心理学

【心理学の歴史⑳】子に母親は必要? ~ストレンジ・シチュエーション法〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

   

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

   

今回のテーマは、“ストレンジ・シチュエーション法”です。

  

       

         

エインスワースとストレンジ・シチュエーション法

【本書より引用(要約)】

メアリー・D・エインスワース(1913~1999年)

 

メアリー・エインスワースは、前回紹介したボウルビィの助手を務めたアメリカの心理学者です。

 

ボウルビィのアタッチメント(愛着)の研究を学んだ彼女は、夫の転勤に伴い移住したウガンダで、母子関係について観察し始めました。

 

そこで彼女が気づいたのは、子ともが母親との間にアタッチメントを形成すると、子どもは抱きつくなどのコミュニケーションだけではなく、母親の目の届くところで小さな冒険を始めるということでした。

 

彼女はこの状態を、愛着を形成と探索動機が表出しているものだと考えました。

 

この様子を基に彼女は、アメリカに帰国した後にある実験を行います。

 

それが今回するストレンジ・シチュエーション法です。

 

以下に実験の概要をまとめていきます。

 

ストレンジ・シチュエーション法とは、実験用の部屋に子供と母親を用意し、さまざまなシチュエーションをマジックミラーを通して観察するというものです。

 

この研究における所要時間はおよそ20分、8つのエピソードから構成されています。

 

The Open University より

 

・エピソード①

子供を抱いた母親が観察者に促されて入室する。

その後、観察者は部屋を出る。

 

・エピソード②

母親は所定の位置に子どもをおろし、自分は決められた椅子に座る。

 

・エピソード③

そこに見知らぬ人が入ってきて、母親と会話をする。(約1分)

その後、だんだん子供との距離を縮めておもちゃなどを見せたりする。(約3分)

まもなく母親は退室する。

 

・エピソード④

子供が楽しく遊んでいるようなら、見知らぬ人は特に関わらない。

もし、じっとしているようであれば、おもちゃに興味を持つように働きかける。

子どもが泣くような状態であれば、気をそらしたりなだめたりする。

泣き止まない場合は、エピソードは中断する。(約3分)

 

・エピソード⑤

母親が再び入室し、ドアのところに立つ。

見知らぬ人はそっと退室する。

 

・エピソード⑥

母親は再度退室する。

子どもは一人になる。(約3分)

もし子どもがひどくなく場合、この過程は行わない。

 

・エピソード⑦

見知らぬ人が再び入室する。

以下、エピソード④とほぼ同じ手続きの繰り返し。

 

・エピソード⑧

母親が戻り、子どもと再会する。

見知らぬ人は退室する。

 

以上のエピソードをアメリカの中流家庭のおよそ50週の子ども(約1歳)とその母親に実施し、データを分析しました。

 

その結果、対象となった母と子の関係は、大きく3パターンに分類できることが分かりました。

 

【タイプB 安定型】

まず、多くの子供は、母親が退出したり、見知らぬ人が入室すると苦痛を示す様子が見られることもありましたが、母親が戻るとすぐに元に戻りました。

 

このパターンはタイプBとされ、安定した愛着を形成している状態とされました。 

 

【タイプA 不安-回避型】

次に多かったのは、母が退出する時にはほとんど苦痛を示さなかったパターンです。

 

まもなく母親が戻ってきても、母のところに近寄ることはありませんでした。

 

このパターンはタイプAとされ、“不安-回避型”と名付けられました。

 

【タイプC 不安-抵抗型】

最後に多かったのは、母親が立ち去る際、最も激しい苦痛を見せたパターンです。

 

母が戻ってきても安定せず、むしろ母親に攻撃性を向けるなどの特徴を持つこのタイプは“不安-抵抗型”と名ずけられました。

 

エインスワースがアメリカ、ボルチモアの対象者26ケースを対象とした分析では、安定型(タイプB)が56%、不安-回避型(タイプA)が26%、不安-抵抗型(タイプC)が17%となりました。

 

この結果は、彼女がウガンダで実験を行った結果ともほぼ一致しました。

 

彼女が行った研究は、ボウルビィのアタッチメント(愛情理論)を後押しするものとなり、母親と子が健全な関係を築くための大きな助けとなりました。

 

子が幼い時に母親が必要な理由などもこういった理論が基になっていくのです。

 

 

日本ではまた違う結果に

 

三宅和夫らが実施した二つの研究サンプルでは、安定方(タイプB)がおよそ7割、不安-抵抗型(タイプC)が3割でしたが、不安ー回避型(タイプA)に分類される子はいませんでした。

 

これは、日本の母子関係が密着したものであり、星が分離することが少ないからではないかと考えられています。

 

この三宅氏による研究は1980年頃に行われたものですが、そこから40年経った現在、家族の形態、子を育てるために必要な経済力、働く女性の割合などが大きく変わっているため同じ結果になるとは言い切れません。

 

いずれにしろ、子に母親が必要であるという事実は、エインスワースの頃から変わらずあるように思います。

 

 

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