頭痛に悩む多くの人にとって、痛み止めは頼りになる存在です。
しかし、その薬が実は頭痛を悪化させている可能性があるかもしれません。
ブリストル大学心理学・神経科学者Dan Baumgardt博士は、そういった薬と体の関係を分析した第一人者です。
「薬剤使用過多による頭痛(Medication-Overuse Headache)」という現象は医学的にもよく知られており、原因となる薬剤を止めることで多くの場合は回復可能です。
しかし、それを知っていなければ、良かれと思って使用している薬剤が悪い方向に作用したままであることも容易に想像できます。
今回のテーマはそんな副作用を引き起こす、身近な薬剤の研究についてのまとめです。
参考記事)
・Pain Drugs Could Be The Cause of Your Headaches. Here’s Why.(2025/11/10)
参考研究)
・Service use and costs for people with headache: a UK primary care study(2011/07/09)
・Headaches in over 12s: diagnosis and management(2012/09/19)
頭痛の背景:その多様な原因と診断の難しさ
イギリスでは1,000万人以上の人が定期的に頭痛を経験しており、これは全GP受診の約25件に1件を占めています。(Headaches in over 12s: diagnosis and managementより)
その多くは深刻な病気の兆候ではなく、良性の頭痛です。
実際、頭痛がある人のうち脳腫瘍が原因であるケースは1%未満にすぎません。
医師や医療機関によって詳細な病歴の聴取と身体診察が行われ、原因が不明な場合は専門医の紹介が必要になることもあります。
問題は、その頭痛が深刻な疾患のサインなのか、そうでないのかを見極めることです。
良性の頭痛であっても、日常生活に重大な支障を及ぼすことがあり、適切な治療が欠かせません。
生活習慣の影響

治療法は頭痛の種類によって異なります。
たとえば片頭痛には、制吐薬(吐き気止め)やβ遮断薬が用いられることがあり、不安やうつが関連する頭痛では心理的サポートが有効な場合もあります。
また、食事内容の見直しや運動など生活習慣の改善も、多くの慢性的な頭痛に効果をもたらします。
しかし、医師たちが頻繁に遭遇するのが「特定のパターンを示す持続的な頭痛」です。
患者は「数か月間、痛み止めを定期的に服用しているうちに頭痛が悪化した」と訴えることが多く、その期間が3か月以上続くと、薬剤使用過多による頭痛が疑われます。
症状の特徴と発生メカニズム
このタイプの頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、あるいは腰痛・関節痛など他の慢性痛を持つ人々にも発生します。
痛みを抑えようと薬を繰り返し使ううちに、知らず知らずのうちに薬の副作用による頭痛が発生し、結果として「痛みを取るための薬が痛みを作る」という悪循環に陥ります。
統計的には、全人口の1〜2%がこの頭痛を経験しており、特に女性に多く発症(男性の3〜4倍)します。
つまり、薬そのものが原因となっている可能性が高いのです。
問題の主因:痛み止めの種類とその副作用

最も問題となるのはコデインなどのオピオイド系鎮痛薬です。
【用語】
・コデイン
脳の延髄に作用して咳中枢の働きを抑える
肝臓でモルヒネに変換されることで、痛みを和らげる
これらは手術後や外傷後の中等度の痛みに使われますが、便秘、眠気、吐き気、幻覚、そして頭痛といった副作用が多数報告されています。
ただし、強力なオピオイド系薬剤だけが原因ではありません。
アセトアミノフェンやNSAIDs(イブプロフェンなど)といった一般的な市販薬も関与することがあります。
中には、アセトアミノフェンとオピオイドを組み合わせた薬も存在します。
アセトアミノフェンの安全性とリスク
アセトアミノフェンは副作用が比較的少なく、年齢と体重に応じた推奨用量を守れば安全で効果的です。
この安全性と手軽さから、世界中で最も利用されている鎮痛薬のひとつとなっています。
しかし、過剰摂取や長期使用は極めて危険であり、肝不全など致命的な合併症を引き起こすおそれがあります。
さらに、重大な副作用は少ないとされているものの、定期的なパラセタモールの使用だけで慢性頭痛が誘発される可能性があることも、近年の研究で示されています。
トリプタン系薬剤の影響と「過剰使用」の意味
片頭痛の発作を止めるために用いられるトリプタン系薬も、使用頻度が高すぎると薬剤使用過多頭痛を引き起こすことがあります。
「過剰使用」という言葉から、処方量を超えて服用していると思われがちですが、実際には用量を守っていても、使用頻度が多いだけで発症するケースが多く見られます。
一般的には……
• アセトアミノフェンやNSAIDsは月15日以上
• オピオイドは月10日以上
の使用で、この頭痛が現れるリスクが高まるとされています。
つまり、市販薬であっても長期間の使用には注意が必要です。
誰にでも起こるわけではない:個人差の存在

もちろん、すべての人が薬剤過多による頭痛を発症するわけではありません。
体質や代謝の違い、薬剤への感受性など、個人差が大きく影響すると考えられています。
この点については、現在も医学的に完全には解明されておらず、なぜ特定の人だけが影響を受けるのかは不明です。
多くの患者にとって、「痛みを抑えるために飲んでいた薬が痛みの原因だった」という事実を受け入れるのは簡単なことではないでしょう。
しかし、治療の第一歩は、原因となっている薬の使用を段階的に減らし、最終的に中止することです。
この過程では、患者自身が独断で薬を断つと、かえって痛みが増したり、離脱症状が出たりすることもあるため、医師の指導と経過観察が不可欠です。
したがって、医師と相談しながら慎重に減薬を進めることが重要です。
また、頭痛が月15日以上続く場合には必ずかかりつけ医を受診することが勧められます。
日々の症状や服薬状況を記録する「頭痛日記」も診断の助けになります。
未解明な点
なぜ痛み止めが頭痛を悪化させるのか、正確なメカニズムは未だ明らかではありません。
脳内の痛み伝達システムや神経化学的変化が関与している可能性がありますが、研究は進行中です。
それでも今や、薬の使用過多と慢性頭痛の間には確実な関連があることが広く認識されています。
痛み止めを長期間使う場合には、必ず医師と相談し、服用頻度を管理することが大切です。
記事では、多くの患者が薬をやめて初めて気づくことがあると紹介されています。
それは、「痛みを和らげていると思っていた薬こそが、実は痛みを生み出していた」という驚くべき事実です。
なにより大切なのは、薬を飲まずに済むような生活習慣です。
日々の食や運動、ストレスと向き合い、改善を探ることも、そういった薬から遠ざかる手段となるでしょう。
まとめ
・痛み止めの長期使用は、薬剤使用過多による頭痛を引き起こす可能性がある
・オピオイド系薬だけでなく、パラセタモールやイブプロフェンなど一般的な薬も原因となり得る
・薬を服薬頻度が高い場合は、必ず医師に相談し、自己判断での継続を避けることが重要


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