MIND食が認知症リスクを下げる理由に迫る新研究

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地中海食をはじめとする健康的な食事法は、これまでに多くの研究で、病気や認知機能低下、さらには早死のリスクを減らすことが示されてきました。

 

今回、新たな研究によって、こうした食事法が認知症を予防する効果を持つことに、さらに強い裏付けが加わるとともに、その理由の一端が明らかになりました

 

アメリカ・シカゴにあるラッシュ大学医療センターの研究チームは、「MIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)食」に注目しました。

 

【MIND食】

・認知症予防を目的に開発された食事法

・地中海食とDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:高血圧予防食)の要素を取り入れた食事スタイル

・野菜、全粒穀物、魚、鶏肉を積極的に摂り、乳製品や赤身肉、揚げ物などの摂取を控えるという特徴がある

・観察研究では、認知症の症状緩和に効果的という研究結果が注目されている(MIND diet slows cognitive decline with agingより) 

 

※一方、 介入研究(無作為化比較試験)では、MIND食と通常食の間に認知機能や脳画像の有意差は認められなかったという報告もある(Trial of the MIND Diet for Prevention of Cognitive Decline in Older Personsより)

 

・観察研究:自然な状態で対象結果を確認できるが、因果関係が証明しにくい

・介入研究:研究者が対象に意図的な介入(例:薬、食事、運動など)を行えるため、因果関係が特定しやすい

 

今回の研究では、MIND食の摂取状況と「海馬硬化症(hippocampal sclerosis)」との関連が観察研究ベースで調査されました。

 

海馬硬化症とは、記憶や学習を司る脳の海馬において神経細胞が死滅する病変で、アルツハイマー病やその他の認知症と関連があるとされます。

 

その結果がどのようなものだったのかについて、以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

This Diet Helps Lower Dementia Risk, And We May Finally Know Why(2025/08/14)

 

参考研究)

MIND Diet and Hippocampal Sclerosis Among Community-Based Older Adults(2025/08/07)

 

 

海馬硬化症と食事パターンの関連を調査 

研究チームは、死亡前の数年間にわたって食事内容が記録されていた809人の遺体脳を解剖し、海馬硬化症の有無を調べました。

 

その結果、MIND食に最も忠実に従っていた人は、海馬硬化症を示す脳の変化が少ない傾向が見られました。

MIND Diet and Hippocampal Sclerosis Among Community-Based Older Adultsより

  

研究論文では、「今回の結果は、MIND食のような健康的な食事を摂取することで海馬硬化症の可能性を減らし、海馬の健康を保つ可能性があることを示している」と述べられています。

 

この発見は、過去の研究で示されてきた「MIND食が認知症リスクを下げる」という知見を裏付けるものであり、その理由の一つとして海馬を守る効果がある可能性を示しています。

 

  

海馬と認知症の関係 

海馬は記憶の形成、学習、空間認識に欠かせない脳の領域です。

  

海馬が損傷を受けると、新しい情報を覚える能力や場所の把握能力が著しく低下します。

 

海馬硬化症と認知症は必ずしも一致するわけではありませんが、両者の間には大きな重なりがあります

   

今回の研究では、年齢や性別、遺伝的要因などの多様な背景要因を統計的に調整しましたが、それでもMIND食との関連が見られました。

 

ただし、この研究は観察研究であり、直接的な因果関係を証明するものではないことも明記されています。

  

ラッシュ大学医療センターの栄養疫学者であるPuja Agarwal氏は、ニュースメディアの取材に対し、「私たちの知る限り、人間の研究において、食事と認知症の関連が海馬硬化症を介して部分的に説明されると報告されたのは今回が初めてである」と語っています。

 

 

なぜMIND食が海馬を守るのか? 

 

海馬硬化症がどのように発症するかは、まだ完全には解明されていません。

 

しかし、科学者たちはそのメカニズムの一部を徐々に明らかにしつつあります。

 

今回の研究は、海馬の健康に食事が影響を与え得るという以前の研究結果とも一致しています。

  

今後の研究では、なぜこの関連が存在するのかをより深く理解することが期待されています。

 

MIND食に含まれる食品が持つ抗炎症作用や抗酸化作用が、脳内の神経細胞をダメージから保護している可能性が考えられます。

 

研究チームは、「食事や栄養素と脳全体の健康との関係をさらに理解するためには、脳内の神経炎症や酸化ストレスのバイオマーカーと食事との関連を調べることが重要」と述べています。

 

 

研究の意義と限界 

この研究は、MIND食が認知症予防に有効である可能性を支持する新たな生物学的根拠を示した点で重要です。

 

特に、海馬硬化症という特定の脳病変を介して認知症リスクが低減するという点は、これまで十分に説明されてこなかった部分です。

  

一方で、この研究は死後の脳検査に基づくものであるため、食事と脳病変の変化の因果関係を直接的に証明することはできません。

 

また、MIND食の影響は海馬硬化症以外の脳の変化によっても現れる可能性があり、今後はより広範な脳領域や他のバイオマーカーとの関係も調べる必要があります。

 

今回のラッシュ大学医療センターによる研究は、MIND食が認知症リスクを低下させる理由の一端として、海馬硬化症の予防効果が関係している可能性を示しました。

 

これは、認知症予防のための食事ガイドラインや公衆衛生政策にとっても有益な知見といえます。

 

しかし、因果関係の証明には今後さらなる研究が必要であり、また海馬硬化症の発症メカニズム自体についても多くの謎が残されています。

 

まとめ

・MIND食は海馬硬化症のリスク低減と関連し、認知症予防に寄与する可能性がある

・海馬は記憶や学習に重要な脳領域で、損傷は認知症リスクと密接に関係する

・今回の研究は観察研究であり、因果関係を証明するものではないため、今後の研究が必要

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