【前回記事】
この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。
「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。
今回のテーマは“ソーンダイクの問題箱”です。
ソーンダイクの問題箱
【本書より引用(要約)】
エドワード・L・ソーンダイク(1874~1949年)
ドイツで実験心理学が誕生してからおよそ20年。
この頃になるとアメリカ国内だけで心理学を学ぶ学生が育っていきます。
そんなアメリカ初期の心理学者にエドワード・ソーンダイクがいます。
初めは牧師を目指したソーンダイクですが、ウィリアム・ジェームズの“心理学原理”を読んで感銘を受けた彼は、ジェームズの下で心理学を学ぶようになりました。
そんなソーンダイクの実験の一つが、下のような装置を使った動物実験です。
An image of E.J. Thorndike’s original apparatus used in his puzzle-box experiments as seen in Animal Intelligence (1898)
【ソーンダイクの問題箱(実験の流れ)】
①上の図のような箱の中に猫を閉じ込め、外に餌を置きます
②空腹なうえに狭い場所に閉じ込められた猫は、何とかこの箱を脱出しようとします
③やがて猫が箱内部にあるペダルを踏み、鎖が引かれることでドアの止め金が外れてドアが開く
④猫が外に出たら、すぐにまた箱に戻す
⑤しばらくすると再び猫が箱のペダルを踏み、脱出する
「猫が外に出たら箱に入れる」を繰り返す……
⑥やがて猫は箱に入れられてから数秒で箱から逃げることができるようになる
といった流れの実験を、ドアの構造や位置が異なる数十種類の実験装置を使い、12匹ほどの猫を対象に行いました。
その結果が以下のグラフです。
試行回数と脱出にかかった時間の関係から、およそ15回を過ぎたあたりから、毎回10秒以内で脱出するようになっており、それくらいから学習が成立したものと思われます。
みなさんはこのグラフを見てどのように考えるでしょうか。
この結果を受けた心理学者らの意見はおおむねこの2つでした。
・「猫はこの鎖を下に引けば止め金が外れると理解したのか。なるほど、猫も中々賢いものだ」
・「猫がこの装置はどういう仕組みになっているのかなど分かるはずがない。何度もやっているうちに“ペダルを押せば外に出られる”という単純な動作を覚えただけだ」
実験を行ったソーンダイクはどう考えたのでしょうか。
彼が支持したのは後者で、「動物の学習は頭の中でひらめくというものとはほど遠く、試行錯誤を繰り返し、一つ一つの動作を身体で覚えている」、と主張しました。
チャールズ・ダーウィン(1809〜1882年)
本書においてこの考えは、ダーウィンの“種の起源”に通ずるものとされています。
ゾーンダイクが生まれる少し前、1859年に出版された“種の起源”によって進化論が急速に広がっていきます。
ヒトもチンパンジー、犬や猫もみな、元をたどれば同じものに過ぎず、それらが何万年、何百万年の時を経る中で、個体、集団レベルで突然変異が起きる。
そして、変異を繰り返す内に環境に適応できたものだけが生き残る。
こうした繰り返しの中で学習するという簡単な例が、“ソーンダイクの問題箱”に現れているのです。
無意識に学習する能力
ソーンダイクの問題箱では、猫が意識的に学習したのか、それとも、条件的に行動するようになったのかに焦点が当てられています。
試行錯誤の中で脱出に必要な行動と必要のない行動が取捨選択されていったと言えます。
確かに大きな枠組みで見ると、ダーウィンが述べた進化論に通じるものを感じます。
私達の生活の中でも取捨選択の毎日ですが、人間はストレスがかかることを選び、その先にある大きな利得を考えられる生き物でもあります。
この考え方は、収穫が得られない時期にエネルギーを消費し続ける農業や、体に負荷をかけるトレーニングなども同じです。
人間が他の動物とは比較にならないほどの思考力を獲得できたのも、進化の取捨選択の中でこういった考え方ができるようになったからかもしれません。
ソーンダイクもそんな人の根底にある、学ぶという行動を動物から見出そうと考えたのかもしれませんね。
コメント