日々の健康管理のためにスマートウォッチやフィットネストラッカーで歩数を測定している人は多いでしょう。
1日の歩数は、身体活動量を測る便利な指標のひとつです。
しかし、単に歩数だけに基づいた健康推奨では、見落とされている重要な要素があることが新たな研究で明らかになりました
イギリスの大規模健康データベース「UKバイオバンク」に登録された3万3000人以上の成人を対象にした最新研究によると、「どのように」歩くか、つまり歩数の分布や歩行のまとまり方が、将来の健康状態に影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・One Factor in Walking May Improve Your Heart Health More Than Your Step Count(2025/10/30)
参考研究)
・Step Accumulation Patterns and Risk for Cardiovascular Events and Mortality Among Suboptimally Active Adults(2025/10/28)
長く続けて歩く人ほど、死亡リスクや心疾患リスクが低下
本研究の分析では、1日の歩数の多くを「長めの散歩」に費やしていた人々の方が、短時間の断続的な歩行をしていた人々よりも、全死因による死亡リスクが低かったことが確認されました。

さらに、長時間歩行を行っていた人は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの発症リスクも低かったことがわかりました。
この傾向は、1日に歩いた総歩数を考慮に入れた後でも維持されていたと報告されています。
研究の共同責任者であるシドニー大学の公衆衛生研究者 Matthew Ahmadi 氏は次のように述べています。
「医療専門家が1日1万歩を目標と推奨しているという印象を持つ人も多いですが、必ずしもそうではない。1日に10〜15分程度の“少し長めのウォーキング”を1〜2回追加するだけでも大きな健康効果が得られる可能性がある。特に普段あまり歩かない人にとっては有益」
研究デザインと結果:8,000歩未満の中年・高齢者に焦点

この大規模な分析では、40歳から79歳までの、心血管疾患やがんを持たない成人が対象とされました。
被験者の多くは、1日の歩数が8,000歩未満という比較的活動量の少ない人々でした。
参加者には1週間のあいだ、活動量を測定できるトラッカーを装着してもらい、そのデータをもとに分析が行われました。
結果として、1日の歩数の大半を10〜15分以上の連続した歩行(長めの散歩)で稼いでいた人々では、今後10年間に心血管系イベント(心臓発作や脳卒中など)を経験する確率が約4%だったことが判明しました。
一方で、5分未満の短い歩行を繰り返していた人々では、心血管疾患を発症するリスクが約9%高かったとされています。
さらに、死亡リスクについても、長時間の歩行を行う人では1%未満であったのに対し、短時間歩行を中心とする人では約4%に達していました。
このように、「歩く量」よりも「歩くまとまり方」や「継続時間」が、心臓の健康維持において重要な要素であることが示唆されています。
最も顕著な効果は、普段あまり歩かない人で観察
特に注目すべきは、1日あたり5,000歩未満しか歩かない“低活動群”において、長時間の連続歩行が死亡リスクを最大で85%低下させたという点です。
この数値は非常に印象的ですが、研究チームも慎重な姿勢を見せています。
本研究は観察的研究であり、データはわずか3日から1週間程度の身体活動記録に基づいています。
そのため、因果関係を断定することはできないと明記されています。
それでも、サンプル数が非常に多いこと、また同様の傾向を示す他の研究が存在することから、「運動時間の長さ」や「継続性」が健康に寄与するという考え方は一定の裏づけを得つつあると言えます。
一部研究では「短く速い歩行」の方が有益という報告も
ただし、すべての研究が同じ結果を示しているわけではありません。
一部の研究では、「短時間でも速いペースのウォーキング」が長時間のゆっくりした散歩よりも健康効果が高いという結果も報告されています。
今回のUKバイオバンクの分析では、歩行速度(pace)そのものは十分に評価されていなかったため、歩くスピードと健康効果の関係については今後の研究が必要とされています。
したがって、総歩数だけでなく、「どのように歩くか」を考慮することが今後の公衆衛生の課題であると考えられます。
専門家の見解:継続的な歩行が代謝と循環に好影響を与える可能性

本研究には関与していなかった専門家たちも、この結果に注目しています。
スタンフォード大学の心臓専門医 Fabian Sanchis-Gomar 氏、ジョン・オクスナー心血管研究所の Carl Lavie 氏、そしてウッチ医科大学の Maciej Banach 氏らは以下のように述べています。
「継続的なウォーキングは心代謝系の働きを高め、血流の改善やインスリン感受性の向上を促す可能性がある」と指摘しています。
彼らは「短時間の断続的な運動では、これらの生理的効果が十分に得られない可能性がある」と述べ、持続的な運動の生理的メリットを評価する臨床試験の必要性を強調しています。
また、応用統計学者の Kevin McConway 氏もこの研究に関わってはいませんが、「興味深い結果ではあるものの、今後の研究で再現性を確認する必要がある」と述べています。
「どのくらい歩くか」よりも「どう歩くか」
シドニー大学の運動科学者であり研究著者のEmmanuel Stamatakis氏は、今回の研究が示す新しい視点について次のように説明しています。
「これまでの焦点は“歩く量”や“1日の歩数”に置かれていましたが、実際には“どのように歩くか”という点が見落とされていた。この研究は、非常に活動量の少ない人でも、歩行パターンを変えることで心臓の健康効果を最大化できることを示している。理想的には、1回10〜15分のウォーキングを意識的に取り入れることが望ましい」
まとめ
・ある程度の歩行(10〜15分程度)を取り入れることで、総歩数が少なくても心臓疾患リスクと死亡リスクを低減できる可能性がある
・最も効果が見られたのは、普段の活動量が少ない人々であり、85%もの死亡リスク低下が観察された
・ただし本研究は観察的であり、因果関係を断定するには今後の臨床試験が必要

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