たんぱく質は、筋肉や臓器の材料として不可欠であるだけでなく、腸内環境にも多様な影響を与える栄養素です。
近年の研究では、たんぱく質の摂取量が腸内細菌の構成や腸壁の状態、さらには体全体の炎症反応にも関わる可能性が指摘されており、その作用は「良い面」と「悪い面」の両方を併せ持つことが分かってきています。
本記事では、たんぱく質が腸内環境と消化に及ぼすプラスの影響から、過剰摂取によって起こり得るマイナスの作用、さらにその影響を左右する要因について、付随する研究を基にまとめます。
参考記事)
・What Happens to Your Gut Health and Digestion When You Eat More Protein(2025/11/15)
参考研究)
・Therapeutic Benefits and Dietary Restrictions of Fiber Intake: A State of the Art Review(2022/06/16)
たんぱく質摂取が腸にもたらす良い影響
たんぱく質は、体の組織の修復や成長の基盤となる重要な栄養素ですが、腸内環境にもさまざまなメリットをもたらすことが知られています。
1. 善玉菌の増加を促す
腸内には膨大な数の細菌が共存しており、その集合体は「腸内マイクロバイオーム」と呼ばれています。
近年の研究では、特に植物由来のたんぱく質が腸内の酪酸産生菌(butyrate-producing bacteria)を増やす可能性が示唆されています。
酪酸は短鎖脂肪酸(SCFA)の一種で、腸の健康維持に極めて重要な働きを持っています。
【短鎖脂肪酸の主な役割】
・腸のエネルギー源になる
・炎症を抑制する
・腸壁の修復を助ける
Health Benefits and Side Effects of Short-Chain Fatty Acidsより
これらの作用を通じて、腸内のバリア機能の強化に寄与すると考えられています。
2. 有益な代謝産物(メタボライト)の生成に寄与する
たんぱく質が消化されずに大腸に到達すると、腸内細菌によって短鎖脂肪酸(SCFA)が生成される場合があります。(Dietary protein from different sources escapes host digestion and is differentially modified by gut microbiotaより)
SCFAは、腸のエネルギー源となり、腸壁を強化し、炎症を抑えるなど、多くの利益をもたらす物質です。
ただし、SCFAは食物繊維の発酵でも生成されるため、たんぱく質からの生成がどの程度健康に貢献しているかについては研究によりばらつきがあり、まだ解明途上の部分も多い分野でもあります。
3. 腸壁(バリア機能)の修復を助ける
たんぱく質は分解されるとアミノ酸になり、その一部は腸の上皮細胞の修復に使われます。(Functions and Signaling Pathways of Amino Acids in Intestinal Inflammationより)
特に必須アミノ酸は腸壁の細胞の再生を促進するとされ、腸のバリア機能を守るうえで欠かせない存在です。
4. 抗炎症作用を持つアミノ酸が含まれる

グルタミン、グリシン、システインなどのアミノ酸は、腸の炎症を抑える働きが指摘されています。(Functions and Signaling Pathways of Amino Acids in Intestinal Inflammationより)
これらは炎症性サイトカインの働きを抑制し、炎症性腸疾患(IBD)などの症状改善に役立つ可能性があります。
たんぱく質摂取が腸にもたらす悪い影響
一方で、たんぱく質を多く摂りすぎると、腸内環境に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。
1. 有害な代謝産物を増やす

たんぱく質やアミノ酸が分解される過程で、アンモニアや硫化水素といった有害物質が生成されることがあります。(What we know about protein gut metabolites: Implications and insights for human health and diseasesより)
これらは腸壁にダメージを与え、炎症、大腸の機能低下、肥満、糖尿病、がんといった疾患と関連する可能性があると指摘されています。
ただし、これらの関連性の強さについては研究によって異なるため、明確に断言できない点もあります。
2. 腸内細菌バランスの乱れを引き起こす
たんぱく質を過剰に摂取すると、ビフィズス菌やRothiaといった身体に有益な効果がある菌が減少し、逆にBacteroides fragilisのような潜在的に有害な細菌が増えることが報告されています。
これが腸壁に負担をかけ、疾患リスクを高める恐れがあるとされています。
3. 感染症リスクを高める可能性

