見えない脂肪が、脳を徐々に萎縮させている可能性がある

科学
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目に見える脂肪だけでなく、体内のどこに脂肪が蓄積しているかという「脂肪分布のパターン」が、脳の老化や認知機能低下と深く関係している可能性があることが、新たな研究によって明らかになりました。

 

特に、膵臓に多く脂肪が蓄積するタイプや、見た目は太っていないにもかかわらず体脂肪率が高い、いわゆる「スキニーファット(隠れ肥満)」と呼ばれるタイプでは、脳の萎縮や神経疾患リスクの上昇が強く関連していました。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

The fat you can’t see could be shrinking your brain(2026/01/28)

 

参考研究)

Association of Body Fat Distribution Patterns at MRI with Brain Structure, Cognition, and Neurologic Diseases(2026/01/27)

 

  

研究を主導した機関と研究の概要

 

本研究を主導したのは、中国・徐州医科大学の研究チームです。

 

研究では、MRI(磁気共鳴画像法)を用いて体内の脂肪分布を詳細に解析し、これまで十分に認識されてこなかった脂肪の蓄積パターンと、脳構造や認知機能との関連を調べました。

 

その結果、従来のBMIや体重だけでは捉えられない、2つの脂肪分布タイプが、特に脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があることが示されました。

 

 

従来の「肥満」概念を超えたアプローチ

  

これまでの研究では、肥満、特に内臓脂肪の増加が脳機能の低下と関連することは、すでに多く報告されてきました。

 

しかし今回の研究は、単に脂肪の量を見るのではなく、脂肪がどの臓器や部位に蓄積しているかに着目した点が大きな特徴です。

 

共同著者であり、同病院の放射線科准教授であるKai Liu氏は、次のように述べています。

 

私たちの研究では、MRIによって内臓を含むさまざまな部位の脂肪量を定量化し、主観ではなくデータ駆動型の分類を行った。その結果、これまで明確に定義されていなかった2つの脂肪分布タイプが、予想外にも浮かび上がってきた。

 

 

UKバイオバンクを用いた大規模解析

本研究では、UK Biobankに登録された25,997人分のMRI画像と健康データが解析に用いられました。

 

UKバイオバンクは、匿名化された脳・全身のMRI画像に加え、身体測定値、年齢、性別、生活習慣、病歴、疾患マーカーなどを統合した、世界最大級の医療データベースです。

 

研究チームは、これらの情報を組み合わせることで、異なる脂肪分布パターンを持つ人々の脳構造、脳年齢、認知機能、神経疾患リスクを比較しました。

 

 

特にリスクが高かった2つの脂肪分布タイプ

解析の結果、多数の脂肪分布タイプの中でも、以下の2つが際立って脳への悪影響と関連していました。

 

① 膵臓優位型(Pancreatic predominant)

OpenStax Collegeより

   

このタイプの特徴は、膵臓に異常に多くの脂肪が蓄積している点です。

  

MRI指標の一つであるプロトン密度脂肪分率(PDFF)による測定では、膵臓の脂肪割合が約30%に達していました。

 

【用語】

・PDFF

MRI(磁気共鳴画像)を用いて肝臓などの組織に含まれる脂肪の割合を物理的・定量的に測定する指標

  

Kai Liu氏は、「この数値は、他の脂肪分布タイプの約2~3倍であり、脂肪の少ない人と比べると最大で6倍にもなる。」と説明しています。

 

また、このグループは、BMIや全身の脂肪量も比較的高い傾向にありましたが、意外にも肝臓の脂肪量は特別高くありませんでした

 

つまり、脂肪肝ではないにもかかわらず、膵臓に脂肪が集中しているという、臨床現場では見逃されやすい特徴を持っていたのです。

 

Kai Liu氏は、日常診療とのギャップについて次のように述べています。

 

放射線診療では『脂肪肝』はよく診断される。しかし、脳構造や認知障害、神経疾患リスクという観点から見ると、膵臓脂肪の増加は、脂肪肝以上に注意すべき高リスク表現型である可能性がある。

  

このタイプでは、灰白質量の減少、脳の加速的な老化、認知機能低下、神経疾患リスクの上昇が一貫して観察されました。

  

  

② スキニーファット型(Skinny fat)

 

もう一つ注目されたのが、見た目はそれほど太っていないにもかかわらず、体脂肪率が高いタイプです。

 

このグループでは、肝臓や膵臓を除くほぼ全身に脂肪が多く、特に腹部に脂肪が集中する傾向が見られました。

 

Kai Liu氏は次のように説明しています。

 

このタイプは、従来の『重度肥満』のイメージには当てはまらない。平均BMIは全カテゴリー中で4番目に過ぎず、むしろ脂肪の“割合”が問題。

 

特に男性では、体重に対する筋肉量が少ない、いわゆる“体重対筋肉比の高さ”が、このタイプを最も端的に表す特徴であると指摘されています。

 

このスキニーファット型でも、灰白質の減少、認知機能の低下、脳年齢の上昇、神経疾患リスクの増加が確認されました。

 

 

性差と研究の限界について

これらの関連は、男女の両方で観察されましたが、影響の大きさや脂肪分布の細かな特徴には、性差が見られました。

 

ただし、本研究は観察研究であり、脂肪分布が直接的に脳萎縮や認知機能低下を引き起こす因果関係を証明したものではありません

 

また、UKバイオバンクの参加者は比較的健康意識が高い集団であるため、結果が一般人口すべてに当てはまるかどうかには不確実性があります

 

これらの点については、研究者自身も慎重な解釈が必要であると述べています。

  

本研究は、心血管疾患や糖代謝異常といった従来の焦点ではなく、脳と認知機能の視点から脂肪分布を評価した点に大きな意義があります。

 

Kai Liu氏は、次のように研究の意義をまとめています。

 

脳の健康は、単に脂肪の量だけで決まるものではありません。脂肪がどこに蓄積しているかが、極めて重要。

  

今後、脂肪分布のタイプを早期に把握することで、認知症予防や脳老化対策としての個別化医療につながる可能性があります。

 

ただし、その実用化には、さらなる縦断研究や介入研究が必要です。

 

 

まとめ

・BMIや体重では見えない脂肪分布が、脳萎縮や認知機能低下と強く関連していた

・膵臓に脂肪が集中するタイプと、スキニーファット型が特に高リスク

・因果関係は未確定であり、今後の追加研究が不可欠

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