ソフトドリンクの摂取とうつ病のリスク上昇の関係

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ドイツのゲーテ大学の研究で、ソフトドリンクの摂取が特に女性のうつ病発症リスクを高める可能性があることが明らかになりました。

 

腸内細菌の変化、特にEggerthella属の増加がその一因と考えられています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Soft Drinks’ Effect on the Gut Tied to Increased Risk for Major Depressio(2025/09/30)

 

参考研究)

Soft Drink Consumption and Depression Mediated by Gut Microbiome Alterations(2025/09/24)

 

 

ソフトドリンクとうつ病の関係

 

新たな研究によると、ソフトドリンクの摂取量が多い女性では、うつ病(Major Depressive Disorder, 以下MDD)の発症リスクが16.7%高くなり、症状もより重くなることが示されました。

 

この関連性は、特に腸内細菌叢の変化を介して説明される部分が大きく、特にEggerthella属という細菌の増加が、うつ病診断の3.8%、症状の重症度の5.0%と関連していることが推測されています。

 

研究を主導した、ドイツ・フランクフルトにあるゲーテ大学附属フランクフルト大学病院精神医学・心理療法・心身医学科のSharmili Edwin Thanarajah医師は次のように述べています。

 

私たちの研究結果は、糖分や人工甘味料を多く含む清涼飲料の摂取が、腸と脳をつなぐ経路を通じてうつ病のリスクや症状の重さに関連している可能性を示している

 

Thanarajah医師はまた、医師が患者の食生活を確認する際にはソフトドリンクの摂取状況を尋ねるべきであると強調しました。

 

 

過去の研究との整合性

これまでも複数の疫学研究で、ソフトドリンク摂取とうつ病の関連性が報告されてきました。

 

例えば、米国のある研究では、清涼飲料を常飲する女性は、4年間で大うつ病を発症する確率が34%高かったことが示されています。

  

また、30万人以上を対象とした10件の研究をまとめたメタ分析でも、ソフトドリンクの摂取がうつ病リスクを高めることが確認されています。

 

ただし、これらの研究の多くは自己申告による症状を基にしており、臨床的に診断された大うつ病と腸内細菌との関係までは明らかにされていませんでした。

 

今回の研究は、その点を踏まえ、腸内環境の変化という生物学的メカニズムに焦点を当てて検証しています。

 

 

研究デザインと対象者

この研究では、932人の成人を対象に調査が行われました。

 

そのうち405人がDSM基準で大うつ病と診断され、527人が健康な対照群でした。

 

MDD群の平均年齢は36歳、女性の割合は67.9%。対照群では平均年齢35歳で女性65.5%と、性別・年齢は近似していました。

 

一方で、BMIと教育年数に有意差があり、MDD群では平均BMIが26.04、教育年数が13.45年、対照群ではそれぞれ24.08と14.10年でした。

 

参加者は、過去1年間の炭酸飲料の摂取頻度を食品摂取頻度調査票(FFQ)を用いて報告しました。

  

摂取頻度は「全く飲まない」から「1日に数回」までの範囲で回答し、研究者はその総量(g)および摂取カロリー(kcal)を算出しました。

 

 

女性で顕著な関連性

 

解析の結果、全体としてソフトドリンクの摂取量が多いほどMDDの診断率がわずかに高くなる傾向が見られました(オッズ比1.081、95%信頼区間1.008–1.159、P=0.03)。

 

特に女性においてはその影響が顕著で、摂取量が多い女性はMDDになる確率が17%高かった(オッズ比1.167、P=0.003)ことが示されました。

  

一方、男性では統計的に有意な関連は認められませんでした。

 

また、うつ症状の重症度もソフトドリンク摂取量と比例して悪化しており、この関係も女性のみで有意でした。

 

BMI、抗うつ薬の使用、教育年数、総摂取カロリーなどの要因を統制した後も、女性における関連は依然として有意でした。

 

研究チームは、なぜこの関係が女性に強く表れるのかについて、ホルモンや生物学的要因の影響が考えられると述べています。

 

ただし、女性参加者が多かったことが結果の偏りに影響した可能性も指摘しています。

 

 

腸内細菌の変化とメカニズム

Thanarajah医師らの以前の研究では、Eggerthella属やHungatella属といった嫌気性グラム陽性菌がMDDに関与していることが示唆されていました。

 

今回の研究でも、便サンプルを解析した結果、女性においてソフトドリンクの摂取量が多いほどEggerthella属の割合が有意に増加していることが分かりました。

 

一方、Hungatella属との関連は認められませんでした。

 

このEggerthellaの増加が、ソフトドリンク摂取とうつ病発症リスクを媒介しており、全体効果の約3.8%、症状重症度の約5%との関連性が示唆されました。

 

これらの結果は、BMIや総摂取カロリーを統制しても統計的に有意でした。

 

Eggerthella属は通常、健康な腸内では少数しか存在しませんが、炎症促進性の性質を持つことが知られており、精神疾患への関与が注目されています。

 

 

ソフトドリンクが腸と脳に与える影響

 

Thanarajah医師によると、液体の糖分は固形食と異なり、急速に吸収されて血糖値を上昇させ、腸や脳に直接影響を与える可能性があります。

 

これにより、炎症性細菌の増殖報酬系の乱れが生じ、うつ症状を悪化させると考えられています。

 

また、アスパルテームやサッカリンなどの人工甘味料を含む飲料も、腸内細菌叢を乱す可能性があります。

 

ただし本研究では、糖入り飲料と人工甘味料入り飲料の違いを明確に区別できなかったため、この点は今後の研究課題とされています。

 

 

政策的含意と今後の課題

研究者らは、今回の結果がソフトドリンクの販売制限や課税政策など、健康政策の正当性を裏付けるものだと述べています。

 

一方で、この研究は観察研究に基づく媒介モデルを使用しているため、因果関係を直接的に証明するものではないことも明記されています。

 

さらに、不安障害との併存(MDD患者の31%)を十分に統制できなかった点や、自己申告による食事データに伴う偏りなどの制限もあります。

 

米国マサチューセッツ総合病院のUma Naidoo医師(ハーバード大学医学部 精神医学科講師)は、この研究について次のように評価しています。

 

ソフトドリンクとうつ病の関連が、腸内細菌叢の変化、特にEggerthella属の増加を介していることを初めて示した点が重要

 

Naidoo医師はまた、この結果がマイクロジェンダローム(microgenderome)」と呼ばれる概念と一致していると指摘します。

 

これは、腸内細菌が性ホルモンと相互作用し、性差に基づく神経精神的影響をもたらすという仮説です。

 

彼女は、「女性が腸内細菌に関連する神経精神的影響を受けやすく、特に炎症性の細菌群(Eggerthellaなど)に敏感であることを裏付ける」と述べました。

 

また、Naidoo医師は、うつ病の予防と治療において食事指導を統合する重要性を強調し、今後はランダム化比較試験やメカニズム研究を通じて因果関係をさらに明確にすべきだとしています。

 

 

まとめ

・ソフトドリンク摂取の増加は、特に女性におけるうつ病の発症リスクおよび症状の重症化と関連している

・この関連は腸内細菌Eggerthella属の増加が関係していると考えられる

・ソフトドリンクの種類や甘味料の違いによる影響、因果関係の解明にはさらなる研究が必要

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