パソコンやスマートフォン、LED照明など、私たちの生活にはブルーライトを発する電子機器があふれています。
こうしたブルーライトが目に与える影響が懸念される中、それを軽減するとされる「ブルーライトカット眼鏡」が注目を集めてきました。
しかし、近年行われた17件のランダム化比較試験を対象とした新たな解析結果により、この眼鏡の有効性に疑問が投げかけられています。
この研究は、Cochrane Database of Systematic Reviewsに掲載されたもので、オーストラリアのメルボルン大学のLaura Downie准教授(視覚科学・検眼学部門)が主導しました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Do Blue Light Glasses Really Work? New Research Shows Little Benefit for Eye Health(2025/05/13)
参考研究)
・Blue‐light filtering spectacle lenses for visual performance, sleep, and macular health in adults(2023/08/18)
ブルーライトカット眼鏡には目の疲労を軽減する効果がほとんど見られない

Laura Downie准教授は、「ブルーライトカット眼鏡を使用しても、通常のレンズと比較して眼精疲労を軽減する明確な効果は認められませんでした」と述べています。
この結論は、2時間から5日間の使用期間にわたる3件の臨床試験から得られた一貫した結果に基づいています。
研究チームは、ブルーライトカットレンズと通常のクリアレンズとの比較を行い、両者の効果の差異を検証しました。
その結果、ブルーライトが眼精疲労の原因であるとする主張には、科学的根拠が乏しいことが分かりました。
ブルーライトによる目への影響:科学的根拠は不確か
Downie准教授によれば、パソコンやスマートフォンなどから発せられるブルーライトの量は、現代の照明環境の中では安全基準内にあり、目に有害とされるほどのレベルではないといいます。
また、彼女は「ブルーライトが眼精疲労を直接引き起こす生物学的なメカニズムは明確にされていない」と指摘しており、科学的にもまだ確証が得られていない状況です。
さらに、ブルーライトカット眼鏡の装用が睡眠の質に与える影響についても結論づけることができなかったとされています。
視覚機能への影響に関するデータは存在しない
今回の研究では、以下の視覚機能に対する影響についても調査が行われましたが、いずれも有意な影響は認められませんでした。
• コントラスト感度(明暗やパターンの識別能力)
• 色の識別力(色の区別のしやすさ)
• 不快グレア(まぶしさによる不快感)
• 黄斑部の健康(網膜中心部の健康状態)
このように、視覚機能や網膜の健康に対しても、ブルーライトカット眼鏡が特段の効果を示すという証拠は見つかっていません。
600人以上を対象にした広範なレビュー
本研究では、600人以上の被験者を含む複数の研究が分析対象となりました。
しかし研究の期間や参加者の属性にバラつきがあったため、今後はより長期的かつ多様な集団を対象とした研究が必要であると、著者たちは結論づけています。
Downie准教授は「こうしたレンズの安全性や有効性についての理解は、今後の研究によってさらに進展するでしょう」と述べ、「数年後に再度エビデンスを見直すことが重要」としています。
そもそもブルーライトは本当に目に悪影響を及ぼすのか?

ブルーライトとは、波長が短くエネルギーの高い光で、可視光線の一部です。
太陽光がその最大の発生源ですが、現代社会ではLED照明やデジタル機器など、人工光源によるブルーライトにも日常的にさらされています。
この点について、コネチカット州の眼科医であるInna Lazar医師も注目しています。
彼女によれば、「網膜に対するダメージや老化の促進などが懸念されているが、人間においてブルーライトが網膜に直接ダメージを与えるとする明確な証拠は、現在のところ存在していない」とのことです。
【学会間でも意見が分かれるブルーライトの影響】
• アメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology)は、電子機器からのブルーライトが目に有害であるとする科学的根拠はないと主張
(Should You Be Worried About Blue Light?より)
• 一方で、アメリカ黄斑変性財団(American Macular Degeneration Foundation)は、紫外線やブルーライトが加齢性黄斑変性のリスクを高める可能性があると主張
(Ultra-violet and Blue Light Aggravate Macular Degenerationより)
Lazar医師は、「太陽を直視するような高強度のブルーライトは確かに有害ですが、日常的なスクリーン使用によるブルーライト曝露とはまったく異なる」と強調しています。
ブルーライトが睡眠に与える影響には注意が必要
Lazar医師によれば、ブルーライトはメラトニンの分泌を抑制し、体内時計を乱す可能性があります。
「特に寝る直前のブルーライト曝露は、入眠の遅れや睡眠の質の低下を引き起こす可能性がある」とのことです。
しかしながら、これが目の健康に深刻なダメージを与えるかどうかは、依然として不確かなままです。
ブルーライトカット眼鏡の人気とその背景
ブルーライトの潜在的なリスクに対する不安は、しばしば動物実験や細胞培養レベルの研究結果に基づいています。
Downie准教授も、「実験室レベルでの光毒性の証拠がそのまま人間に当てはまるとは限らない」とし、懐疑的な見方を示しています。
一方で、こうした不安に乗じて、ブルーライトカット製品の需要が急増しました。
Lazar医師は、「口コミや一部の医師による推奨、そしてファッション性が相まって、ブルーライトカット眼鏡は多くの人に支持されるようになったのです」と述べています。
眼精疲労を防ぐには、まず日常の習慣を見直すこと
Lazar医師は、「長時間のスクリーン使用により、瞬きの回数が減り、ドライアイが悪化することの方が問題」と指摘しています。
眼精疲労を防ぐには、以下のような習慣が効果的です。
• 画面を見ない時間を設けること(定期的な休憩)
• 部屋の明るさに画面の輝度を合わせること
• 画面の位置を目線より少し下にすること
• 屋外ではサングラスを着用すること
一方で、ブルーライトカット眼鏡を使うこと自体に害はありません。
「夜にパソコン作業をする患者の中には、眼鏡をかけることで睡眠の質が向上したと話す人もいる」とLazar医師は述べています。
加えて、「流行に敏感な人にとってはファッションアイテムとしての魅力もあるだろう」としています。
結論:ブルーライトカット眼鏡に過剰な期待は禁物
眼精疲労を感じている場合は、まず眼科で適切な検査を受け、視力や眼の健康状態を確認することが重要です。
視力の矯正が必要だったり、ドライアイなど別の要因があるかもしれません。
Lazar医師は、「ブルーライトカット眼鏡があなたにとって効果的だと感じるなら、それを使い続けても構わないが、そうでなければ無理に使う必要はない」とアドバイスしています。
まとめ
・ブルーライトカット眼鏡に科学的な有効性は明確には確認されていない
・ブルーライトの目や睡眠への影響は、今後の研究により解明される可能性がある
・眼精疲労の予防には、日常のスクリーン習慣の見直しが最も効果的
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