超加工食品の問題は個人の弱さではなく「商業的利益」が原因

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世界的に超加工食品の消費量が増え続け、伝統的な食文化や食事習慣が急速に置き換えられています。

  

この現象は、私たち一人ひとりの意志の弱さではなく、巨大な食品企業が推し進める強力な商業的戦略によって引き起こされていると指摘されています。

   

今回The Lancetに発表された3本の主要論文は、超加工食品の拡大が健康、経済、文化、そして地球環境に深刻な影響をもたらす可能性を示しており、世界レベルでの対策の必要性を強調しています。

   

今回のテーマは、そんな食品産業と健康問題についての研究です。

  

参考記事)

The ultra-processed foods problem is driven by commercial interests, not individual weakness. Here’s how to fix it(2025/11/20)

  

参考研究)

Ultra-processed foods and human health: the main thesis and the evidence(2025/11/18)

Policies to halt and reverse the rise in ultra-processed food production, marketing, and consumption(2025/11/18)

Towards unified global action on ultra-processed foods: understanding commercial determinants, countering corporate power, and mobilising a public health response(2025/11/18)

 

  

超加工食品とは何か:工業的に設計された“食べやすい”食品

 

論文では、超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPFs)を「工業的原料と化学的添加物を用いて加工され、元の食材がほとんど残っていない食品」と定義しています。

 

一般的には以下のような食品が含まれます。

  

• 清涼飲料水

• スナック菓子

• 加糖されたシリアル

• インスタント食品

など

  

これらの食品は加工度が高く、Nova分類で“グループ4”に当たる食品に該当します。

  

NOVAの基準を参考に作成

  

著者らは、超加工食品が伝統的な食事を置き換え、栄養素の質を著しく下げていると警告しています。

 

 

世界規模で進む食生活の変化と超加工食品の台頭

研究チームの最初の論文では、世界中で超加工食品が食生活を席巻しているという事実をまとめています。

  

超加工食品の摂取割合の増加

 

具体的には、

• アメリカ、イギリス、カナダでは、総摂取エネルギーの約50%が超加工食品由来

• オーストラリアも同様に極めて高い水準

• 途上国でも都市化や多国籍企業の影響により急増傾向

といった調査結果が示されています。

 

なお、国ごとのデータの一部については研究者が引用している先行研究の範囲に基づくものであり、国によっては最新の統計が存在しない可能性があるため、事実が曖昧である点も付記されています。

 

 

超加工食品の摂取が引き起こす健康リスク

 

第一の論文では、栄養面および健康リスクに関する知見も整理されています。

  

【栄養面の特徴】

超加工食品を多く食べる人ほど、以下の特徴がみられるとされています。

• 砂糖・飽和脂肪・エネルギー密度が高い

• 食物繊維、ビタミン、ミネラルが不足

• 食品の“噛む回数”が少なく、摂食スピードが上昇 

 

このような栄養構造は、結果的に過食を促進します。

 

【104件の長期研究が示した慢性疾患との関連

研究チームは104件の長期研究をまとめ、92件の研究で超加工食品の高摂取と以下の疾患リスク上昇が関連していたと報告しています。

 

• 肥満

• 二型糖尿病

• 高血圧

• 高コレステロール血症

• 心血管疾患

• 慢性腎臓病

• クローン病

• うつ病

• 全死亡率の上昇

 

“栄養成分だけの問題ではない”

 

臨床試験では、同じ栄養バランス(タンパク質・脂質・炭水化物比)で比較しても、

• 超加工食品中心の食事では1日500〜800kcal多く摂取

• 体重・脂肪量が増加

• 食べるペースが速い

ことが確認されています。

 

これは、超加工食品特有の、柔らかい食感、高い嗜好、強い味付けが、過食を誘発するためと考えられています。

  

ただし、これらの因果関係の一部は観察研究に基づいているため、完全に因果を断定できない部分があり、事実が曖昧な可能性もあることが示されています。

 

 

政府が取るべき4つの柱

 

第二論文では、政府が取り組むべき具体的な方策が整理されています。

 

1. 製品改革では不十分「添加物に基づく規制へ」

砂糖を別の甘味料に置き換えるなどの単純な“代替品の選択”は問題の本質を解決しません。

 

研究チームは、

• 色素

• 香料

• 人工甘味料

• 異常に高い糖・脂肪・塩分

といった「超加工食品を判断するマーカー」を用いて規制対象を特定すべきだと提案しています。

  

2. 食環境の改善

• パッケージ前面への警告ラベル表示(義務化)

