グルテン不耐症だと思っていた症状は、実は別の要因かもしれない

科学
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近年、ソーシャルメディアやライフスタイル誌、その他複数の研究からも、小麦・ライ麦・大麦に含まれるグルテンを「健康に悪い成分である」という旨の情報が発信されています。

 

その結果、多くの人々がグルテンフリーの食生活へと関心を向け、商品の付加価値としても機能しています。

  

アスリートやセレブリティも、健康維持やパフォーマンス向上の秘訣としてグルテン除去を推奨してきたことから、その流れはさらに強まりました。

 

しかし今回、医学誌The Lancetに掲載された最新の研究では、グルテンそのものが症状の原因であるケースは驚くほど少ないことが明らかにされています。

 

この研究では、何十年にもわたる文献を精査した結果、多くの人が「グルテンに反応している」と信じていても、実際には症状を引き起こしているのは別の要因である可能性が高いと主張されています。

   

特に、グルテン摂取後に腹部症状を訴えても、セリアック病や小麦アレルギーが検査で否定される人々は「非セリアック性グルテン過敏症」と呼ばれますが、今回の総説ではその診断の根拠が揺らぎつつあることが示されています。

  

今回のテーマとして研究の内容を以下にまとめます。

 

参考記事)

Your gluten sensitivity might be something else entirely, new study shows(2025/11/18)

 

参考研究)

Non-coeliac gluten sensitivity(2025/10/22)

 

  

非セリアック性グルテン過敏症とは何か

 

セリアック病は、グルテン摂取によって免疫系が自己の組織を攻撃し、腸に炎症や損傷を生じさせる疾患です。

 

一方で、腹痛、膨満感、倦怠感などの症状があるにもかかわらず、セリアック病や小麦アレルギーの検査で陰性となる人々がいます。

 

これらの人は長らく「非セリアック性グルテン過敏症」と呼ばれてきました。

 

しかし、この概念そのものが正確なのかどうか、以前から議論されてきました。

 

今回の総説研究では、症状の真の原因が本当にグルテンなのか、それとも他の成分や心理的要因なのかを多角的に検討した点に特徴があります。

 

 

研究の方法──58以上の研究から症状変化を総合的に分析

今回の総説は、症状の変化を観察した研究や、症状が起こるメカニズムに関する試験を含む58件以上の研究データを統合した上で分析されました。

  

データの主な対象は以下のものが含まれていました。

・免疫系への影響

・腸粘膜バリアの状態

・腸内細菌叢

・心理的要因

 

その結果、グルテンに特異的な反応が起こるケースは非常にまれであり、反応があったとしても症状の程度は小さいことが分かりました。

 

さらに興味深いのは、「自分はグルテンに敏感だ」と信じている人が、プラセボに対しても同じかそれ以上の反応を示す例が多く確認された点です。

 

この結果は、グルテン以外の要因が関与している可能性を強く示唆しています。

 

 

FODMAPとの関連──本当の原因は別にあるのか 

特に注目すべきは、低FODMAP食の研究です。

 

FODMAPとは発酵性の糖質で、果物、特定の野菜、豆類、穀物などに含まれています。

 

その一種であるフルクタン(玉ねぎ・にんにく・小麦に多い)によって、グルテンよりも強い膨満感や不快感が生じたことが、ある重要な臨床試験で確認されました。

 

この結果は、多くの人が「グルテンが悪い」と感じる理由が、実際にはFODMAPなど他の成分に対する過敏性である可能性を示しています。

 

また、小麦に含まれる別種のタンパク質や、過敏性腸症候群(IBS)に見られる腸と脳の相互作用の異常が関与している可能性も指摘されました。

 

つまり、「グルテン=症状の原因」という理解は、科学的には必ずしも正しくないということです。

  

 

心理的要因とノセボ効果

 

今回の総説で最も一貫して確認されたのは、症状が「起こるはずだ」という期待が、実際の症状を大きく左右するという点です。

 

盲検化された試験では、参加者がグルテンを摂取したかプラセボを摂取したかを知らされていない場合、症状の差はほとんど消えていました。

 

中には、「グルテンを食べたら具合が悪くなる」と強く信じている人が、プラセボ摂取時に同じ症状を示す例もありました。

 

これは「ノセボ効果」と呼ばれる現象で、期待や不安が脳の痛覚処理に影響し、腸の感覚を過敏にさせます。

 

脳画像による研究でも、期待や感情が痛みや脅威の知覚に関わる脳領域を活性化させることが示されており、心理的な要因が腸の症状を劇的に増幅させることが分かっています。

  

ここで重要なのは、症状が「想像」ではなく、脳と腸の相互作用によって引き起こされる「実際の生理反応」であるという点です。

 

 

なぜ「グルテンフリー」で体調が良くなるのか 

では、なぜ多くの人がグルテンを除去すると体調が良くなったと感じるのでしょうか。

 

今回の研究では、その理由として以下の点が指摘されています。

  

・グルテンを避けることで、高FODMAP食品や超加工食品が減る

・自然と果物、野菜、豆類、ナッツ類など、栄養価の高い食品が増える

・「体に良いことをしている」という心理的安心感が得られる

・マインドフルな食事に近づくため、消化に良い行動が増える

 

つまり、グルテンを避ける行為そのものではなく、「食生活全体が改善する」ことが体調改善の主因である可能性が高いのです。

 

 

グルテンフリーを続けることの代償

セリアック病の人にとっては、生涯にわたる厳格なグルテン回避が必須です。

 

しかし、それ以外の人が安易にグルテンフリーに移行すると、金銭面や栄養面のバランスなど一定のデメリットが生じるとされています。

 

具体的には……。

・グルテンフリー食品は通常より平均139%高価

・食物繊維や主要栄養素が不足しやすい

・食事の多様性が失われ、腸内細菌叢のバランスが崩れやすい

・「グルテン=悪い」という考えが固定化し、不安感が強まる

   

これらは、必要以上の食事制限が新たな健康問題を生む可能性を示しています。

 

 

どのように診断すべきか──検査と段階的アプローチ

 

非セリアック性グルテン過敏症には確立したバイオマーカーがなく、血液検査や組織検査では診断できません。

 

そのため、診断には除外診断と慎重な食事テストが必要です。

  

研究では、医療従事者に以下の手順が推奨されています。 

1. 最初にセリアック病と小麦アレルギーを除外する

2. 食事全体の質を改善する

3. 症状が続く場合は低FODMAP食を試す

4. その後、必要であれば4〜6週間の管理栄養士監督下でのグルテン除去試験を行い、再導入テストを実施する

  

このように段階的に進めることで、不要な長期除去を避け、症状の原因をより正確に見極められるとしています。

 

さらに、もしグルテンが原因ではない場合、食事指導と心理的サポートを組み合わせた介入が最も効果的だとしています。

 

ストレス、期待、不安が症状に強く影響するため、認知行動療法や曝露療法が役立つケースもあります。

 

今回の総説研究は、グルテンに対する一般的なイメージを大きく覆す内容でした。

 

特に、症状の多くがグルテンそのものよりも、FODMAPや心理的要因によって起こる可能性が高い点は興味深いです。

 

 

まとめ

・多くの「グルテン過敏症」の症状は、実際にはFODMAPや心理的要因によって生じている可能性が高い

・盲検試験では症状差がほとんどなく、ノセボ効果が症状に強く影響していることが示されている

・診断には段階的アプローチが重要で、不必要なグルテン除去は栄養不足や不安の固定化などの問題を引き起こす可能性がある

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