心理学

【心理学の歴史⑦】考えるチンパンジー 〜チンパンジーの洞察実験〜

心理学

【前回記事】

 

この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。

  

「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。

  

今回のテーマは、“ケーラーの知恵実験”です。

  

    

    

ケーラーの知恵実験

【本書より引用(要約)】

前回まとめたゲシュタルト心理学における“学習”。

 

人や動物は洞察によって学習すると主張した考え方です。

 

※洞察=現在の状況の知覚を再構成し、新たな状況の知覚を行うこと(詳しくは前回記事へ)

 

この主張を世界に広めた有名な研究があります。

 

それがヴォルフガング・ケーラーによるチンパンジーを対象とした実験です。

 

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ケーラーはウェルトハイマーの共同研究者であり、ゲシュタルト心理学の理論的な礎を築いた一人です。

 

ケーラーは、1913年から1920年までの7年間、大西洋のカナリア諸島テネリフェ島にあったチンパンジー研究所に滞在し、さまざまな実験を行ないました。

 

中でも良く知られているものの一つが、チンパンジーと吊るされたバナナの学習実験です。

 

 

チンパンジーが、天井近くに吊るされ手の届かないバナナを取るために“洞察”したという旨の評価がされています。

 

研究の一部の記録はこうなっています。

 

【2月8日】

餌は非常に高く、取り付ける。

大小二つの箱は互いにあまり離さず、餌からは約4メートル離れている。

他の道具は一切取り除いてある。

ズルタン(チンパンジーの名前)は大きい方の箱を餌の下まで引きずってきた。

箱を餌の下に据え、上を見上げ、その上に立って、跳躍の身構えをしたが、実際には飛ばない。

降りてもう一方の運を掴み、それを背後に引きずりながら部屋中を駆け巡り、いつもの大騒ぎをし、(略)心中の不満を吐露する。

確かに彼は最初の箱に積むつもりで、第二の箱を掴んだのではない。

箱はただ、彼の不満を漏らす方便となったに過ぎない。

だが、突如として彼の行動は一変する。

彼は騒ぎを中止し、箱を遠くからまっすぐ第一の箱の側に引っ張ってきて、直ちにその上に縦に立てた。

それからその建築物に登り、数回跳ぶ様子を見せたが、今度も飛ばない。

餌は跳躍の不得意な彼には、相変わらず高すぎるのである。

 

【2月21日】

数日前にチカとグランデ(両方ともチンパンジーの名前)は、ズルタンと私から、箱の使い方を伝授されている。

ただし、まだ二つの箱の扱い方は知っていない。

場面はズルタンの実験と同じ。

どちらもすぐさま箱を掴んだ。

まずチカが、それから、グランデが、箱を持って餌の下に立ったが、積み重ねるという兆候は少しも見られない。

それに自分の箱にも一度も登らない。

登ろうと足だけは持ち上げるのではあるが、上へ視線を向けるや再び下ろしてしまう。

それからチカもグランデも箱を縦にしようとしたが、これが偶然でないことは確かで、(高い場所にある)餌を見たことの結果である。

目で距離を目測したことから、この突然のかつ場面によりよく適応した行動の変化が引き起こされたのである。

グランデは自分の運を他方の箱の側へ引いていき、餌を一目したあと、ひと踏ん張りして持ち上げ、箱の下にぎこちなく乗せすぐさま登ろうとした。

しかし、登ろうとした為に上の箱はわきへずりこけた。

(略)グランデもまた原理的には課題を解決している。

それで実験者は箱を拾い上げ、下の箱にしっかりと据え、グランデが餌を取るまでの間支えていてやった。

 

この実験で、チンパンジーは大二つの箱と餌を一つの知覚の場として把握できていませんでした。

 

しかし、それらをより大きな知覚の場として捉えることができたとき、箱二段重ねして餌を取ることができるという洞察が生じることになりました。

 

これがゲシュタルト心理学の考えた学習だったのです。

 

また、この“洞察”は後に“認知”と呼ばれ、心理学の中心テーマの一部となっていくのです。

 

 

試行錯誤ではなく洞察による学習

ソーンダイクの問題箱では、猫があれこれ試しながら正解に辿り着くという試行錯誤の末に学習したのだという考え方が生まれました。

 

今回ケーラーが行ったチンパンジーの実験では、“バナナを取る”という過程において、試行錯誤ではなく“洞察”が強く働いていることが分かります。

 

試行錯誤との大きな違いは、成功する(バナナを得る)前に最適な行動を考えたことにあります。

 

つまり、偶然箱が二段に積み上がってバナナが取れたという訳ではなく、どうやったらバナナを得ることができるかを認知したのです。

 

目の前の課題に対して、がむしゃらに行動するのではなく、一歩引いて俯瞰した視点からどうしたら良いかを考える……。

 

人間や動物に備わった知恵と言えるかもしれませんね。

 

この“認知”は後に、“行動”と関連づけて研究が行われます。

 

次回はこの行動と認知についてがテーマです。

 

 

次回記事

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