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この記事では、ジャン・ジャック・ルソーが著した“エミール”から、子育てや生活に役立つような言葉を抜粋して紹介していきます。
“子どもは子どもの教育が必要である”と考えたルソーの考えを、1記事に3つずつまとめていきます。
またそれらの言葉がこの本の要約にもなるようにまとめていきます!
今回も前回の記事に続き、エミールとソフィーの関係を、ストーリーを引用しながらまとめていきます。
私の仕事も終わりに近づいてきている。
私の仕事も終わりに近づいてきている。
私にはもう遠くからそれが見えている。
大きな困難は全て克服されている。
大きな障害は全て乗り越えられている。
もう私には骨の折れることは何も残されていない。
ただ、急いで仕事を完成させようとして、作ったものを台無しにしないようにすることだ。
私のエミールを見ていただきたい。
二十歳を過ぎたエミールは、もう分なく出来上がっている。
精神も肉体も申し分なく作られていいる。
強壮で、健康、活発で、器用で、豊かな感覚、理性、善良さ、人間愛にあふれ、正しい品行、良い趣味を持ち、美しいものを好み、善いことを行い、残酷な情念の支配から免れ、世論の束縛に捉えられないで、知恵の掟を守り、友情の声に従い、あらゆる有益な才能と、いくつかの人を喜ばせる才能を持ち、富にはほとんど関心を持たず、自分の腕の末端に生活の手段を持ち、どんなことがあっても、パンにことかく心配はない。
こういう彼は、いま、生まれたばかりの情熱に燃えて、心は恋の最初の熱にとらわれている。
彼は1人の愛すべき女性を、その体よりも性格によってさらに愛すべき女性を愛している。
「彼の自信は失われ、不安になってくる。」
私達は品物を返さなければならないことをエミールは忘れてはいない。
その準備ができるとすぐに、私たちは馬をやとい、大急ぎで駆けていく。
私達を迎える家の人々の態度は、最初の時と比べてずっと素直で好意がこもっている。
エミールとソフィーはややぎこちない態度で挨拶を交わし、相変わらずお互いに口をきかない。
私たちのいる前で2人は何を話せたろう。
2人がしなければならない話は、その場に人がいてはいけないのだ。
私達は庭園を散歩することにした。
しばらくすると、若い2人は私たちの近くに来た。
初めのうちはそばにいたのだが、私たちののろい歩き方に調子を合わせているのが耐えられなくなる。
いつの間にか2人は私たちの先の方を歩いている。
互いに近づいてしまいには寄り添って、ずっと先の方歩いていくのが見える。
エミールは何か話しながら、盛んに身振りをしている。
2人は話に退屈するようなことはないらしい。
たっぷり1時間過ぎて、私達は引き返すことにする。
恋に酔ったエミールは、その後何度も彼女の家に足を運び、もう幸福が手に届いたと思っている。
けれども、彼はソフィーのはっきりした意思表示を得てはいない。
彼女はエミールの言葉に耳を傾けてはいるが、自分の方からはなんにも言わないのだ。
エミールは彼女の慎み深い性質をよく知っている。
そして彼は子供の結婚を決めるのは父親だということも知っている。
ソフィーは両親の意向がはっきり示されるのを待っているのだと彼は考え、それを確かめる許可をソフィーに求める。
彼女は反対しない。
しかし、その結果は彼の思った通りには進まない。
彼の自信は失われ、不安になってくる。
報いられない恋を誰のせいにしていいのかわからない彼は、それを自分の過ちのせいだと考える。
傷ついた自尊心は体良くあしらわれている恋の恨めしさをいっそう辛く感じさせる。
彼女の前に出ると、彼は臆病になり、体が震えてくる。
彼はもう優しい態度によって彼女の心を動かすことができるとは考えていない。
憐れみを感じさせることによって、彼女の心をなびかせようとしている。
時にはもうやり切れなくなって悔しさが忍耐心にとって変わろうとする。
彼が興奮してくるのに気が付いているらしいソフィーは、彼を見つめる。
その眼差しを見ただけで、エミールは勇気をくじかれ、臆病になる。
彼は前よりも大人しくなってしまった。
「たまらなく楽しいそういう授業をすることが、恋する男には許されている。」
私はソフィーに話してみる。
そして大して骨も折れずに彼女の心の秘密を打ち明けさせる。
それは彼女が打ち明けるまでもなく、私が知っていたことだ。
