北京連合医科大学の研究者は、メンデルランダム化解析という遺伝学的手法を用いて、飲料摂取と顔の皮膚老化との因果関係を検証しています。
その結果、コーヒー摂取は顔の皮膚老化リスクを低下させる可能性が示されました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Beverage consumption and facial skin aging: Evidence from Mendelian randomization analysis(2024/01/04)
メンデルランダム化の必要性

顔の皮膚老化は、内因性因子(性別、人種、遺伝的要因など)と、外因性因子(日光曝露、喫煙、栄養、生活習慣など)が複雑に絡み合って進行します。
とくに紫外線は最も確立された外因性リスク因子ですが、食生活や飲料摂取も重要な要素と考えられています。
これまで、観察研究の結果や一般的な認識から、以下のような主張がされてきました。
• コーヒーは皮膚の健康を改善する可能性がある
• 紅茶には抗老化作用があるかもしれない
• アルコールは老けた印象を強める可能性がある
• 糖分の多い飲料は皮膚老化を促進する可能性がある
しかし、これらは多くの場合、「コーヒーを飲む人は健康意識が高い」「アルコール摂取量が多い人は喫煙率も高い」といった交絡の影響を受けている可能性があります。
そこで用いられたのがメンデルランダム化解析です。
これは、生まれつきランダムに割り当てられる遺伝子多型(SNP)を「道具(操作変数)」として用いる方法です。
つまり、生活習慣と疾患・老化との因果関係を、交絡や逆因果(結果が原因に影響すること)を最小限にして検証することができます。
研究デザインとデータの概要
本研究は、二標本メンデルランダム化解析を用いて実施されました。
対象はすべてヨーロッパ系集団であり、人種差による影響(集団構造バイアス)を最小限に抑えています。
【対象となった飲料】
• コーヒー
• アルコール
• 紅茶
• 砂糖入り飲料(SSB)
これらの摂取量と関連するSNP(単一塩基多型)が、大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)から抽出されました。
GWASとは、「数十万〜数百万人規模で遺伝子と形質の関連を調べる研究手法」です。
顔の皮膚老化の評価
顔の皮膚老化は、UKバイオバンクの参加者約42万人を対象に、「自分は実年齢より若く見えるか、年相応か、老けて見えるか」という主観的自己評価に基づいて分類されています。
これは定量的な皮膚測定ではないため、評価の曖昧さが残る点は研究の限界として明示されています。
これに対し本研究では、複数の解析手法(IVW法、MR-Egger法、weighted median法など)を用いて検証が行われました。
コーヒー摂取と顔の皮膚老化

その結果、コーヒー摂取量が多い人ほど、顔の皮膚老化のリスクが低いことが示されました。
Beverage consumption and facial skin aging: Evidence from Mendelian randomization analysisより • オッズ比(OR):0.852
• 95%信頼区間:0.753–0.964
• p値:0.011(IVW法)
これは、コーヒー摂取が顔の老化を抑制する方向に因果的に働く可能性を示しています。
さらに、別の独立したGWASデータを用いた再現解析でも同様の結果が得られ、結果の頑健性が確認されました。
一方で、アルコール、紅茶、SSBについては、顔の皮膚老化との有意な因果関係は認められませんでした。
これは「影響が全くない」ことを意味するわけではなく、
• 摂取量の違いを考慮できていない
• 飲料の種類(例:ワインと蒸留酒)が区別されていない
• 遺伝的指標が十分に強くない
といった理由で、因果関係を検出できなかった可能性も指摘されています。
なぜコーヒーは皮膚老化を抑える可能性があるのか

研究者らは、いくつかの生物学的メカニズムを挙げています。
まずは、酸化ストレスと抗酸化作用です。
皮膚老化の中心的要因の一つが酸化ストレスです。活性酸素(ROS)が増えると、皮膚のコラーゲンやエラスチンが分解され、しわやたるみが進行します。
コーヒーにはポリフェノールが豊富に含まれ、強い抗酸化作用を持つことが知られています。
これにより、、活性酸素の除去、コラーゲン分解酵素(MMP)の抑制が起こり、皮膚老化が抑えられる可能性があります。
次に、カフェインと細胞老化との関係についてです。
コーヒーに含まれるカフェインには、フリーラジカル除去作用、損傷した角化細胞の除去、テロメア短縮の抑制といった作用が報告されており、細胞老化そのものを遅らせる可能性が示唆されています。
紅茶やアルコール、SSBについては、過去の研究で肯定的・否定的な結果が混在しています。
本研究では有意な因果関係は示されませんでしたが、摂取量、種類、長期影響を考慮した研究が不足しており、今後の研究課題とされています。
研究の強みと限界
本研究の強みとして、メンデルランダム化により交絡を最小化したこと、大規模GWASデータを使用したこと、再現解析を実施したことが挙げられており、これまでの観察研究では得られなかった結果が示されています。
一方、対象がヨーロッパ系集団に限定されていること、顔の老化評価が自己申告であること、飲料の種類や量の詳細分析が不可能であることなど、依然として不確定要素が強いことが本研究の限界点として指摘されています。
これらの点から、結果の一般化には注意が必要であると論文中でも明確に述べられています。
まとめ
・遺伝学的解析により、コーヒー摂取は顔の皮膚老化リスクを低下させる可能性が示された
・アルコール、紅茶、砂糖入り飲料については、明確な因果関係は確認されなかった
・自己申告評価や集団限定などの限界があり、結果の解釈と一般化には慎重さが必要


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