薄毛治療において最も広く用いられている薬剤のひとつであるミノキシジル(Minoxidil)に、ある天然甘味料を組み合わせることで、効果を飛躍的に高められる可能性があることが最新の研究で明らかになりました。
研究チームは、中国とオーストラリアの共同グループであり、特にオーストラリアのシドニー大学(ユニバーシティ・オブ・シドニー)の薬理学者Lifeng Kang氏がこの研究を主導しました。
研究者たちは、ステビア(キク科の多年草)由来の天然甘味料「ステビオシド(stevioside)」を利用することで、従来のミノキシジル治療の欠点を克服できる可能性を見出しています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Natural Sweetener Boosts a Common Treatment For Hair Loss, Study Reveals(2025/10/15)
参考研究)
ミノキシジルの課題と「ステビオシド」の役割

ミノキシジルは、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)の代表的な治療薬として世界的に使用されています。
この薬は主に頭皮に塗布する外用薬として使われ、血流を促進して毛包(毛根を包む組織)の働きを活性化させることによって発毛を促します。
しかし、最大の問題は「皮膚への浸透率が低い」という点にあります。
塗布しても成分の多くが皮膚の表面に留まり、十分に毛包まで届かないのです。
これまでにも、薬剤の吸収を高めるための方法として「マイクロニードルパッチ(微小針パッチ)」が開発されてきました。
マイクロニードルは、皮膚表面に微細な針状の穴を開け、薬剤を毛包の深部まで浸透させる技術です。
ただし、この方法にも課題があり、薬剤の溶解性や安定性の面で限界がありました。
そこで研究チームが注目したのが、ステビオシドという天然甘味料でした。
ステビオシドは、ミノキシジルを水に溶かしやすくする特性を持っています。
研究者たちは、ステビオシドをミノキシジルに加え、さらにマイクロニードルパッチに組み込むことで、薬剤の吸収効率を劇的に高められるのではないかと考えました。
マウス実験で確認された発毛効果
研究チームは、遺伝的に脱毛が起こるよう改変されたマウスを用いてこの新しい治療法の効果を検証しました。
実験では、以下の3種類の処置が行われました。
1. 通常のミノキシジル溶液を塗布
2. ミノキシジルを含むマイクロニードルパッチを使用
3. ステビオシドを加えたミノキシジル・マイクロニードルパッチを使用
Natural Sweetener Stevioside-Based Dissolving Microneedles Solubilize Minoxidil for the Treatment of Androgenic Alopeciaより
その結果、最も高い効果を示したのはステビオシド入りのマイクロニードルパッチでした。
このグループでは、治療開始からわずか35日後に治療部位の67.5%が毛で覆われるという顕著な発毛が確認されたのです。
一方、通常のミノキシジル溶液を用いた場合、同じ期間での発毛面積はわずか25.7%にとどまりました。
さらに重要な点として、発毛が始まる時期が約1週間早まったことも報告されています。
これは、毛包が休止期から成長期に移行する割合が顕著に増加したことを意味しています。
研究者たちは、「毛包の成長期への移行が有意に増加し、その結果、治療部位の67.5%が毛に覆われた」と論文中で述べています。
人間への応用には慎重な検証が必要

こうした結果は非常に有望ですが、現時点ではマウス実験の段階にとどまっている点に注意が必要です。
研究チーム自身も、「これらの結果はマウス毛に対するものであり、人間の毛髪で同様の効果が得られるかはまだ不明である」と慎重な見解を示しています。
今後の課題としては、
• マイクロニードルの材質(金属製か可溶性か)
• 薬剤の放出速度(持続放出型システムなど)
• 臨床シナリオに応じた適用方法
といった技術的側面の検討が必要とされています。
また、大型動物での追加実験を経てからでなければ、人間での臨床試験には進めないとしています。
副作用や長期使用時の安全性も未知数であり、継続的な検証が不可欠です。
日常的な使用への可能性と課題

現行のミノキシジル治療は、1日1回以上の塗布を継続する必要があります。
そのため、多くの患者にとっては「毎日の手間」や「頭皮への刺激」が治療継続の障壁となっています。
一方で、マイクロニードルパッチを用いる方法であれば、薬剤をより効率的に毛包へ届けることが可能となり、使用頻度を減らせる可能性もあります。
しかし同時に、繰り返し適用しても皮膚に負担がかからない構造であることが求められます。
研究を主導したLifeng Kang氏は次のように述べています。
「ステビオシドを用いてミノキシジルの浸透性を高めることは、より自然で効果的な薄毛治療への重要な一歩を示している。この方法は、世界中の数百万人の人々に新たな恩恵をもたらす可能性がある。」
この発言からも分かるように、研究チームは「天然成分による副作用の少ない治療法」という方向性を強調しています。
化学的な添加物に頼らず、自然由来の物質で治療効果を高めるアプローチは、今後の皮膚・毛髪再生分野で注目されるテーマとなりそうです。
今後の展望と慎重な評価の必要性
この研究が注目を集める理由は、既存治療を大きく変える可能性を秘めている点にあります。
ミノキシジルはすでに世界的に承認された外用薬ですが、その吸収効率や個人差が課題でした。
もしステビオシドを組み合わせたマイクロニードル方式が安全かつ有効であることが実証されれば、
より少ない用量・低頻度で高い発毛効果を得られる「次世代の薄毛治療」が実現するかもしれません。
ただし現段階では、人間での臨床データが存在しないため、効果を断定することはできません。
また、長期的な安全性や皮膚への影響、薬剤耐性などの問題も未解明です。
今後の研究では、
• ステビオシドとミノキシジルの相互作用の分子メカニズム
• 長期使用時の副作用や炎症反応の有無
• 発毛サイクルへの影響の詳細な評価
などが求められると考えられます。
今回の研究は、天然甘味料ステビオシドがミノキシジルの発毛効果を高める可能性を示した初の報告です。
マイクロニードルパッチという新たな送達技術と組み合わせることで、毛包までの薬剤到達率を飛躍的に高める道が開かれました。
ただし、現段階ではマウス実験の結果に基づくものであり、人間への臨床応用にはさらなる検証が必要です。
それでもこの成果は、薄毛治療の新たな地平を切り開く可能性を秘めていると言えるます。
まとめ
・ステビオシドを加えたマイクロニードルパッチが、ミノキシジルの吸収率と発毛効果を著しく高めた
・マウス実験では、治療35日後に67.5%の発毛面積を達成し、通常のミノキシジルの約2.5倍の効果を示した
・人間への臨床応用はまだ先であり、安全性と長期的効果の検証が今後の課題である



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