コーヒーが脂肪肝を守る?非アルコール性脂肪肝疾患への予防効果を探る

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コーヒーは世界中で最も親しまれている飲料の一つです。

 

20世紀半ばには、コーヒーの発がん性が危険視されたこともある一方、近年の研究においては慢性肝疾患を持つ人々において、コーヒーを飲むことが肝硬変のリスクを下げることや、肝細胞がんの発症率を減少させる可能性が示されています。

 

最近では、世界中で罹患率が上昇している非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD: Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)に対するコーヒーの影響に注目が集まっており、特に、炎症、線維化、肝がん予防の観点から、保護作用を持つことが示唆されています。

 

リスク因子や交絡因子を完全に排除できていない研究もあるものの、コーヒー摂取がNAFLDの重症度を低減させる可能性が高いというエビデンスが蓄積されていることが明らかになっています。

 

今回はそんなコーヒーと非アルコール性脂肪肝疾患について、複数の臨床データを分析した研究についてです。

 

参考研究)

Coffee and non-alcoholic fatty liver disease: Brewing evidence for hepatoprotection?(2013/11/07)

 

 

主要な結果と見解

研究はレビュー形式で行われ、これまでの疫学的研究および臨床試験データを総覧し、「コーヒーが非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に対してどのような保護的効果をもたらすか」が整理されました。

 

結果的にはコーヒーを飲むことによるメリットが多く見られましたが、因果関係を確定するような介入試験は少なく、ほとんどが観察研究です。

 

従って、「相関があるが因果性が必ずしも確定していない」点は注意が必要です。

 

論文では以下のような内容が示されました。

 

コーヒー摂取とNAFLDの重症度

Coffee and non-alcoholic fatty liver disease: Brewing evidence for hepatoprotection? より一部抜粋

 

・多くの観察研究で、コーヒーを飲む人は NAFLD の重症度が軽いという傾向が報告されている

 

・「bright liver(超音波で肝臓が高輝度に見える状態)」の程度とコーヒー摂取量との間に逆相関が認められ、コーヒーを飲むほどその高輝度の程度が低い可能性がある

 

・コーヒー摂取者では、非アルコール性脂肪肝炎(NASH: Non-Alcoholic Steatohepatitis)の炎症や線維化のマーカーが低めであるという報告が複数存在する

 

 

潜在的なメカニズム

論文では、コーヒーがNAFLDに対して保護的に作用する可能性のある複数のメカニズムを考察しています

  

・抗酸化作用:コーヒーに含まれるポリフェノールなどが酸化ストレスを軽減すること

  

・抗炎症作用:炎症性サイトカインの発現を抑制するなど、肝細胞の炎症反応を低める作用

 

・抗線維化作用:線維化の進行を抑える方向の効果。肝硬変の予防にもつながる可能性があると論じられている

  

・化学予防作用(chemopreventive):肝細胞がんなどの発症抑制の可能性があり、特に長期的な観察でのデータが期待されているが、まだ限定的

 

 

エビデンスの限界と交絡因子

論文は複数の限界を明らかにしています。

・研究の多くが横断的・観察的であるため、コーヒー摂取が結果を引き起こしているかどうか、因果関係は確立されていない(相関はあっても、他の要素の影響を完全に排除できていないものがある)

 

・コーヒーの種類(フィルター式・エスプレッソ式・インスタントなど)、含まれる成分(カフェイン以外のポリフェノールや他の物質)、また摂取量の定義が研究間でばらつきがあり、比較が難しい

 

・肥満度、インスリン抵抗性、遺伝的素因、飲酒歴、食事様式、他の生活習慣など、NAFLD の重症化に関与する多くの因子があるため、これらを制御できていない研究も多い

 

 

臨床的・公衆衛生的意義

このレビューが示すところによれば、NAFLD の予防・重症化抑制のためのライフスタイル要因として、コーヒー摂取が一つの検討すべき因子であることが指摘されています。

  

また、医師や公衆衛生の専門家は、コーヒーを「悪くない習慣」としてだけでなく、適量であれば肝臓への利益の可能性がある点を考慮する余地があることも見られています。

 

今後、介入試験を通じて、どの種類のコーヒーがどのくらいの量で、どのような頻度で、どのような患者に対して効果をもたらすかを明らかにする必要があることが課題とされています。

 

 

曖昧・未確定な点

 

コーヒー摂取がNAFLDの進行を確実に抑制するという因果の証明は、現時点では十分ではありません。

   

相関を示すデータは多い一方、摂取を操作した試験の数は少ないためです。

  

摂取量の「適切な量」がどれくらいかは明らかでありません。

  

過剰摂取による他の健康リスクも考慮する必要があります。

  

どの構成成分(カフェイン、クロロゲン酸、カルフェノール様物質等)がどの程度寄与しているか、またそれが個人差(遺伝、飲み方、体質等)とどう関わるかは未解明な部分が多いのも事実です。

  

このレビュー研究は、コーヒー摂取が非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の重症度を減少させる可能性を示唆しており、特に炎症、線維化、肝がんリスクの観点が注目されています。

  

研究を主導した大学としては、浙江大学およびオーストラリア国立大学らの研究者はは、「因果関係を確立するには更なる介入研究が必要であり、現在のデータは主に観察研究に基づくもの」とも但し書きをしています。

   

  

まとめ

・コーヒー摂取は NAFLD の重症度を低減させる可能性が高い(bright liverの程度が低い、炎症・線維化のマーカーが低いなど)

・「bright liver」=超音波検査で肝臓の内部エコーが著しく高輝度(白く)見える状態

・コーヒーには抗酸化・抗炎症・抗線維化などの肝保護作用をもたらす成分が含まれており、それがNAFLD改善に関与している可能性がある

・ただし、因果関係の確立、適切な種類・摂取量・頻度の特定、及び交絡因子の排除など、未解明な点が多いため、将来の介入試験が望まれる

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