それをエミールに教えてやる許可を求めるのにはもっと骨が折れる。
やっとのことで許しを得て、エミールに伝える。
その説明はエミールに大きな驚きを与え、彼はいつまでも茫然としている。
財産の多い少ないが、人の性格や価値にどんな影響を与えるのか、彼は考えられないのだ。
財産が人々の偏見にどんな力を持つことになるかを言い聞かせてやると、彼は笑い出し、嬉しさに夢中になってすぐにでもかけていって、全てを引き裂き、全てを投げ出し、全てを捨てて、ソフィーと同じくらい貧しい者である名誉を手に入れ、ソフィーの夫にふさわしい者になって帰ってくるつもりになる。
彼の激しいやり方に、今度は私の方が笑い出してこう言ってやる。
「そんな青臭い考え方をして、あなたの頭はいつまでたっても成熟しないのだろうか。あなたの無分別な計画を実行すれば、さらに状況を悪化させ、ソフィーをもっと手に負えなくすることがどうしてわからないのだろう。」
あの人に比べていくらか余計に財産があるというのはほんのちょっとした優越なのだが、それをみんなあの人のために犠牲にするというのは非常に大きな優越を示すことになる。
困った男だ。
誇り高いあの人は、「お前のために自分は貧しくなった。」などと非難されることにどうして耐えられよう。
そんなことをしないで、あの人のために倹約して無駄遣いをしないように気をつけるのだ。
でなければ、あの人は「あなたの巧妙な手段で私の心を征服しようとしている、投げやりにして失うことになるものを喜んで私のために犠牲にしている。」とあなたを非難するかもしれない。
本当のところ、彼女が恐れているのは富そのもののせいではない。
重大な理由は、富が富める者の心の中に組出す結果にあるのだ。
幸運の賜物である財産は、いつもどんなものより値打ちのあるものと考えられていることをあの人は知っているのだ。
金持ちはみんな、人の値打ちよりも黄金を重く見ている。
ではエミール、あの人が心配している点について、あの人を安心させるには、どうしなければならないか。
あなたというものを、あの人によく分からせるのだ。
それは1日でできることではない。
あなたの高貴な魂がもつ財産の中に、不幸にもあなたに与えられている財産の償いとなるものを、あの人に示してやるのだ。
変わらない心と時の力によって、あの人の抵抗を克服するのだ。
偉大で高潔な感情によって、あなたの富を忘れさせるのだ。
あの人を愛し、あの人のために尽くすのだ。
あの人の尊敬すべき、両親のために尽くすのだ。
そういう心遣いが気違いじみた一時的な情熱の結果ではなく、あなたの心の底に刻まれている、消すことのできない原則の結果であることを証明してみせるのだ。
こうして私は、善良な2人の心の打ち明け相手になり、彼らの恋の仲介者になった。
相手に気に入られたいと心から願っているエミールには、彼が習得した人を喜ばせる才能の値打ちが今こそわかってくる。
ソフィーは歌を歌うのが好きだ。
彼はソフィーと一緒に歌を歌う。
さらに進んで、彼女に音楽を教える。
ソフィーは軽快で、飛び跳ねるのが好きだ。
彼はソフィーと一緒に踊る。
彼は飛び跳ねるソフィーにステップを踏ませ、ちゃんとした舞踏を教えてやる。
それは楽しい授業だ。
はしゃいだ快活な気分が授業に活気をさそい、それが恋の臆病な気兼ねを少なくする。
たまらなく楽しいそういう授業をすることが、恋する男には許されている。
まとめ
今回のストーリーは、エミールがソフィーと恋仲になるという内容でした。
ソフィーがエミールを避けていた理由は、彼が持っている富が原因だったのですね。
富めるものは何よりも金を重視する、という考えがよぎったことで彼女はエミールを避けていたようです。
「疑いを払拭するためには行動で示せ。」そう言われたエミールはその通りに行動し、ついにはソフィーに認められました。
実はこの後、手にキスをするタイミングを逃したり、ソフィーの親の前でキスをしようとして母に諌められたりと色々ポカをやらかすエミール。
ソフィーはと言うと、若い男性が訪ねて来た際に、愛想良く振る舞いエミールの気を引こうとしたりしています。
そんな恋仲生活の中で師の立場であるルソーも善く導けるよう的確にサポートしている姿が印象的です。
次回、ルソーはエミールに何を伝えるのか……。
もうほとんど終盤に差しかかったエミールをお楽しみください。
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