クイーンズランドが2024年に行った研究によると、運動はうつ病の治療に有効であり、単独でも、または治療や薬と併用しても効果があることが明らかになりました。
特に、ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングは、他の運動よりもうつ病の症状を軽減する可能性が高いとされています。
さらに、運動の時間に関係なく、高い強度の運動ほど良い結果をもたらすことが示されました。
今回のテーマとしてまとめていきます。
参考研究)
・Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials(2024/02/14)
研究の背景

アメリカでは約1,800万人の成人が、これまでにうつ病と診断されています。(National, State-Level, and County-Level Prevalence Estimates of Adults Aged ≥18 Years Self-Reporting a Lifetime Diagnosis of Depression — United States, 2020より)
薬物療法や心理療法は効果的ですが、すべての人が治療を受けるわけではなく、アクセスできる環境にない人も多いのが現状です。
そのため、アメリカを含む多くの国では、運動をうつ病治療の補助として推奨しています。
しかし、運動に関する具体的なガイドラインは一貫性に欠けていると、研究の著者らは指摘しています。
本研究は、これらの現状を踏まえ、運動や認知行動療法との関係を明らかにするため、200以上のうつ病の症状や治療に関する研究の分析が行われました。
ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングなどの身体活動が、うつ病の症状を軽減するのに最も効果的であることが示唆されました。
本研究の結果は、今後の治療ガイドラインの基盤となる可能性があるとしており、うつ病の患者の症状緩和や治療に役立つことが期待されています。
以下に研究の詳細をまとめます。
うつ病改善に最も効果的な運動とは?
研究チームは、218の研究から1万4,000人以上のデータを分析し、運動とうつ病の関係を調査しました。
対象となった運動は、ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、太極拳、気功などでした。
その結果、すべての運動が単独であっても、治療や薬と併用したとしても効果があることが判明しました。
特に、ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングが最も効果的であり、ランニングやインターバルトレーニングが最も高い効果を示したと報告されています。
また、筋力トレーニングは女性に対してより効果が高く、ヨガや気功は男性により強い影響を与える傾向がありました。
クイーンズランド大学の研究員であるMichael Noetel氏は、「こうした違いは、その運動がその人にとって新しい体験であるかどうかによる可能性がある」と指摘しており、続けて、「うつ病の治療では、私たちを停滞させる悪循環を断ち切ることが重要である。普段やらないことに挑戦することで、自分が変われるという自信につながるかもしれない」と述べています。
さらに、高強度の運動は、運動時間に関係なく気分の改善により大きな影響を与えることが確認されました。
また、低強度の運動でも一定の改善効果があると報告されています。
ただし、研究にはいくつかの制約もあります。
例えば、分析対象となった研究の多くが、参加者の数が少ないことや、偏りがある可能性が指摘されています。
運動がうつ病に効果をもたらす理由とは?

Noetel氏によると、運動がどのようにしてうつ病を改善するのか、その正確なメカニズムはまだ解明されていません。
しかし、一つの可能性として、運動が脳内の神経伝達物質のバランスを変えることが関係していると考えられています。
スポーツ精神科医であるUlrick Vieux氏は、運動をすることで、気分を調整するドーパミンやセロトニンが分泌されることが重要としており、「セロトニンの低下は、うつ病、不安障害、強迫性障害、恐怖症と関連していることが知られている。運動によってセロトニンのレベルが上昇することで、気分が調整される」と述べています。
また、運動は単なる身体的な変化だけでなく、達成感や自己コントロール感を生み出すとも指摘されています。
さらに、運動は睡眠の質や社会的な交流を向上させ、マインドフルネス(今この瞬間に集中する力)を高めることも、うつ病改善につながる要因として考えられています。
自分に合った運動を見つけるには?
セラピストのRachel Goldberg,氏は、うつ病を抱える人にとって最適な運動は、その人の現在の生活習慣によると説明しています
例えば、普段から運動をしている人は、トレーニング内容を変えることでさらなるメリットが得られる可能性があります。
一方で、運動習慣のない人でも、新たに運動を始めるだけで症状の改善が期待できるとのことです。
モチベーションを高めるための方法として、研究では以下の方法が推奨しています。
• 具体的な目標を設定する
• 家族や友人のサポートを受ける
• グループで運動する
• 進捗を記録し、達成を祝う
• 自分にとって楽しく、続けやすい運動を選ぶ
また、うつ病の人にとって、少しでも負荷のある運動が最も効果的であるとアドバイスされている一方、運動を始める前に医療専門家と相談することも重要であると注意を促しています。
うつ病の人が運動を続けることができるかどうかも重要な課題であるため、医師や精神科医と相談することで、習慣化のサポートを受けることができたり、安全で効果的な運動プログラムを作成することが可能です。
まとめ
・運動は、認知行動療法と同じくらいうつ病の症状を軽減する効果があると判明
・ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングが特に効果的で、高強度の運動ほど改善効果が高い
・運動は神経伝達物質のバランスを整えるだけでなく、達成感や自己コントロール感の向上にも役立つ
コメント