腸内環境が乱れ、身体に有害な影響をもたらす菌が優勢になると、感染症にかかりやすくなることがあります。(The relationship between gut microbiome and human diseases: mechanisms, predisposing factors and potential interventionより)
また、腸壁のバリア機能低下が生じると、
・パーキンソン病
・二型糖尿病
・肥満
といった疾患の発症リスク増加との関連も示唆されています。
これらの因果関係については、今後の研究が必要である点には注意が必要です。
4. 消化器症状を悪化させることがある
植物由来のたんぱく質は食物繊維を多く含みますが、繊維の消化が不十分な場合は、ガスの増加、腹部膨満感、下痢などを引き起こすことがあります。
さらに、たんぱく質不耐症の人では、吐き気、腹痛などの症状が現れることもあります。
たんぱく質の影響を左右する3つの要因
たんぱく質を摂ったときの影響は、人により大きく異なる場合があります。
その背景には、以下のような要因が関係していると考えられています。
1. どの種類のたんぱく質を摂るか

・動物性たんぱく質(肉、魚、卵)
必須アミノ酸を豊富に含むが、食物繊維が 少ないため腸内細菌の多様性を減らす可能性もある。
・植物性たんぱく質(豆類、穀類)
消化しきれない繊維を含むため、腸内で発酵しやすいが、腸内細菌の多様性を高め、腸壁の強化に寄与する可能性がある。
どちらの種類も一長一短であり、バランスよく摂取することが重要であると考えられています。
2. 加工方法
加工食品に含まれるたんぱく質(プロテインバー、シェイクなど)は、イヌリン、エリスリトールなどの人工甘味料や添加物を含み、これらが消化不良やガスの発生の原因になることがあります。(The role of fiber in modulating plant protein-induced metabolic responsesより)
加工段階で栄養構造が変化し、体内での吸収効率にも影響する可能性が指摘されています。
3. 摂取量

たんぱく質を多量に摂取すると、短鎖脂肪酸の生成、有害代謝産物の生成の両方が起こり得ます。(High-Protein Diet May Impact Gut Microbes and Body Compositionより)
つまり、たんぱく質の極端な過剰摂取は腸内環境の悪化につながる可能性があるため、適量の範囲を守ることが重要です。
たんぱく質摂取の適量は、その人の生活習慣や既往歴など個人によって大きく異なりますが、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、成人(18~64歳)で 男性 65 g/日、女性 50 g/日 が 推奨量 とされています。
この数値は「ほとんどの人が必要量を満たせる量」と定義されているものです。
以下のような食品をバランスよく摂取することで達成可能でもあります。
鶏むね肉 100g:22–24 g
豚ロース 100g:19 g
鮭 1切れ(80g):20 g
卵 1個:6 g
木綿豆腐 1/2丁(150g):10 g
納豆 1パック:8 g
ご飯 1杯(150g):3 g
現在、何らかの疾患がなかったり、体に違和感がない場合は神経質になる必要はありませんが、摂取する目安としては参考になるでしょう。
「過ぎたるは及ばざるが如し」の言葉通り、摂りすぎには少し注意が必要なようです。
まとめ
・たんぱく質は腸内環境に良い影響を与える一方、過剰摂取は腸内細菌バランスを乱したり有害物質を増やす可能性がある
・影響はたんぱく質の種類、加工方法、摂取量によって大きく変化する
・特定の研究機関名や大学名は元記事に記載がなく不明であり、記事の内容には未解明の点や研究により差のある部分が存在する
・しかし、たんぱく質の摂取過多による体への負担は無視できないものである



コメント