健康的な食事法と聞かれると、和食や地中海式の食事が思い当たる人も多いかと思います。
実際には和食は塩分が多く、必ずしも健康的とは限らないという意見もありますが、主菜(肉や魚などタンパク質)、副菜(野菜や海藻などのビタミン、ミネラル)、副々菜(その他の必要な栄養素)などを、健康に必要な成分を摂取しやすい食事形式です。
地中海式の食事は高脂質なものが多く、植物性の素材や海鮮系、オリーブオイルなどを中心とし、良質な脂質を摂取することができます。
質の良い脂質は、心血管疾患や、アルツハイマー病などのリスクが減るとされ、健康的な食事とされています。
今回は、そんな地中海式の食事についての研究まとめです。
参考記事)
・Experiment Reveals How The Mediterranean Diet Works at The Cellular Level(2023/05/21)
参考研究)
地中海式と生物の寿命
全粒穀物、緑黄色野菜、魚介類、豆や果物を中心に食べ、赤身の肉や乳製品をあまり使わない、いわゆる地中海式の食事を食べる人は、心血管疾患や糖尿病、がんなどのリスクが低い傾向にあることが研究によって示されています。
2023年5月、アメリカのスタンフォード大学は、この地中海食が細胞に与える影響についての研究を発表しました。
研究によると、地中海食特有の油によって、線虫の寿命が延長されたという結果が示唆されました。
ナッツや魚、オリーブオイルなどには一価不飽和脂肪酸(MUFA)と呼ばれる有益な脂質が豊富に含まれています。
研究においては、オリーブオイルやナッツに含まれるMUFAのひとつ“オレイン酸”について注目しました。
線虫に対する実験では、オレイン酸は二つの効用があることが分かりました。
一つは、細胞膜を脂質の酸化による損傷から守ること。
もう一つは、小器官と呼ばれる細胞構成要素の量を増やすことです。
その結果、オレイン酸を与えた線虫は、従来の餌を与えた線虫に比べ、約35%長生きすることが示されました。
また、脂質滴(lipid droplet)と呼ばれる脂肪貯蔵庫を比較することで、線虫の生存日数を驚くほど正確に予測することができました。
スタンフォード大学の生化学者Katharina Padsdorfは「個々の線虫の脂質滴の数によって、その動物の残りの寿命が分かります」と述べ、脂質滴が多い線虫はより長生きすることを分析しています。
また、線虫の腸内細胞では、酸化や代謝に関わるペルオキシソームという小器官も増えていました。
脂質滴とペルオキシソームは、若い動物の細胞でより多く存在し、年齢とともに減少すると研究者は報告しています。
また、これらの小器官は個体差があり、細胞内に多く存在する、線虫ほど長生きする傾向があることが示されました。
続けて、オレイン酸と比較するために、エライジン酸を添加したバクテリアを線虫に食べさせました。
エライジン酸は、マーガリンや揚げ物に含まれる一価不飽和トランス脂肪酸です。
オレイン酸と分子構造が似ていますが、健康への影響は全く異なります。
一般的に、トランス脂肪酸は、心臓病は認知症などのリスクを高める不健康な脂肪と考えられています。
比較の結果、似た分子構造を持つエライジン酸では、脂質滴が増えることはありませんでした。
それどころか、エライジン酸は細胞膜の酸化を増加させる効果が認められました。
研究者らは、「細胞膜の酸化は生物にとって非常に悪いニュースです。これらは食事と長寿の関連性について重要な洞察であり、地中海食の特定の成分が、どのように寿命を伸ばすことができるかについての詳細を明らかにした」と述べています。
この発見が人に適用されるかどうか、適用される場合、どのようなメカニズムで細胞に反応が起こるかについてはさらなる研究が必要であると付け加え、今後の研究に期待が持たれています。
まとめ
・地中海食は線虫の寿命を伸ばした
・オレイン酸によって、細胞の損傷を防ぎ、細胞の構成要素が増えたことが要因の一つと考えられる
・似た分子構造を持つトランス脂肪酸では、逆の効果が示された
・ヒトでの寿命の延長に適用されるかについても期待が持たれる
線虫はヒトが持つ遺伝子と相同する遺伝子を多くつため、筋肉や消化器系などを比べる際にはよく用いられます。
一世代の時間が短く、老化による変化などのデータ解析が容易であるため、今回の研究データでも参考とされたようですね。
そんな線虫の寿命を伸ばす効果があったオレイン酸は、この研究以前から生活習慣病の予防に使われたりと、人体に有益な効果があることが知られています。
今後も質の良い油を意識して摂取することが、健康に生きる秘訣になると思いながら口にしようと思います。
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