コーヒーと抗生物質の同時摂取による弊害

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私たちの日常に欠かせない飲み物であるコーヒー。

 

このコーヒーに含まれるカフェインが、抗生物質治療に思わぬ影響を及ぼす可能性があるという研究結果が発表されました。

 

ドイツを拠点とする研究チームは、大腸菌(Escherichia coli)がカフェインに曝露されたときの反応を詳細に分析し、抗生物質の取り込みに変化が生じることを突き止めました。

 

この発見は、私たちの食習慣や飲み物の選択が、細菌感染症の治療成績に直接的に関与する可能性を示している点で注目を集めています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Mixing Coffee And Antibiotics Could Be a Bad Idea, Study Shows(2025/08/25)

参考研究)

Systematic screen uncovers regulator contributions to chemical cues in Escherichia coli(2025/07/22)

 

 

研究の背景

 

本研究は、ドイツのヴュルツブルク大学に所属する微生物学者 Christoph Binsfeld 氏らの研究グループを中心に行われ、さらに ドイツ・テュービンゲン大学の研究者も参加した国際共同研究です。

 

研究チームはまず、94種類の化学物質が大腸菌にどのような変化をもたらすかを体系的に調査しました。

 

特に注目したのは、細菌の細胞膜を通じて「何を取り込み、何を排出するか」を調節する仕組みです。

 

これは抗生物質の効果と深く関係しており、薬剤が細胞内に入らなければ殺菌効果は十分に発揮されません。

 

その結果、調査した物質の約3分の1が細胞内外の物質輸送に関連する遺伝子の働きを妨げることが確認されました。

 

その中で特に顕著だったのがカフェインであり、大腸菌はカフェインに曝露されると、一部の抗生物質、特にシプロフロキサシンの取り込みが減少していたのです。

 

 

「低レベル抗生物質耐性」という概念

この現象は「低レベル抗生物質耐性」と呼ばれており、細菌が直接的に抗生物質を分解したり無効化したりするのではなく、遺伝子の働き方や細胞の反応の仕方が変化することで、間接的に薬剤の効果が弱まる現象を指します。

 

そのため、一般的に知られている薬剤耐性細菌が特定の抗生物質に対して抵抗性を持つこと)とは異なる種類の現象に分類されています。

 

ヴュルツブルク大学のChristoph Binsfeld 氏は、「私たちのデータは、複数の物質が細菌の遺伝子調節に微妙ではあるが体系的な影響を与えることを示している」と述べています。

 

この低レベル耐性は、これまで十分に解明されていない分野でもあります。

 

細菌は環境に適応するために複雑な仕組みを利用しており、その詳細を明らかにすることは感染症治療の新たな手がかりとなります。

 

 

カフェインと遺伝子調節因子「Rob」

Systematic screen uncovers regulator contributions to chemical cues in Escherichia coliより

  

研究チームの解析で特に重要な役割を果たしていたのが、Rob と呼ばれるタンパク質 です。

 

Rob は遺伝子の発現を制御する調節因子のひとつであり、細胞膜を通じた物質輸送の管理に深く関与しています。

 

調査によると、Rob は観察された変化全体の約3分の1に関与していました。

 

カフェインの影響もまさに Rob を介して生じており、次のような一連の反応が確認されました。

1. カフェインが大腸菌に取り込まれる

2. Rob が活性化される

3. 複数の輸送タンパク質の働きが変化する

4. 結果として抗生物質(例:シプロフロキサシン)の取り込みが減少する

 

テュービンゲン大学の生物工学者Ana Rita Brochado氏は、この現象について次のように述べています。

 

カフェインは遺伝子調節因子 Rob から始まる一連の連鎖反応を引き起こし、最終的に大腸菌の複数の輸送タンパク質の変化をもたらす。その結果、シプロフロキサシンのような抗生物質の取り込みが減少する

 

【用語】

・シプロフロキサシン

細菌のDNA複製に必要な酵素(DNAジャイレースとトポイソメラーゼIV)を阻害し、細菌の増殖を防ぐ効果がある

 

 

研究の限界と未解明の点

 

研究チームはこの実験をすべて実験室内で行っており、人間の体内で同様の現象がどの程度起こるのかはまだ不明です。

  

実際にどのくらいのコーヒーを飲めば抗生物質の効果に影響を及ぼすのかは分かっていません。

 

そのため、現時点で「抗生物質を服用している患者はコーヒーを避けるべきだ」と断言することはできません。

 

さらに興味深いことに、同じ実験を サルモネラ菌(Salmonella enterica) に対して行ったところ、カフェインによる抗生物質効果の低下は観察されませんでした。

  

このことから、カフェインの影響は細菌の種類によって異なり、特定の菌に限られる可能性が高いと考えられます。

 

この研究は、細菌感染症の治療において私たちの生活習慣が予想以上に大きな役割を果たす可能性を示しています。

 

抗生物質耐性はすでに世界的な公衆衛生の危機とされていますが、「低レベル抗生物質耐性」の理解が進めば、より効果的な治療法の確立につながる と期待されています。」

 

 

まとめ

・コーヒーに含まれるカフェインが、大腸菌の抗生物質取り込みを減少させる可能性があることが判明した

・遺伝子調節因子(Rob)が重要な役割を果たし、低レベル抗生物質耐性につながる仕組みが示唆された

・人間の体内でどの程度影響があるのかはまだ不明であり、今後さらなる研究が必要

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