脳神経の変性が始まるもっとも早い段階、いわゆる「前駆期パーキンソン病」の兆候は、一般的に知られる手の震えや動作の遅れ、平衡感覚の異常などの明確な症状が現 れる前に起こるとされています。
この初期段階では、脳の神経変性がすでに進行し始めているにもかかわらず、本人や医師がパーキンソン病を明確に診断することは難しいのが現状です。
このたび、中国・復旦大学栄養学研究所の研究チームが行った長期追跡研究により、超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPFs)の摂取量が多い人ほど、パーキンソン病の初期兆候が早く現れる可能性があることが示唆されました。
研究を主導したXiang Gao博士は次のように述べています。
「健康的な食事は神経変性疾患のリスクを下げることが知られており、今日の食事の選択が将来の脳の健康に大きな影響を及ぼす可能性がある。私たちの研究は、砂糖入り飲料やスナック菓子などの加工食品を多く摂取することが、パーキンソン病の初期兆候を早めている可能性を示している」
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Eating ultra processed foods may speed up early signs of Parkinson’s disease | ScienceDaily(2025/05/08)
参考研究)
・Long-Term Consumption of Ultraprocessed Foods and Prodromal Features of Parkinson Disease(2025/05/07)
研究の概要と方法

この研究には42,853人の参加者が登録され、平均年齢は48歳でした。
研究開始時点では、いずれの参加者もパーキンソン病を発症していませんでした。
追跡期間は最長で26年間に及び、参加者は定期的に健康診断を受け、健康に関する詳細な質問票に回答しました。
研究チームは、パーキンソン病の前駆期に見られる以下のような初期兆候の有無を評価しました。
• レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder)
• 慢性的な便秘
• 抑うつ症状
• 体の痛み
• 色覚障害
• 昼間の過度な眠気
• 嗅覚の低下
さらに、参加者は2~4年ごとに食事日記を提出し、食べた食品の種類や摂取頻度を詳細に記録しました。
研究者はこれらのデータをもとに、各参加者が1日に平均してどの程度の超加工食品を摂取していたかを算出しました。
超加工食品の分類と摂取量の分析

研究では、以下のようなカテゴリーに該当する食品を「超加工食品」と定義しています。
• ソース類、スプレッド、調味料
• 包装されたスイーツやデザート類
• スナック菓子、チップス、甘味デザート
• 人工甘味料または砂糖入り飲料(清涼飲料水など)
• 加工された肉類(ホットドッグ、ベーコンなど)
• ヨーグルト系または乳製品系デザート
• 塩味のパッケージ食品(クラッカー、ナッツスナックなど)
1回分の摂取量(1サービング)は、おおよそ次の基準で換算されました。
• 炭酸飲料1缶
• ポテトチップス約28グラム(1オンス)
• ケーキ1切れ
• ホットドッグ1本
• ケチャップ大さじ1杯
その後、参加者を摂取量に応じて5つのグループに分けました。
最も多いグループは1日に平均11サービング以上の超加工食品を摂取しており、最も少ないグループは1日に3サービング未満でした。
主要な研究結果

年齢、喫煙、身体活動量などの要因を調整した上で分析した結果、次のような傾向が明らかになりました。
・1日に11サービング以上の超加工食品を摂取する人は、3サービング未満の人と比べて、パーキンソン病の初期兆候が3つ以上見られる確率が2.5倍高い
・個別の症状別に見ても、便秘を除くほぼすべての初期兆候が超加工食品の摂取量と関連
この結果は、超加工食品を多く摂ることが脳の変性を加速させる可能性を示唆しており、研究チームは「食生活が神経変性の進行に影響を与える要因になり得る」との見解を示しています。
この結果から、Xiang Gao博士は次のように述べています。
「加工食品を減らし、より自然で栄養価の高い食品を選ぶことが、脳の健康を維持する戦略となるかもしれない。今回の結果を裏付けるためには、さらなる研究が必要」
この研究は観察研究であるため、因果関係を直接的に証明したわけではない点に注意が必要です。
つまり、「加工食品が初期兆候を引き起こした」と断定できるわけではなく、他の生活習慣要因が影響している可能性もあります。
また、研究の制約として、摂取量が自己申告に基づいていたことが挙げられます。
参加者がどの程度の加工食品を摂取したかを正確に記憶していなかったり、回答に偏りが生じていたりする可能性も否定できません。
このように国際的な支援のもとで実施された長期研究は、食事と脳疾患の関係を理解するうえで重要な一歩となっています。
研究の意義と社会的影響
今回の研究は、「食事と脳の健康との関係」をめぐる議論に新たな視点を提供しました。
これまで、超加工食品は肥満や糖尿病、心疾患との関連で注目されてきましたが、神経変性疾患への影響は十分に解明されていませんでした。
今回の結果から、「食生活が脳の老化速度や神経の損傷に影響を与える可能性」がより明確になりつつあります。
復旦大学の研究は、将来的に食事指導や公衆衛生政策に反映される可能性もあります。
特に、加工食品の摂取量を減らすよう促す食事ガイドラインや教育活動の必要性が改めて強調されるでしょう。
一方で、今回の結果はあくまで「関連性」を示すにとどまっており、因果関係の確定にはさらなる臨床試験や脳画像研究が必要です。
とはいえ、食生活の改善がパーキンソン病の発症リスク低減に寄与する可能性があるという点は、社会的にも極めて重要な示唆といえます。
まとめ
・超加工食品を多く摂取する人は、パーキンソン病の初期兆候が現れる可能性が2.5倍高いことが明らかになった
・加工食品の摂取量が多いほど、便秘以外のほとんどの初期症状が増加傾向を示した
・フーダン大学の研究チームは、健康的な食事習慣が脳の老化を防ぐ鍵になる可能性を指摘している


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