糖タンパク質の一つである「リーリン(Reelin)」が“リーキーガット”と抑うつ症状を同時に修復することを示唆

科学
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慢性的なストレスが心身に悪影響を及ぼすことは広く知られています。

 

しかし、その影響が腸のバリア機能と精神状態を同時に弱体化させる可能性については、いまだ解明途上にあります。

 

こうした中、カナダのビクトリア大学の研究チームは、慢性ストレス、腸の健康、そしてうつ病を結びつける中心的な分子として「Reelin(リーリン)」と呼ばれるタンパク質が腸の修復と抗うつ様効果の双方に関与する可能性があると報告しました。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Scientists discover protein that could heal leaky gut and ease depression(2026/02/02)

 

参考研究)

An Intravenous Injection of Reelin Rescues Endogenous Reelin Expression and Epithelial Cell Apoptosis in the Small Intestine Following Chronic Stress(2026/09/29)

 

 

慢性ストレスが腸のバリア機能を破壊する仕組み

 

健康な状態において、消化管、すなわち胃や大腸、小腸を含む「腸」は、体内に取り込まれる栄養素と、有害物質とを厳密に選別する役割を担っています。

  

腸の内側を覆う上皮細胞は、血流へと移行してよい物質のみを通過させる「バリア」として機能しており、この仕組みが全身の免疫と代謝の安定を支えています。

 

しかし、慢性的なストレスや、それに関連する大うつ病性障害(major depressive disorder:MDD)などの精神疾患が存在すると、このバリア機能が徐々に損なわれていくことが知られています。

 

【用語】

・MDD

2週間以上にわたり抑うつ気分、興味・喜びの喪失、意欲低下、不眠、過眠、体重変化などが持続し、生活に支障をきたす精神疾患 

 

バリアが弱体化した状態では、腸管の透過性が異常に高まり、一般に「リーキーガット(leaky gut)」と呼ばれる状態に陥ります。

 

リーキーガットが生じると、本来は腸内に留まるべき細菌成分や毒素が血中へ漏れ出し、免疫系を刺激します。

 

その結果、全身性の炎症反応が引き起こされ、抑うつ症状の悪化や持続に寄与する可能性が指摘されています。

 

このような背景から、腸のバリア機能を強化する治療戦略が、うつ病の新たな補助的治療となり得るという考え方が近年注目されています。

 

 

腸と脳をつなぐタンパク質「Reelin」に注目

Reelinの構造

 

本研究の責任著者であり、ビクトリア大学医学部の教授である Hector Caruncho氏 は、(Reelin:以下リーリン)を基盤とした治療法が、腸と脳の双方に作用する可能性を秘めていると指摘しています。

  

リーリンは、糖タンパク質の一種であり、脳だけでなく、血液、肝臓、そして腸を含む全身に広く分布していることが知られています。

 

Caruncho氏は、「本研究の目的は、特に慢性ストレス下において、腸におけるリーリンの役割を理解することだった。腸と脳の相互作用、いわゆる腸脳相関(gut-brain axis)は、うつ病を含む多くの精神疾患を理解するうえで、ますます重要になっている」と述べています。

 

研究チームは前臨床モデルを用いた実験において、慢性的なストレスが腸内のリーリン量を有意に低下させることを確認しました。

 

しかし注目すべき点として、わずか3µgのリーリンを1回投与するだけで、低下した腸内リーリンレベルが正常値まで回復したことが示されました。

 

 

うつ病と腸修復を同時に結びつける証拠

これまでの研究により、大うつ病性障害と診断された人では、脳内のリーリン量が低下していることが報告されています。

 

同様の減少は、慢性ストレスにさらされたげっ歯類モデルでも観察されてきました。

 

さらに、これらの動物モデルにおいては、リーリンを静脈内に3µg単回投与することで、抗うつ薬様の行動改善効果が見られたことも過去の研究で示されています。

 

加えて、リーリンは腸の内壁、すなわち腸上皮の正常な再生に不可欠であることも明らかになっています。

 

本研究の筆頭著者であり、ビクトリア大学で神経科学の博士課程に在籍するCiara Halvorson氏は、「これらの結果を総合すると、リーリンは大うつ病性障害の管理において重要な意味を持つ可能性がある」と述べています。

 

特に、「うつ病と消化管疾患を同時に抱える人々にとって、意義深い知見となる可能性がある」と指摘しています。

 

 

腸の保護が精神的健康を支える可能性

 

通常、腸の内側を覆う上皮細胞は、4〜5日という非常に短い周期で新しく入れ替わっています

 

この迅速な再生は、食物や微生物など、潜在的に有害な物質に常にさらされている腸を守るために不可欠な仕組みです。

 

研究チームは、リーリンが腸上皮の再生を支えることでリーキーガットを防ぎ、その結果として、腸由来の炎症反応によって誘発される抑うつ症状の悪化を防ぐ可能性があると考察しています。

 

つまり、リーリンは単に精神症状に作用する分子ではなく、腸の構造的な健全性を維持することで、間接的にメンタルヘルスを支える役割を果たしている可能性が示唆されているのです。

 

 

臨床応用には課題も残る

もっとも、本研究は前臨床段階の成果であり、リーリンを用いた治療が直ちに臨床で利用できるわけではありません

 

また、腸のバリア機能の改善と抑うつ症状の軽減との因果関係についても、現時点では完全に解明されたとは言えず、一部の解釈については仮説段階に留まっている点も明記しておく必要があります。

 

それでも本研究は、脳だけでなく腸にも同時に働きかけるという、従来とは異なる視点からのうつ病治療の可能性を提示しています。

 

  

まとめ

・慢性ストレスは腸のバリア機能を低下させ、炎症を介して抑うつ症状を悪化させる可能性が示された

・糖タンパク質であるリーリンは、腸の修復と抗うつ様効果の双方に関与する可能性があり、単回投与でも効果が観察された

・現時点では前臨床研究であり、臨床応用にはさらなる検証が必要だが、腸と脳を同時に標的とする新しい治療戦略として注目される

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