医療や健康の分野において、大麻由来の成分は常に注目の的です。
日本でも2024年12月以降に医療用大麻が解禁され、病気の治療や加齢に伴う身体的・認知的な衰えを緩和に関する研究も進んでいます。
今回、イギリスの研究者らが2008年から2023年までの15年間にわたる18件の研究を精査し、その成果を統合した結果、大麻化合物が健康的な加齢を促進する可能性を持つことが報告されました。
現段階では人間における知見がまだ不十分であり、今後さらなる調査が必要とされていますが、健康への関与という点において興味深い内容となっています。
今回のテーマはそんな大麻の成分とその効果についてです。
参考記事)
・Compounds in Cannabis Promote Healthy Aging, New Study Discovers(2025/08/25)
参考研究)
・The impact of cannabis use on ageing and longevity: a systematic review of research insights(2025/07/29)
研究の概要

今回の研究は、イギリスの研究チームが動物実験と人間を対象とした臨床試験を含む既存研究を系統的にレビューしたものです。
対象となった論文は2008年から2023年までの15年間に発表された合計18件で、マウスやラットといった動物モデル、さらには人間の被験者を対象とする臨床的調査も含まれていました。
研究者たちは論文の中で、「前臨床モデル、臨床研究、世界的なデータから得られた知見を統合することにより、カンナビノイドが健康的な加齢を促進し、加齢関連の衰退を軽減する可能性を模索した」と述べています。
注目された化合物:CBDとTHC

研究チームが特に焦点を当てたのは、カンナビジオール(CBD)とテトラヒドロカンナビノール(THC)という2種類の主要な大麻由来化合物です。
これらは大麻植物に含まれる数多くの成分の中でも特に研究が進んでいる物質であり、それぞれに異なる作用があります。
・CBD(カンナビジオール)
精神活性作用がほとんどなく、抗炎症作用や不安軽減作用が注目されている
医療用としても利用されることが増えており、てんかんや不安障害などに効果があるとされている
・THC(テトラヒドロカンナビノール)
大麻の精神活性作用の主要因となる成分
疼痛緩和や食欲増進作用など医療的に有用とされる側面がある一方、いわゆる「ハイ」な状態を引き起こす物質として規制の対象とされている
動物実験での有望な結果
動物モデルを用いた研究では、CBDやTHCが加齢に伴う変化を緩和する効果が示されました。
具体的には以下のような結果が報告されています。
・炎症の減少
・学習能力や記憶力の改善
・寿命の延長
これらの知見は、加齢に伴う慢性的な炎症(いわゆる「炎症性老化」)を抑えることができる可能性を示しています。
動物実験においては比較的明確なポジティブな効果が確認されたことから、大麻由来成分が老化のプロセスそのものに影響を及ぼす可能性が期待されています。
人間での研究はまだ限定的

一方で、人間を対象とした研究結果は動物実験ほど一貫していません。
例えば、ある研究では大麻使用によって記憶機能が損なわれる可能性が指摘されました。(Brain Function Outcomes of Recent and Lifetime Cannabis Useより)
しかし別の研究では、認知機能の低下を防ぐ作用が確認されています。(Cannabis Use and Age-Related Changes in Cognitive Function From Early Adulthood to Late Midlife in 5162 Danish Menより)
つまり、「記憶を害する」場合と「認知機能を守る」場合があり、まだ明確な結論を導くのは難しいのです。
この不一致は、使用量や使用頻度、さらには個々人の健康状態や遺伝的要因など、さまざまな要素によって結果が変動するためと考えられます。
したがって、現時点で「人間においてCBDやTHCが確実に抗加齢作用を持つ」と断言することはできません。
研究チームはまた、大麻だけに依存するのではなく、健康的な生活習慣の維持が不可欠であることを強調しています。
バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠、ストレス管理といった生活習慣こそが、加齢を健やかに乗り越えるための基盤になるということです。
大麻由来化合物はあくまで補助的な要素にすぎず、健康寿命を延ばすためには生活全般の改善が必要であるという立場を示しています。
今後の研究課題と社会的背景
研究者たちは、今回のレビューによって得られた知見をもとにしつつも、より多くの被験者を対象とすることや長期間にわたり観察すること、そして原因と結果の関係を明確にすることを目標に、今後はさらに大規模な研究が必要であると述べています。
これらを満たす研究が行われなければ、人間における大麻化合物の抗加齢効果を確立することは難しいとされています。
同時に、世界的には大麻の医療利用や合法化が進んでおり、今後ますます使用機会が増えることが予想されます。
そのため、科学的に裏付けられた知識を社会に還元し、適切な利用を模索していくことが重要です。
研究チームは論文の中で次のように述べています。
「加齢が慢性疾患と関連する世界的な課題として浮上する中、健康寿命を支える介入法を特定することは不可欠である」。
今回の研究レビューは、大麻由来化合物が健康的な加齢を促進する可能性を示すものでした。
しかし、その効果が人間において確立されるためには、まだ多くの課題が残されています。
とりわけ人間を対象とした研究では結果が一貫せず、今後の大規模かつ長期的な臨床研究が待たれる状況です。
また、生活習慣の改善と組み合わせてこそ真の健康長寿が実現できるという点は、研究者が繰り返し強調する重要なポイントです。
まとめ
・動物実験ではCBDやTHCが炎症抑制、寿命延長、認知機能改善といった効果を示した
・人間を対象とした研究は結果が一致せず、抗加齢作用については結論が出ていない
・大麻成分は補助的要素に過ぎず、食事・運動・睡眠・ストレス管理といった生活習慣の改善が不可欠


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