がんは今、世界規模でかつてない速度で増加しており、医療体制や社会制度がその拡大に十分対応できていない深刻な状況にあります。
1990年以降、世界のがん新規症例数は2倍以上に増加し、2023年には1,850万人に達しました。
さらに、年間のがん死亡者数も1,040万人を超え、特に低・中所得国で急増しています。
研究者らは、現状のまま対策が強化されなければ、2050年には年間3,050万人が新たにがんと診断されると警告しています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・A global cancer surge is underway and the world is not ready(2026/01/12)
参考研究)
世界規模で拡大するがん負荷の実態

本研究は、医学誌『The Lancet』に掲載されたGlobal Burden of Disease Study 2023 Cancer Collaboratorsによる包括的解析です。
研究を主導したのは、アメリカのワシントン大学に所属する保健指標・保健評価研究所(IHME)であり、1990年から2023年までの約30年間にわたるデータを用いて、204の国と地域、47種類のがんを対象に分析が行われました。
その結果、1990年から2023年の間に、世界のがん新規症例数は105%増加し、死亡者数は74%増加したことが明らかになりました。
特に注目すべきは、がん患者の大多数が現在は低・中所得国に集中しているという点でした。
医療技術の進歩が進む一方で、その恩恵が均等に行き渡っていない現状が浮き彫りになっています。
予防可能ながんが全体の4割以上

本研究の重要な結論の一つは、2023年のがん死亡の約42%(約430万人)が、回避可能な44のリスク要因に関連しているという点です。
これらのリスク要因には、喫煙、不健康な食生活、高血糖、肥満、運動不足、過度の飲酒、大気汚染、職業性発がん物質への曝露などが含まれます。
特に、喫煙は単独で世界のがん死亡の21%に関与しており、低所得国を除くすべての所得層で最大のリスク因子となっていました。
一方、低所得国では、安全でない性行為が主要なリスク要因とされ、子宮頸がんなど感染症関連がんの影響が大きいことが示されています。
また、男性のがん死亡の46%、女性では36%が修正可能なリスクに関連していると推定されており、生活習慣や社会環境の改善によって多くの命が救える可能性があることを示しています。
将来予測が示す「人口構造による危機」
研究チームは、2050年までの将来予測も行っています。
それによると、今後25年間でがん新規症例数は61%増加し、年間3,050万人に達するとされています。
死亡者数も同期間で約75%増加し、年間1,860万人ががんで命を落とすと予測されています。
重要なのは、年齢調整後の発症率や死亡率そのものは、世界全体では必ずしも上昇しないと見込まれている点です。
つまり、がん増加の主因は、個人のリスク悪化ではなく、人口増加と高齢化という人口動態の変化であると考えられています。
しかし、この「自然増」とも言える要因であっても、医療体制が脆弱な国々にとっては致命的な負担となり得ます。
国・地域間で拡大する不平等

1990年から2023年の間に、年齢調整死亡率は世界全体で24%低下しましたが、この改善は主に高所得国と上位中所得国で達成されたものでした。
対照的に、低所得国ではがんの年齢調整発症率が24%、下位中所得国では29%増加しており、地域格差が拡大しています。
国別では、レバノンが発症率・死亡率ともに最大の増加率を示し、カザフスタンでは死亡率の最大の低下が観察されました。
また、2023年時点で最も診断数が多かったがんは乳がんであり、死亡原因としては引き続き気管・気管支・肺がんが最多でした。
研究者が訴える国際的行動の必要性
筆頭著者であるLisa Force氏(ワシントン大学・IHME)は、「がんは今後数十年で大幅に増加し、特に資源の限られた国々で不均衡に拡大する」と指摘しています。
また、Theo Vos氏(IHME)は、「既知のリスク因子に対処することで、多くのがんと死亡は予防可能である」と述べ、個人レベルと社会レベルの双方での対策の重要性を強調しています。
さらに、ネパール保健研究評議会のMeghnath Dhimal氏も、低・中所得国におけるがん増加を「差し迫った災害」と表現し、分野横断的かつ多部門連携による対応の必要性を訴えています。
研究の限界と不確実性について
本研究は、利用可能な最良のデータに基づいていますが、低資源国ではがん登録制度や死亡登録の不備が存在し、推計値に不確実性が残ることが著者らによって明記されています。
また、ヘリコバクターピロリ(胃がんの主要原因)やビルハルツ住血吸虫(膀胱がんの主要原因)など、一部の感染症関連リスクが完全には反映されておらず、修正可能リスクに起因するがん死亡が過小評価されている可能性があります。
加えて、COVID-19パンデミック、武力紛争、将来の医療技術革新などの影響は予測に含まれておらず、将来のがん動向はさらに悪い方向に変化する可能性がある点にも注意が必要です。
本研究が示すのは、がんが単なる医療問題ではなく、社会構造、経済格差、政策の優先順位と深く結びついた地球規模の課題であるという現実です。
予防、早期診断、治療への公平なアクセスを確保できるかどうかが、今後数十年の世界の健康を左右すると言えるでしょう。
まとめ
・世界のがん症例と死亡は急増しており、2050年には年間3,050万人が新規診断されると予測されている
・がん死亡の約4割は喫煙や不健康な食生活など、修正可能なリスク要因に関連している
・低・中所得国での負担増大とデータ不足が深刻で、国際的かつ公平な対策が急務


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