• 18歳未満向けマーケティングの禁止、特にデジタル領域

• 清涼飲料税(20%以上)や超加工食品への課税

• 学校・病院などからの超加工食品撤去

• スーパーでの陳列比率の制限

• 学校周辺での販売制限

これらはすでに実施している国もありますが、日本ではほとんど導入されていません。

 

 

3. 企業の市場支配力への規制

論文によれば、超加工食品企業は巨大であり、製品ポートフォリオを監視・制限する政策が必要とされています。

 

また、独占禁止法の強化市場支配的企業への課税改革なども提案されています。

 

 

4. 補助金・農業政策・供給網の見直し

現在、欧米における農業補助金の多くは、超加工食品の原料となるトウモロコシ、大豆、砂糖などの大規模農業に向けられています。

 

論文では、これらの補助金を伝統的・健康的な食品の供給に振り向けるべきだと述べています。

 

 

なぜ超加工食品が世界を席巻しているのか

  

第三論文では、「なぜ超加工食品が世界の食卓を支配しているのか」という根本原因に迫っています。

 

結論として、その原因は“企業の利益構造”にあるといいます。

  

論文によると、超加工食品は食品産業にとって最も利益率の高いビジネスモデルです。

 

そのため企業は、

• 市場拡大

• 科学研究への影響

• メディア戦略

• 規制の妨害

といった形で、積極的に超加工食品を世界中に広めているとされています。

 

実際、2024年には主要食品メーカーの広告支出が世界保健機関(WHO)の年間予算の総額を上回ったと記されています。

 

ただし、この財務比較データについては、交差する複数の統計源を基にした推計値の可能性があるため、数値の厳密性には曖昧さが残る点も付記されています。

  

企業は、ロビー活動、訴訟、自主規制の提案、企業資金による研究のスポンサー化といった手法を用いて規制を遅らせていると論文は指摘しています。

  

 

必要なのは“世界規模の公衆衛生アプローチ”

研究チームは、超加工食品問題に対する包括的な国際的対応として次の3点を強調しています。

  

• 超加工食品ビジネスモデルの修正(課税・廃棄物規制など)

• 政策決定プロセスから企業の影響力を排除する仕組み

• 専門家・市民社会・政府が連携したグローバルな政策推進

  

著者らは、これらが実現しなければ、超加工食品の影響は健康だけでなく経済・文化・環境にも広がり、世界的な損失が続くと警告しています。

 

   

まとめ

・超加工食品の増加は個人の弱さではなく、強力な商業的戦略によって推進されていることが研究で示された

・健康リスクは多面的であり、世界各国が政策レベルで包括的な対応を行う必要がある

・企業の市場支配力と利益構造を規制し、健康的で持続可能な食環境をつくる国際的協働が求められている

  

  

超加工食品の急速な拡大は、単なる個々人の食習慣の問題にとどまらず、社会全体の健康や医療費、さらには文化の持続可能性にまで大きな影響を及ぼす構造的な課題であることが、今回の一連の研究から明確になったと言えます。

   

超加工食品においては、牛乳が健康的かどうか、グルテンはどうか、お酒はどうか……、という論点とは次元が異なるレベルで、健康に害があることが明白です。

    

特に重要なのは、この問題が“個人の努力不足”として消費者に責任を押し付けられるべきものではなく、巨大企業が高利益を維持するために展開してきた強力な商業的戦略によって形成された環境によるものであるという点です。

   

つまり、個人の意思だけでは到底対抗できない“仕組みの問題”であるという認識が不可欠です。

  

実際、日本でも糖尿病、肥満、心血管疾患など生活習慣病の増加が深刻化し、医療費の膨張は国家財政における大きな懸念事項となっています。

  

これらの疾患の背景には、食習慣の乱れ、とりわけ超加工食品の広がりが密接に関係していることが指摘されつつあります。

  

記事中でも述べたように、日本では超加工食品に対する規制は極めて限定的で、パッケージ前面警告表示の義務化、子ども向けマーケティングの禁止、超加工食品に対する課税など、国際的に有効性が示されている政策はほとんど導入されていません。

   

今後、日本が医療費の抑制と国民の健康維持を両立させるためには、個人の努力に依存した健康政策から脱却し、食環境そのものを是正する制度的アプローチが不可欠です。

  

企業の影響力を排除し、科学的根拠に基づいた規制の導入、学校や公共施設から超加工食品を減らす仕組み、そして健康的な食品の供給を支援する農業・流通政策の再構築が求められます。

  

超加工食品の問題は世界的な構造変化の一部であり、日本も例外ではありません。

  

むしろ今こそ、国際的な知見を積極的に取り入れ、将来の医療費と健康格差を抑制するための実効性ある規制を整備することが急務であるといえるでしょう。

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