腎臓病が心臓に与える致命的な影響

科学
科学
この記事は約5分で読めます。

慢性腎臓病が心不全や心血管疾患のリスクを大きく高めることは、以前から臨床現場で知られていましたが、その直接的な原因については長年不明のままでした。

  

今回、アメリカの研究チームによって、腎臓が放出する微小な粒子が心臓に到達し、障害を引き起こしている可能性が明らかになりました。

   

この発見は、慢性腎臓病患者における心不全の早期発見や、新たな治療法の開発につながる重要な発見とされています。

    

今回のテーマはそんな腎臓と心臓との関係についてです。

   

参考記事)

Finally explained: Why kidney disease is so deadly for the heart(2026/01/20)

 

参考研究)

Circulating Extracellular Vesicles in the Pathogenesis of Heart Failure in Patients With Chronic Kidney Disease(2025/11/03)

 

 

慢性腎臓病と心不全リスクの深い関係

 

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は、世界的に患者数が多い疾患の一つです。

 

アメリカでは国立衛生研究所(National Institutes of Health)の推計によると、約7人に1人、つまりおよそ3,500万人が慢性腎臓病を抱えているとされています。(日本人では成人の10人に1人以上の割合)

   

特に、糖尿病や高血圧といった基礎疾患を持つ人では、その有病率が高いことが知られています。

 

具体的には、糖尿病患者のおよそ3人に1人、高血圧患者の約5人に1人が慢性腎臓病を合併していると報告されています。

 

このように、慢性腎臓病は単独で発症するというよりも、他の生活習慣病と重なり合いながら進行するケースが多い疾患です。

 

一方で、医師たちは以前から、腎臓の機能が低下するほど心臓の予後が悪化し、心不全や心血管イベントのリスクが高まることを経験的に知っていました。

 

しかし、その理由については、肥満や高血圧、糖尿病といった共通の危険因子が多く存在するため、「腎臓そのものが心臓を直接傷つけているのかどうか」を明確に示すことが困難でした。

 

 

腎臓から心臓へ

 

今回の研究を主導したのは、バージニア大学医学部の腎臓内科に所属する内科医・研究者の Uta Erdbrügger氏です。

 

この研究は、UVA Health と マウントサイナイ医療システムの研究者らによる共同研究として実施されました。

 

Erdbrügger氏らの研究チームは、長年未解明であった「腎臓と心臓がどのように情報をやり取りしているのか」という疑問に注目しました。

 

その結果、腎臓特有の因子が心臓に直接悪影響を及ぼしていることを示す明確な証拠を突き止めました。

 

  

新たに特定された原因――細胞外小胞(Extracellular Vesicles)

研究チームが特定した鍵となる存在は、循環性細胞外小胞(circulating extracellular vesicles:EVs) と呼ばれる極めて小さな粒子です。

 

細胞外小胞は、ほぼすべての細胞が産生するもので、通常はタンパク質や遺伝情報などを運搬し、細胞同士の情報伝達を担う役割を果たしています。

 

しかし今回の研究では、慢性腎臓病に罹患した腎臓から放出されるEVsが、通常とは異なる性質を持っていることが示されました。

 

具体的には、これらのEVsが、心筋組織にとって有害なmiRNA(マイクロRNA:非コードRNAの一種)を運搬していることが明らかになったのです。

 

このmiRNAはタンパク質を直接コードしないものの、遺伝子発現を制御する働きを持ち、細胞機能に大きな影響を与えます。

 

研究チームは、このmiRNAが心臓に到達することで、心筋細胞の正常な働きを阻害し、心不全の進行を促進している可能性が高いと結論づけました。

  

 

動物実験と患者データが示した明確な証拠

この仮説を検証するため、研究チームはまずマウスを用いた実験を行いました。

 

その結果、腎臓由来の細胞外小胞が血中を循環するのを阻止すると、心機能が明らかに改善し、心不全の兆候も軽減されることが確認されました。

 

さらに研究チームは、慢性腎臓病患者と健康なボランティアの血漿サンプルを解析しました。

 

その結果、有害な性質を持つ細胞外小胞は慢性腎臓病患者にのみ認められ、健康な人ではほとんど検出されなかったと報告されています。

 

この点について Erdbrügger氏は次のように述べています。

 

腎臓や心臓のような臓器が、どのように互いにコミュニケーションを取っているのかは、医師たちが長年疑問に思ってきたことだ。今回、私たちは腎臓由来のEVが心臓まで移動し、毒性を持ち得ることを示した。これは、まだ理解の入り口に立った段階にすぎない。

 

  

早期発見と新たな治療法への期待

 

今回の研究成果は、臨床応用の面でも大きな可能性を秘めているとされています。

  

まず、血液検査によって、有害な細胞外小胞を検出することで、心不全リスクの高い慢性腎臓病患者を早期に特定できる可能性が示唆されました。

 

また、将来的には、これらの細胞外小胞を中和したり、心臓への到達を阻止したりする治療法が開発される可能性もあります。

 

これが実現すれば、慢性腎臓病患者における心不全の発症や進行を予防、あるいは遅らせることが期待されます。

  

なお、本研究は主に動物実験と血液サンプル解析に基づくものです。

 

細胞外小胞を標的とした治療法が実際に人の心不全を予防・改善できるかどうかについては、今後の臨床試験で検証する必要があります

  

 

まとめ

・慢性腎臓病の腎臓から放出される細胞外小胞が、心臓に直接的な障害を与える可能性が示された

・血液検査による心不全リスクの早期発見や、新規治療法開発につながる可能性がある

・臨床応用にはさらなる研究が必要であり、因果関係の最終的な確立は今後の課題

コメント

タイトルとURLをコピーしました