遺伝的に認知症になりやすい人でも、運動による認知症予防は効果的であることが示唆

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近年、身体を動かす習慣が脳の健康に大きく寄与することが広く知られるようになり、血流改善や神経可塑性の向上、慢性炎症の抑制といった生物学的メカニズムが、長期的な認知機能の維持に関わる可能性が示されてきました。

 

特に認知症の予防という観点では、運動習慣が重要であるという知見が積み重ねられています。

 

しかし、運動の効果が「どの年齢段階で最も大きいのか」や「遺伝的リスクを持つ人にも効果があるのか」といった点については、長らく明確な答えがありませんでした。

 

若年期の運動が重要なのか、それとも中年期以降でも十分に効果が期待できるのか、これらは一般の人々にとっても、保健医療の専門家にとっても重要な関心事でした。

 

今回、アメリカで長期的に実施されてきた Framingham Heart Study(フラミンガム・ハート・スタディ) の最新データを用いた研究が発表され、これらの疑問に対してより明確な示唆を与える結果が示されました。

 

研究チームはFramingham Heart Studyに登録された4290人の成人のデータを解析し、若年期から高齢期に至るまでの運動習慣と、その後の認知症発症リスクとの関係を検証しました。

 

この研究は多世代・長期間・大規模という点で質が高く、これまでの疑問に対する重要な手がかりを提供しています。

 

参考記事)

Exercise at One Stage of Life May Cut Dementia Risk by Up to 45%(2025/11/21)

   

参考研究)

Physical Activity Over the Adult Life Course and Risk of Dementia in the Framingham Heart Study(2025/11/21)

 

 

研究の背景と対象

Physical Activity Over the Adult Life Course and Risk of Dementia in the Framingham Heart Studyより

  

Framingham Heart Studyは1948年から続く心血管疾患リスクを中心とした世界的に有名な前向き研究であり、初代コホートからその子ども世代まで継続的に健康指標が追跡されてきました。

  

特に研究の第二世代目にあたる「Offspring cohort」は1971年に登録され、その後約4〜8年ごとに健康・医療評価を受けてきました。

  

本研究では、1970年代から2000年代にかけて複数回収集された身体活動データをもとに、参加者を以下の3つの年齢段階に分類して解析しています。

• 若年期(26〜44歳)

• 中年期(45〜64歳)

• 高齢期(65歳以上)

 

活動量の評価には、階段の上り下りといった日常的な軽度活動から、激しい運動まで、参加者が自己申告したデータが用いられました。

 

なお、自己申告に基づくデータであることから、記憶の偏り(リコールバイアス)が生じている可能性があります

 

また、参加者のうちアルツハイマー病の発症リスクを高めることで知られる APOE ε4 遺伝型 を持つ人と持たない人の間で、運動習慣がどのように影響するかも解析されました。

 

 

主な研究結果 

  

調査期間中、全体の 13.2%(567人) が認知症を発症しました。

 

この割合は他の同様のコホート研究と比較してやや高い傾向があり、またオーストラリアの高齢者(65歳以上)における認知症有病率8.3%よりも高いという特徴があります。

 

身体活動量との関連では以下の重要な結果が示されています。

Physical Activity Over the Adult Life Course and Risk of Dementia in the Framingham Heart Studyより

・PAIは身体活動の強度を表す

1を基準として、5になるにつれて活動量が増える

  

【結果】

・中年期および高齢期で活動量が高い人は、認知症リスクが41〜45%低い

年齢・教育歴・高血圧・糖尿病などの要因を調整した後でも、この関連は維持されていた

  

・若年期(26〜44歳)の運動量は、認知症リスク低減とは有意に関連しなかった

若年期データにおける認知症発症者が少なかったことも結果解釈を難しくしており、若年期の運動効果については明確な結論はまだ得られていない

 

  

遺伝的リスクと運動の関係

本研究の大きな特徴は、APOE ε4 遺伝型との関連を詳細に調べた点にあります。

結果は以下のように示されました。

・中年期では、運動が認知症リスクを下げたのはAPOE ε4 を持たない人のみ

・高齢期では、ε4 の有無に関わらず運動習慣がリスク低減と関連

 

このことから、遺伝的リスクが高い人でも、高齢期に運動をすることが認知症の予防になる可能性が示唆されました。

 

遺伝的素因は変えられませんが、生活習慣によって一定の影響を軽減できる可能性が示された点は、多くの人にとって希望となる知見といえます。

  

  

研究の限界と考慮すべき点

研究者自身もいくつかの限界を指摘しています。

• 身体活動データが自己申告であるため精度に限界がある

• 若年期の認知症症例が少ないため、若年期の影響ははっきりしない

• 参加者の大半がヨーロッパ系で同一地域出身のため、他民族集団への一般化には注意が必要

• 運動の「種類」や「強度」ごとの効果は不明

 

特に、民族・文化背景が異なる集団では認知症リスクの差や診断アクセスの不均衡が指摘されており、今後多様な背景をもつ集団での研究が求められています。

 

研究結果を総合すると、今回の研究は次のようなメッセージを示しています。

 

どの年齢でも、特に45歳以降では、活動量を増やすことが認知症予防に有益である可能性が高い。」

 

今回の研究もまた、運動が健康だけでなく認知に有効であることを裏付ける根拠の一つとして考えられるものですね。

   

何より、年をとってからでも運動の効果を期待できるのは大きな希望です。

    

   

まとめ

・中年期(45〜64歳)と高齢期の身体活動は、最大45%の認知症リスク低減と関連していた

・APOE ε4 遺伝型を持つ人でも、高齢期の運動は有益である可能性が示された

・若年期の運動効果についてはデータが限られており、明確な結論は得られていない

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