清涼飲料水や菓子類、調味料など、超加工食品に広く使われている果糖(フルクトース)は、これまで肥満や糖尿病との関連が主に議論されてきました。
一方、近代の主な死亡原因の一つとなっているがんとの関係については十分に解明されていませんでした。
この度、アメリカ・セントルイス・ワシントン大学の研究チームによる新たな研究により、果糖ががん細胞を直接養うのではなく、「肝臓の代謝を介して、がんが好む栄養環境を作り出している」という、新たなメカニズムが示されました。
この研究は、メラノーマ、乳がん、子宮頸がんといった複数のがん種で共通する仕組みを明らかにしており、食事とがんの関係、さらには治療戦略の考え方そのものを見直す重要な示唆を含んでいます。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Research reveals how fructose in diet enhances tumor growth(2024/12/04)
参考研究)
・Dietary fructose enhances tumour growth indirectly via interorgan lipid transfer(2024/12/04)
果糖摂取量の急増とがん研究の背景

果糖は果物や野菜などの自然食品にも含まれる糖ですが、現代の食生活において問題視されているのは、高果糖コーンシロップ(果糖ブドウ糖液糖など)として大量に加工食品へ添加されている点です。
特に過去50年ほどの間に、清涼飲料水や超加工食品の普及とともに、果糖の摂取量は急激に増加しました。
研究チームによると、1960年代以前人々が年間に摂取していた果糖量は約3.8kgでしたが、21世紀に入るとその量は約56.8kgにまで達しているといいます。
これは、意識的に避けない限り、日常的な食事の中に果糖が深く入り込んでいることを意味します。
このような食生活の変化を背景に、研究チームは「果糖ががんの進行にどのような影響を及ぼしているのか」という問いに注目しました。
果糖が直接がんを育てるワケではない

本研究を率いたのは、以前、人工甘味料と肝臓との関係でも紹介したセントルイス・ワシントン大学の化学教授Gary Patti氏および、Patti研究室に所属する博士研究員のRonald Fowle-Grider氏です。
研究チームはまず、メラノーマ(悪性黒色腫)、乳がん、子宮頸がんの動物モデルを用い、果糖を多く含む食事を与えた場合に腫瘍の成長がどう変化するかを調べました。
その結果、体重や空腹時血糖値、インスリン値に変化がないにもかかわらず、腫瘍の成長速度が大幅に加速することが明らかになりました。
中には、腫瘍の成長率が2倍以上に達した例もあったといいます。
しかし、ここで研究者たちは大きな疑問に直面しました。
がん細胞を体外で培養し、果糖を直接与えても、がん細胞はほとんど成長しなかったのです。
この結果は、「果糖が直接がん細胞の栄養になっているわけではない」ことを示していました。
鍵を握っていたのは「肝臓」
この謎を解くために用いられたのが、メタボロミクス(代謝物解析)という手法です。
これは、体内を移動する小分子を網羅的に測定し、どの臓器で何が起きているかを詳細に追跡する方法です。
解析の結果、果糖を多く摂取した動物では、血中にさまざまな脂質分子が増加していることが分かりました。
特に顕著だったのが、リゾホスファチジルコリン(LPC)と呼ばれる脂質です。

研究により、肝臓の細胞が果糖を代謝し、その結果としてLPCを産生・分泌していることが明らかになりました。
そして、このLPCこそが、がん細胞の成長を支える重要な栄養源になっていたのです。
がん細胞が脂質を欲しがる理由

がんの本質的な特徴の一つは、制御不能な細胞分裂です。
細胞が分裂するたびに、細胞膜をはじめとする構造を新たに作り直す必要があり、その材料として大量の脂質が必要になります。
理論上、がん細胞は脂質を自ら合成することも可能ですが、近年の研究では、多くのがん細胞が「作る」よりも「取り込む」ことを好むことが分かってきました。
しかし、脂質は血液中に溶けにくく、輸送が難しいという問題があります。
その点でLPCは例外的な存在であり、血中を移動しやすく、効率よくがん細胞に取り込まれる脂質であることが示されています。
Patti氏は、この点について次のように述べています。
「LPCは、腫瘍の成長を支えるための、最も効率的な脂質供給経路の一つである可能性がある。」
食事とがん治療の新しい視点
本研究が示した重要な点は、がん治療の標的が必ずしもがん細胞そのものに限られないという考え方です。
果糖を代謝するのは主に肝臓という正常な臓器であり、その代謝産物が結果として腫瘍を支えていました。
つまり、正常細胞の代謝を調整することで、がんの成長を抑えるという新しい治療戦略が考えられるのです。
研究チームはすでにマウス実験でこの考え方の有効性を示しており、将来的には薬剤による介入も視野に入れています。
若年層のがん増加との関連は未解明

アメリカでは、果糖摂取量が急増した時期と重なるように、50歳未満の若年層における一部のがん発症率が増加していることが知られています。
ただし、今回の研究はあくまで動物実験が中心であり、果糖摂取とがん発症率の因果関係が人間で直接証明されたわけではありません。
この点について、Patti氏自身も慎重な姿勢を示しており、現在は世界中の研究者と協力して、疫学的な関連を検証する国際的な研究プロジェクトが進行中です。
Pattiは、「もしがんを患っているのであれば、果糖の摂取を減らすことを考える価値はある」と述べています。
しかし同時に、現代の食環境では果糖を完全に避けることは極めて難しいとも指摘しています。
清涼飲料水や菓子類だけでなく、パスタソース、ドレッシング、ケチャップなど、一見健康的に見える食品にも高果糖コーンシロップは広く使われています。
この現実が、食事介入だけに頼らない治療法開発の必要性を浮き彫りにしています。
研究の限界と今後の課題
本研究は動物モデルを中心に行われており、人間における影響の大きさや適用範囲については、今後の臨床試験を待つ必要があります。
また、すべてのがん種が同じメカニズムで果糖の影響を受けるかどうかも、現時点では、膨大な臨床試験や明らかになっていないがんの性質など、いくつもの壁があるため完全に解明することは困難です。
それでも本研究は、「食事」「肝臓の代謝」「がん」という三者の関係を明確に結びつけた点で、非常に重要な知見を提供しています。
まとめ
・果糖は、直接がん細胞の栄養となるのではなく、肝臓で脂質に変換されることで、間接的に腫瘍の成長を促進することが示された
・人間における影響については、今後の臨床検証が必要
・食事制限だけでなく、正常細胞の代謝を標的とする新しいがん治療戦略につながる可能性がある


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