大麦やオーツに含まれる「ベータグルカン」が体重減少に寄与する可能性──オゼンピックと似た作用

科学
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近年、腸内に存在する微生物の研究が進展し、栄養学の分野では大きな「革命」が起きつつあると言われています。

  

特に食物繊維は、これまで健康維持に欠かせない要素として広く認識されてきましたが、その多様性や具体的な効果については未解明な部分が少なくありません。

 

近年は、食物繊維が「新しいタンパク質」とも呼ばれ、健康効果を期待してさまざまな食品に添加されるケースが増えています。

中でもオーツ麦や大麦に豊富に含まれるβグルカンが、血糖コントロールや体重減少に大きく寄与する可能性があると報告されています。

 

すべての食物繊維が同じように有益であるわけではなく、種類によって健康効果に差がありますが、その内容を知ることは健康的な生活を送る上での重要なヒントとなるでしょう。

  

以下に研究の内容をまとめます。

  

参考記事)

A Type of Fiber May Have Weight Loss Benefits Similar to Ozempic(2025/09/11)

 

参考研究)

Impact of Plant-Based Dietary Fibers on Metabolic Homeostasis in High-Fat Diet Mice via Alterations in the Gut Microbiota and Metabolites(2025/05/10)

  

  

研究の背景と目的

 

研究は、アリゾナ大学とウィーン大学の共同研究チームによって実施されました。

   

主導したのはUAの生物医学科学者であるFrank Duca氏とElizabeth Howard氏らです。

  

従来から、食物繊維は腸内細菌のエネルギー源であり、消化管の健康や代謝改善に重要な役割を果たすことが知られています。

 

しかし、繊維には可溶性・不溶性を含めて多種多様な種類が存在し、それぞれがどのように体に作用するのかについては、統一的に調査された例がほとんどありませんでした。

  

この研究では、異なる種類の食物繊維を同一条件下のマウスに与え、その効果を直接比較することで、「どの種類の繊維が体重減少や血糖改善に最も有効なのか」を明らかにすることを目的としていました。

 

 

研究の方法

研究チームは高脂肪食を与えたマウスを対象に、以下の複数の食物繊維を18週間にわたり投与しました。

・ベータグルカン(オーツ、大麦に豊富)

・小麦デキストリン

・ペクチン

・レジスタントスターチ(難消化性デンプン)

・セルロース

  

これらの繊維を与えられたマウス群と、繊維を与えない対照群を比較し、体重や脂肪量、腸内細菌の構成、さらには代謝に関連する分子変化を詳細に観察しました。

  

  

主な研究結果

研究結果、以下のような傾向が見られました。

   

 

・ベータグルカンを与えられたマウスは、体重と脂肪量が有意に減少した

→ ベータグルカンを摂取したマウスでは、Ileibacteriumという特定の腸内細菌が増加しており、過去の研究からこの菌は体重減少と関連していることが知られている

→ 一方、他の食物繊維では同様の効果は見られなかった

    

・ベータグルカンを摂取したマウスでは、腸内で酪酸(Butyrate)の濃度が増加していた

→ 酪酸は食物繊維を腸内細菌が発酵する際に生成される短鎖脂肪酸の一つであり、健康に多くの恩恵をもたらすことが確認されている。

→ また、酪酸はGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の分泌を促すことが知られている

  

GLP-1は食欲を抑制し、インスリン分泌を促進するホルモンであり、糖代謝の改善や体重減少に直結する重要な因子です。

  

現在糖尿病や肥満の治療薬として使用されているオゼンピック(Ozempic)などのセマグルチド製剤が模倣している物質であり、ベータグルカン摂取が薬剤と類似した経路で効果を発揮する可能性が示されました。

 

 

専門家の見解

研究を主導したFrank Duca氏は、次のようにコメントしています。

   

食物繊維が重要で有益であることは分かっていますが、問題はその種類があまりに多いことです。我々は、体重減少や血糖改善に最も有効な繊維を特定することで、消費者だけでなく、農業産業にとっても役立つ情報を提供したいと考えました

  

さらに、Duca氏はベータグルカンの効果について、GLP-1による作用だけでは説明できない部分もあると指摘しています。

  

酪酸は腸のバリア機能を強化したり、肝臓をはじめとする末梢臓器に直接的に作用する可能性も考えられており、その多面的な効果の全貌を明らかにするにはさらなる研究が必要だとしています。

  

  

今後の課題とヒトへの応用可能性

今回の研究はマウスを対象とした動物実験であり、その結果をそのままヒトに当てはめることはできません。

  

研究チームも「人間に応用するには、さらに多くの臨床試験が不可欠である」と強調しています。

  

一方で、既にベータグルカンはオーツ麦や大麦といった身近な食品に豊富に含まれており、日常の食事から自然に摂取することが可能です。

  

実際、アメリカでは推奨される食物繊維の摂取量が1日25~30グラムとされていますが、現状では5%未満の人しか基準を満たしていないと報告されています。

 

この点を踏まえると、ベータグルカンを意識的に取り入れることは、将来的な体重管理や糖尿病予防の観点から有益である可能性があります。

  

  

研究の意義

この研究の最大の意義は、これまで漠然と「体に良い」とされてきた食物繊維の中でも、種類ごとに大きな差があることを示した点にあります。

  

特に、オゼンピックのような薬剤が標的とする経路を自然な食物から刺激できる可能性は、医療・栄養学の両面において非常に重要です。

  

ただし、この知見をもって直ちに「βグルカンが薬の代替になる」と断言するのは科学的に不正確です。

  

ヒトでの大規模な検証が行われるまでは、あくまで有望な可能性の一つにとどまることを忘れてはなりません。

 

 

まとめ

・ベータグルカンはマウス実験で体重減少や血糖改善に効果を示した

・その作用はGLP-1を介し、オゼンピックに似た経路で働く可能性がある

・ただし、ヒトにおける効果は未検証であり、今後の臨床研究が必要である

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