腸脳相関という言葉が知られるようになって久しい昨今、腸と脳が密接に関係していることが多くの研究によって明らかになりつつあります。
名古屋大学の研究から、神経伝達物質の生成や調節にも深く関係している腸が、神経疾患の一つであるパーキンソン病に深い関わりがあることが示されました。
研究チームは、パーキンソン病患者の腸内に存在する特定の微生物が、リボフラビン(ビタミンB2)とビオチン(ビタミンB7)の減少と関連していることを突き止めました。
この発見は、サプリメントというシンプルな方法で症状を緩和できる可能性を示唆しています。以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Parkinson’s Link to Gut Bacteria Hints at an Unexpected, Simple Treatment(2025/08/09)
参考研究)
・Meta-analysis of shotgun sequencing of gut microbiota in Parkinson’s disease(2024/05/21)
または、「ビタミンB投与がパーキンソン病治療につながる可能性 ~腸内細菌叢解析から解明~」より
名古屋大学が主導した国際比較研究

この研究は名古屋大学の医学研究者である西脇寛氏らによって主導されたもので、2024年5月に「npj Parkinson’ s Disease」にて発表されました。
研究チームは、パーキンソン病患者94名と、比較的健康な73名の便サンプルを採取し分析しました。
対象者は日本国内に居住しており、その結果を中国・台湾・ドイツ・アメリカのデータと比較することで、地域差や共通点を検討しました。
分析の結果、国や地域によって関与する腸内細菌の種類は異なっていたものの、いずれも体内でビタミンB群を合成する経路に影響を与えていることがわかりました。
つまり、腸内細菌の構成が変化することで、ビタミンB2やB7の体内合成量が減少している可能性が高いということです。
ビタミンB不足と腸内環境の悪化
研究では、パーキンソン病患者において、ビタミンB2とB7の合成に関わる遺伝子を持つ腸内細菌が減少していることが確認されました。
このビタミン不足は、短鎖脂肪酸(SCFA)やポリアミンの減少とも関連していました。
これらの物質は腸の粘膜層を健全に保つ役割を果たしており、その不足は腸粘膜の薄化や腸の透過性の増加につながります。
西脇氏は、ポリアミンや短鎖脂肪酸の欠乏は腸の防御層を弱め、腸内神経系が環境中の毒素にさらされやすくなる現象について説明しており、この状態はパーキンソン病患者で確認されている現象です。
環境毒素とパーキンソン病の進行
腸粘膜が弱まることで、私たちが日常的に接する洗浄剤、農薬、除草剤などの化学物質が、腸の神経系に直接影響を与える可能性があります。
こうした毒素は、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が異常凝集した繊維(フィブリル)を過剰に生成させます。
これらの凝集物は脳の黒質にあるドーパミン産生細胞に蓄積し、神経系の炎症を引き起こし、最終的には筋肉制御障害や認知症など、パーキンソン病特有の症状を悪化させます。
この発症メカニズムは複雑で、患者ごとに原因が異なる可能性もあります。
そのため、一律の治療ではなく、個別の評価と対応が必要であると研究チームは指摘しています。
ビタミンB補給の可能性と既存研究の示唆

過去、2003年の研究では、高用量のリボフラビン摂取が、赤身肉を食事から除いた患者において一部の運動機能を回復させる効果を持つことが報告されています。(High doses of riboflavin and the elimination of dietary red meat promote the recovery of some motor functions in Parkinson’s disease patientsより)
この知見と今回の研究結果を踏まえると、ビタミンBの高用量補給が腸内環境を改善し、症状の進行を抑える可能性があります。
西脇氏は、「患者の腸内細菌叢分析や便中代謝物分析を行い、特定のビタミン欠乏を持つ人を特定し、その不足を補う形でリボフラビンやビオチンを経口投与することで、効果的な治療につながる可能性がある」という旨の見解を述べています。
これは、ビタミンによって腸内細菌の健全なバランスを保つことや、環境中の有害物質への曝露を減らすことも、パーキンソン病の予防・進行抑制に有効かもしれません。
しかし、現段階ではすべての患者に同じ原因が当てはまるわけではないため、実際にビタミンB補給がどの程度効果を持つかは、今後の臨床試験で慎重に検証する必要があります。
今回の研究は、パーキンソン病の複雑な発症メカニズムの一端を明らかにし、腸内環境と栄養状態の改善という新しい治療アプローチの可能性を示しました。
現時点では、まだ確定的な結論には至っていないものの、栄養補給と腸内細菌の調整という比較的安全で簡便な方法が症状の緩和や進行抑制につながるかもしれません。
まとめ
・パーキンソン病患者の腸内細菌変化がビタミンB2・B7不足と関連していることが判明
・ビタミンB不足は腸の粘膜層の弱体化や毒素曝露リスク増加と関係し、症状進行に関与する可能性がある
・ビタミン補給や腸内環境改善が新たな治療法になる可能性があるが、今後の臨床検証が必要


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