科学

若者の喫煙禁止が将来的に120万人の命を救う可能性がある(後半:日本の肺がんと喫煙の関係)【追記;2024/10/11】

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喫煙と病気とは切っても切れない関係があることは皆さんご承知の通りかと思います。

 

今回紹介するのは、そんな喫煙と肺がんの関係について言及した研究です。

 

後半では、日本の喫煙率と肺がんの関係についての気になる点を述べていますので、気になる方は目を通してみてください。

 

参考記事)

Smoking Ban For Gen Z Could Save 1.2 Million Lives, Study Finds(2024/10/04)

参考研究)

Estimated impact of a tobacco-elimination strategy on lung-cancer mortality in 185 countries: a population-based birth-cohort simulation study(2024/10月)

 

 

禁煙によって肺がんの死者数増加に歯止め

2024年10月に発表されたサンティアゴ大学の研究によると、2006年から2010年の間に生まれた人6億5000万人へのタバコの販売を禁止することで、2095年までの肺がんによる死亡者を約120万人減らすことが可能であることが示唆されました。

 

世界保健機関(WHO)によると、世界中で肺がんの全症例の約85%は喫煙によるものとしています。

 

国際がん研究機関(IARC)では、「現在の傾向が続くことで2006年から2010年の間に生まれた人々約300万人の肺がんで死亡するだろう」と予測されており、喫煙との向き合い方に注意を呼びかけています。

 

この研究は、禁煙世代の影響を評価することを目的とした研究のひとつであり、185カ国のがん症例と死亡に関するデータが参照されました。

 

分析では、禁煙することによって世界中の男性の肺がんによる死亡の45%以上が予防でき、女性では31%近くが予防できることがわかりました。

 

 

進行中の禁煙防止策

  

研究のモデリングでは、北米やヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドなどの一部の地域でタバコの販売を終了すると、男性よりも女性の死亡を防ぐことができることが示唆されました。

 

西ヨーロッパの女性が最も効果が現れるとされ、およそ78%の推定がん患者が助かるとされています。

 

中央および東ヨーロッパでも禁煙の効果は高く、男性では75%近くの推定がん患者の死亡率減少が見られました。

 

また、研究者による注意点として、「予防できないと推定される死亡は、大気汚染や受動喫煙への曝露など、肺がんに関連する他の危険因子が原因である可能性がある」と警告しました。

  

2022年からニュージーランドでは、2008年以降に生まれた人々へのタバコの販売を禁止する初の試みを実施しました。

 

しかし昨年末、国の新しい保守政権は喫煙者からの反発や政治的な要因などを理由に、この措置を廃止する計画があること発表しました。

 

対照的に、イギリスの新しい労働党政府は、2009年1月以降に生まれた人へのタバコの販売を禁止する計画(元保守党首相のリシ・スナクによるもの)を支持しています。

 

IARCは、「現在の喫煙者がタバコを完全に断つことは難しい」ことから、これから喫煙を始める人に対して警告を発する必要があると述べています。

 

しかし、タバコの増税、禁煙環境の整備、禁煙努力の支援など、これまで実証されてきた禁煙につながる措置は続けていくべきとしています。

 

 

タバコと肺ガンの関連性

さて、ではこれらを踏まえて喫煙と肺がんの推移を見ていくと、少し疑問が生まれます。

 

以下の表は国立がん研究センターから発表されている、日本における20世紀半ばから現在まで(1975年〜2020年)の肺がんの死亡率を表したものです。

 

【1975年からの肺がんによる死亡率の推移】

国立がん研究センターより

 

肺ガンの死亡率はなだらかになっているものの、罹患率は右肩上がりです。

 

罹患率だけで見ると2005年から急激に上昇していることも見て取れます。

 

対して、以下の表は1965年〜2018年の喫煙率の推移です。

 

【昭和40年〜平成30年(1965年〜2018年)までの喫煙率の推移】

成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)より

 

そもそも女性は喫煙率が低いため年代によってブレがあるものの、ボリュームゾーンである男性ではいずれも右肩下がりとなっています。

(※国立がんセンターのサイトでは1975年頃からの喫煙率の推移を発見できなかったため、他機関のものを参考にしています。)

 

タバコをやめてから即座に肺がんの死亡率が低くなることはないと仮定すると、その影響が出始めるのは数十年後、遅くとも30、40年と考えられます。

 

しかし、肺ガンの罹患率や死亡率ともに上昇傾向な点が非常に疑問です。

 

1965年後ろから禁煙する傾向が高まったことから、贔屓目にみても2000年ごろには肺がん死亡率は減少してもいいはずです。

 

ということは、少なくとも日本においては喫煙よりも別の要因があるとするのが妥当ではないでしょうか。

 

個人的にはタバコは吸わないべきだと考えていますが、禁煙よりも先に解明するべきことがあると思います。

 

これについてはきちんとした統計が取れるか、研究機関の発表を機に改めて記事にしようと考えています。

 

今回は歯切れの悪い終わり方で締めとなりますが、菓子パンや揚げ物、植物油脂は避けるべきだと忠告しておきます。

 

   

追記

参考研究)

Updated Trends in Cancer in Japan: Incidence in 1985-2015 and Mortality in 1958-2018-A Sign of Decrease in Cancer Incidence(2021/02/06)

都道府県別喫煙率の経年変化と死因別死亡率の経年変化との関係(2022)

 

名取宏 (なとりひろむ)氏からの指摘を受けて追記させていただきます。

 

 

・指摘内容

 

これを受け、調整年齢人口(日本)による、肺がんの死亡率についての研究を改めて調べました。(下図参照)

 

Updated Trends in Cancer in Japan: Incidence in 1985-2015 and Mortality in 1958-2018-A Sign of Decrease in Cancer Incidence より

※(上図より)肺がんに関する増減のグラフはMales内の上から3番目(Lung=肺)

 

すると、確かに自分が前回提示した国立がんセンターのグラフとは、違う結果が示されています。

 

この結果を見ると、高齢になることによるがん(肺がんも含めた死亡率は減少傾向にあることが分かります。

 

そこでさらに気になったのが、喫煙率の調整年齢人口です。

 

調整年齢人口は、“年齢構成の異なる集団についての比較ができるように年齢構成 を調整したもの”です。(また、国内での年齢による区別だけでなく、異なる国の同じ年齢や性別を対象としても有効な指標です。)

 

やはり、1965年頃の人口の形態(人口ピラミッド)と現在の人口の形態が異なるため、比べるためには喫煙率でも同じように年齢による調整後の推移が欲しいと考えてます。

 

調べてみたところ、2000年頃からの年齢調整喫煙率については示されていることが分かりました。

 

都道府県別喫煙率の経年変化と死因別死亡率の経年変化との関係 より

 

これ以前のデータは現在模索中ですが、推察するに、80%を切った1970年頃(昭和45年頃)からの喫煙率の低下を考えると、禁煙と肺がんの死亡率に相関性が見られるように見えます。

 

ただ、喫煙率の低下と比べて、肺がんの死亡率の低下が必ずしも一致していない点は、おそらくその他の複雑な要因が重なっていることが要因でしょう。

 

この関連性については、今後の課題として調べていきます。

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